第9話/悪妻は靴をミキサーにかける
妻は派手な夜遊びが好きで、マスコミから『悪妻』と呼ばれていた。
対照的に、私は生真面目で堅物な野球バカで、それ以外はからきしの、鈍い男に映っていたようだ。(私は妻以外女を知らず、概ねその通りだったわけだが)
私はメディアに対し、妻への感謝の言葉を欠かさずに謳い続けた。不仲を囁かれるのは、面倒だったからだ。実際に、世間の方が正しかった。
私自身いい訳をしながら、同時に理想と現実をごっちゃにしていたのだ。
感情的な、激しい性格にも悩まされていた。
私がまだ若い頃、酔っぱらって靴を片方無くして帰ってきたときの話だ。
その日はシーズンの優勝を決め、人生で初めてのビールかけをした日だった。私は一滴も飲まなかったが、毛穴から染み込んだ酒で充分に酔っていたのだ。
最高の気分だった。
新設して七年目のチームの初優勝。私は、優勝請負人と呼ばれる活躍した。
努力が一つの実を結んだ瞬間でもあったのだ。
妻は浮かれた私を見るなり、擦り切れそうな声をだして怒鳴りつけた。怒りに任せ、もう片方の靴をミキサーにかけようとした。機械はショートした。
なくなったのは私の靴であるというのに、なぜ彼女がそこまで怒るのか。
呆然としながら、彼女の口汚い罵りを受け入れるしかなかった。頭に火照りは感じたが、不思議と苛立ちはなかった。
優勝した記念すべき日で、何もかも許せるくらい、機嫌がよかったから?
いや、違う。
私が彼女を対等に扱っていなかったからだろうな。
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