第15話015「帯同」



「身体強化!」

「ファイヤバレット!」

「サンダーランス!」

「縮地!」

「ソードウィンド!」


——20階層


 探索者集団シーカー・クラン『一進一退』と『帯同』をはじめて3時間ほどで20階層に到着。そして、エリンさんたちが普段活動拠点として使っている20階層の狩場へ行くと、魔物を見つけては魔法やスキルでバンバン倒しまくっていた。


「これがD級探索者シーカーの強さ⋯⋯」


 俺は今まで一人でダンジョン活動をしていたので、こういった『パーティー』の戦い方を初めて見た。最初、リーダーのエリンさんが言っていたように、確かに連携が取れてバランスの良い探索者集団シーカー・クランと感じる。これを見れば、D級探索者シーカーなのに20階層で活動していると言ってたことも頷ける。


「ハハハっ! 驚いた?」

「ええ、すごいですね」

「ナハハハ、照れる〜!」


 と、エリンさんは俺としゃべりながらも20階層の魔物をザックザックと切り裂いていた。まさに無双状態だ。


 エリンさん、怖え〜。


 ちなみに、他の3人のメンバーも全員女性だ。さっき「どうして女性だけで組んでいるんですか?」と聞くと「私が異性よりも同性のほうが連携取りやすいからなんだよね〜」とのことだった。まー実際、この戦いぶりを見れば男性を入れる必要などないだろう。


 さて、そんなこんなで間近で戦闘を見せられた俺は、魔法やスキルのことをその都度説明をしてもらった。もちろん『自動最適化オートコンプリート』で自分の魔法・スキルとして獲得するためだ。


 こうして、エリンさんたちとの帯同の一日が終わった。


「ありがとうございましたっ!!」

「お疲れ〜。どう? 勉強になったかな?」

「はい、それはもう! とても勉強になりました」

「うんうん、そうか。君は素直で可愛いな〜。また、帯同したかったら声かけなよ!」

「はい、ありがとうございます」

「じゃ〜ね〜」


 俺はエリンさんに手を振り別れを告げた後⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯今度は一人・・でダンジョンに潜った。



********************



「身体強化」

「ファイヤバレット」

「サンダーランス」

「縮地」

「ソード・ウィンド」


 俺はさっきエリンさんや『一進一退』のみんなが使っていた魔法やスキルを使いこなせるまで何度も試した。⋯⋯⋯⋯21階層・・・・で。


「ふむ、これで一通り使いこなせるようになったな⋯⋯」


 普段、俺が一人で活動しているのは25階層・・・・なのだが、さっき獲得した魔法やスキルを体に慣れさせる必要があったため、安全を考え一旦上の階層へ戻っていた。


「しかし、すごいな。唐沢が言ってたとおり『帯同』でこんなにも魔法やスキルが獲得できるとは驚きだ。唐沢の言う通り、しばらく『帯同』を続けることができれば、かなりの数の魔法やスキルが獲得できるかもしれないな」


 ニチャア。


 そんな感じで、俺は次の日も、また次の日もギルドで先輩探索者シーカーを捕まえては『帯同』をお願いして回った。


 先輩探索者シーカーも最初は避けてたものの、必死に何度も声をかけた俺に折れると、その後からはスムーズに帯同させてくれた。ちなみに、この声かけのおかげで先輩に名前を覚えてもらえるようになったのは副産物だ。


 帯同した後はすぐに一人でダンジョンに入り獲得した魔法やスキルを試す⋯⋯そんな生活を約2週間ほど続けた。


 その結果がこれだ。


——————————————————


名前:新屋敷ソラ


レベル:21


魔法:<初級>ファイヤバレット/ファイヤランス/ウィンドバレット/サンダーバレット/サンダーランス/ソードウィンド/コールドブレス/サンドアタック

スキル:<初級>身体強化/縮地/怪力/忍足

恩寵ギフト自動最適化オートコンプリート


——————————————————


「ふむ。だいぶ貯まったな⋯⋯魔法とスキル。特に魔法がかなり増えてる」


 帯同2週間の成果は、正直⋯⋯途轍もなかった。


 今回、獲得できた魔法もスキルもすべて初級魔法・初級スキルではあるが、F級探索者シーカーの俺にとっては重宝する魔法・スキルばかりだった。


 元々、一人でダンジョン探索をしていたが、帯同する前の俺は当然資格試験のときに獲得した初級魔法『ファイヤバレット』と初級スキル『身体強化』しかなかった。


 それでも、1〜20階層までに出てきた魔物は主に『スライム・ゴブリン・コボルト・オーク』とファンタジー定番魔物だったので、これまで培ったラノベ知識を活かして魔物を倒すことができた。


 そんなこんなで、気づけばレベルが『10』まで上がり、全体的な基礎の身体能力も上がったことで気づけば単独で20階層まで進出することができていた。


 ただ、レベルが『10』になってからは簡単にレベルが上がらなくなっていたこともあり、「これからさらに階層を進めるためにもっと効率よくレベルを上げたいがどうすれば⋯⋯」と考えていた矢先、唐沢から『帯同』の話を聞いた。結果、これで魔法とスキルが一気に増えたおかげで階層を『29階層』まで進めることができたのである。


 そして、ここまで来てふと感じた疑問・・があった。


「それにしても唐沢が言っていた『魔力切れ』の兆候が一向に見られない⋯⋯?」


 そう、唐沢に「魔法やスキルの使い過ぎによる魔力切れを注意しろ」と言われていた俺は、そのことを常に意識しながら魔物と戦っていたが、正直『気分が悪い』とか『ダルい』といった魔力切れの症状は一度も出たことがなかった。


 そこで、一度魔力回復ポーションを買っていつでも飲める準備をした状態で、魔法やスキルを『使えるところまで全開で使ってみよう』という実験をしてみた。しかし、結果は⋯⋯、


「魔力切れが⋯⋯起こらない?」


 そう、魔法やスキルを全開で使ってみたものの一向に魔力切れを起こすことはなかったのだ。


 最初は「さすがにそんなはずはない、あり得ない!?」と動揺した。なぜなら魔力は体内に蓄えられているその容量分の範囲内でしか魔法やスキルは使えないはずだからだ。


「となると、よっぽど魔力の容量が大きいということなのかな?」


 結局、その疑問はいまだ解決していないが、とりあえず『簡単には魔力切れを起こさないだけの豊富な魔力量がある』という『とりあえずの解答』で俺は自分を納得させた。まー、マイナスなことではないしね。


「さ、さすがに、魔力容量無制限・・・なんてこと⋯⋯アルマーニ」



********************



「それにしても、俺って少しは・・・強くなったんじゃないだろうか?」


 突然、ふと自分の現状を見てそう感じた。


 まず探索者シーカーランクごとの活動拠点の目安が、地下1〜10階層までが『F級』、11〜19階層までが『D級』、そして、20〜50階層までが『C級』と言われているが、ランクごとの活動拠点よりもさらに下の階層で活動できる探索者シーカーも存在する。


 つまり、『探索者シーカーのレベルが高い場合』である。実際、俺がそれにあたる。


 このように探索者シーカーランクとレベルに乖離がある状態の場合、ギルドから報告するよう言われているのだがそれは義務ではない。というのも、ギルドに報告したところでメリットがないためだ。


 実際、それを報告したからといって、探索者シーカーランクが上がるわけではないので、探索者シーカーがわざわざ報告しないのも仕方ないだろう。


 ちなみに、『探索者シーカーランクとレベルに乖離がある』というのが『犯罪の温床』になっている事実もあるので、ギルドとしては「ギルドへの報告を義務付けして犯罪を減らしたい」という気持ちがあるのもわかるが、探索者シーカーにメリットがない今の現状では難しいだろう。


 そんな、探索者シーカーランク以上にレベルが上がった俺は25階層で探索活動しているが、本来単独で20階層を超えるにはかなりレベルアップが進まないとできない。


 しかも、レベルが上がれば上がるほどレベルアップに必要となる魔物を倒して得られる『経験値のようなもの』の要求は増えていく。


 当然、魔物ごとの得られる経験値は変わらないので、レベルアップしにくくなるのだが『自動最適化オートコンプリート』のおかげで、通常の探索者シーカーよりも効率的に、且つ最短で魔物を倒しまくることができたと思う。


 その結果が現在25階層で活動できるだけのレベルアップにつながっているのだろう。


「やっぱ、自動最適化オートコンプリートのおかげだよな⋯⋯」


 そして、この現在のレベルを見れば俺の実力はすでに『C級ランカー』くらいにはなっているはずだと思う。となれば、すぐにでもE級ランカーの試験を受けようと思ったが、


「ダンジョンでの探索活動は常に『死』と隣り合わせだ。E級ランカーになってもっと効率よくレベリングしたい気持ちもあるが、今しばらくは焦らずこのダンジョンで力と経験を蓄え、しかるべき時が来たら動こう⋯⋯」


 ということで、E級ランカーへの昇格試験を受けるのは断念した。


 ここはゲームの中でもなければ、ラノベやアニメの世界でもない紛れもない現実。ちゃんとそこにある現実リアルだ。攻撃を受ければ痛いし、運が悪けりゃ死ぬことだってある。だから、基本『慎重すぎる』くらいがちょうどいいだろう。


「まーでも、ランク昇格したいという想いが強くなればやってもいいかな。まーそれは『その時の自分』が然るべき判断するだろう。俺は『未来の自分』を信じる」


 そう自分に言い聞かせながら、俺はさらに下へと続く階段へと向かった。


「よし! 今日中に30階層を目指すぞ!」

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