第4話/スコアをつけるということは、アリの巣作りの観察日記を付けるようなもの(らしい)

 その成績は、移籍後のチームのスコアラーの男と、酒を交わしたときに聞かされたものだ。私よりも一回り年下で、短く刈り込んだ坊主頭を、いつも神経質そうな指先で撫でていた。

 唯一のまともな友人と言ってもいい。(他のチームメイトは、私を老いぼれた転校生程度にしか扱わなかった)

 彼は、休日もスコアブックを眺めているのだという。読み進めるうちにひどく興奮してくるのだそうだ。

 それも、性的な興奮。

 スコアラーは言う。

「ぼくは妻とは月に一度しか寝ないけど、スコアブックは毎日欠かさず読んでいる。中だって、頭の中はダイヤモンドでいっぱいさ」

「それなら、ホームベースと結婚すればいいじゃないか」と私は軽口を叩いた。

 彼は言葉に詰まった後、「それも考えたよ」と真剣に呟いた。

 彼はホームベースを(すなわち野球を)愛しすぎるあまり、倉庫のベースを全て焼きつくそうと放火未遂をはたらいたほどである。

 たぶん、このチームの誰もが彼を嫌っていただろう。だが、私は彼に好感を持っていた。

 少なくとも、人から好かれようと愛想を振りまいていないあたりはいい。

 うんとクレイジーだ。

 もっとも彼は我々を、(私を含め)人間ではなく、アリくらいにしか思っていなかったようだ。

 スコアをつけるということは、アリの巣作りの観察日記を付けるようなもんだろう。

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