第14話014「褐色ビキニアーマーパイセン」



「さて、そんなわけだが⋯⋯」


 土曜日——今日は学校は休みだったので、朝7時に起きてダンジョンへ向かう準備をした。


 ちなみに、俺が探索者シーカーになったことは家族に黙っている。


 というのも『高校生探索者シーカー』が思っていた以上にレアケースということを知ったので、慎重になっているというわけだ。実際唐沢にも、


「お前、あまり『高校生探索者シーカー』の影響力がよくわかってないみたいだから、今はとりあえず家族には黙っとけ!」


 と、忠告されたので、今でも家族には沈黙を守り続けている。


 一応、唐沢に会う前に『探索者シーカー』には合格していたし、ダンジョンにも通っていたが、その時もなぜか「探索者シーカーになった」と家族に言うのを躊躇ためらって言っていなかった。⋯⋯が、それが結果的には今回賢い選択だったようだ。


 あの時の俺、グッジョブ!


「そんなことはどうでもいいのだが⋯⋯」


 で、俺は今いろいろと考えていたことがあった。それは唐沢が言っていた『先輩に付き添ってダンジョン探索をする』という『帯同』についてだ。


「『人見知りんせい』から来た俺が『先輩に声を掛ける』なんて、そんなベリーハードなミッションをこなすことができるだろうか? いや、無理だ! できるだろうか? いや、無理だ! できる⋯⋯」


 と、さっきから自分に勇気を奮い立たそうとするも、すぐに『メンタル下方修正』の自分がその決意をグシャッと踏みにじるという脳内ループを繰り返していた。


 ああ⋯⋯俺って精神メンタル弱すぎな。



********************



 ソラは「まずは現場にいくか」ということで、とりあえずギルドへと足を運んだ。現場に行けば「声をかける勇気が出るかも」と思ったからである。


「おはようございます」


 そう言って、俺は探索者シーカーの身分証を渡す。


 ちなみに、探索者シーカーに合格するとその場で身分証が発行される。その身分証には『名前・性別・年齢・探索者シーカーランク・口座』の情報が書いていて運転免許証のような大きさのカードだ。


 最初、「この項目の中の『口座』ってなんだろう?」と思っていたのだが、実はこれ、文字通り『銀行口座』のことで、これは『ギルドが管理している銀行口座』のことを意味する。ダンジョンで得た魔石や素材、アイテムなどをギルドで売るとこの講座に報酬が振り込まれるようになっている。


 このカード⋯⋯『身分証』だけでなく『お金の出し入れ』もできる優れものなのだ。


 ちなみに正式名称は『探索者シーカー身分証』だが、ほとんどの人は『身分証』と呼んでいる。




「あ、おはよう、ソラ君。今日は早いね!」

「休みなんで」

「そっか。学生くんだったね。あ、そういえば先日ここに美少女・・・がソラ君を訪ねに来てたぞ!」

「え? 美少女?」


 おだやかじゃないワードにピクリと反応するソラ。


「いや〜、ソラ君も隅に置けないな〜」

「誰ですか?」

「あれ? その子から聞いてない? だって友達なんでしょ?」

「ん? 友達なんていないですよ・・・・?」

「⋯⋯え?」

「あ、でも今は一人友達ができましたねぇ。⋯⋯男ですが」

「⋯⋯⋯⋯」


 ソラが淡々とした口調で『友達がいない』ということをさしたる問題でもないかのように話すのを見た窓口のお姉さん『石川琴音いしかわことね』は、「と、友達がいないなんて⋯⋯そんなことを当たり前のように⋯⋯」と涙を流しながらソラの話を「うんうん」と聞いていた。


「⋯⋯ソラ君、私は何があっても君の味方だからね!」

「え?」

「何かあったらお姉さんをいつでも頼っていいからね!」

「は、はあ⋯⋯」

「強く生きるんだよ!」

「うっ! は、はい⋯⋯?」


 そう言って、ソラは琴音に力強く背中を叩かれた。



********************



「何? 帯同? 間に合ってるよ」

「帯同? 君と? ハハハ、今はそんな気分じゃないかな。失礼する」



 琴音と別れたあと、ソラは勇気を出して『先輩探索者シーカー』への声かけを始めた。


 ソラは『人見知り』というデバフ効果・・・・・がかかりながらも懸命に先輩探索者シーカーに声を掛けていた(※すげー進歩)。⋯⋯が、しかし、どの探索者シーカーにも「間に合っている」と言われ、断られ続けた。


「や、やはり⋯⋯厳しい⋯⋯」


 ソラは早くも現実の壁にぶち当たり、打ちのめされ、結果ギルドの角の方で一人落ち込み座り込んでいた。すると、


「ねぇ君、もしかして『高校生探索者シーカー』くん?」

「えっ!?」


 声のほうに顔を上げると、そこには褐色肌でボーイッシュな黒髪の女性探索者シーカーが見下ろしていた。し、しかも⋯⋯、


 ビ、ビキニアーマーっ!!


 機動力且つ、肌面積が広いことで有名な⋯⋯⋯⋯つまり『えちえち』なアレである。


「君が『高校生探索者シーカー』くん?」

「⋯⋯はい(ビ、ビキニアーマーだ!)」

「おお! ラッキー! 初めてみたよ、高校生探索者シーカー。やっぱり、幼いね〜⋯⋯何歳?」

「⋯⋯16です(ビ、ビキニアーマーだ!)」

「えっ! てことは⋯⋯⋯⋯高校一年生?!」

「⋯⋯そうです(ビ、ビキニアーマーだ!)」

「嘘でしょ! すごいね、君! 16歳で探索者シーカーになれたなんて。将来有望じゃない!!」

「⋯⋯さ、さあ、どうでしょう(ビ、ビキニアーマーだ!)」


「将来有望」⋯⋯か。まー現時点では俺よりも『竜ヶ崎』のほうが圧倒的に上だがな。あと、ビキニアーマーで頭がいっぱいだ。


「で? どうしてそんなところで激落ち込みしてんの?」

「実は⋯⋯」


 と、ここで『褐色ビキニアーマーパイセン』に事情を説明した。


「なーんだ、そんなこと? なら、私に帯同していいわよ!」

「! ほ、本当⋯⋯ですか?!」

「もちろん! 将来有望な君には今のうちから『媚び』を売らせてもらうよ、デュフフ⋯⋯」

「⋯⋯⋯⋯」


 なんか、一瞬『おっさん』に見えた。


 幻滅! 幻滅です! 褐色ビキニアーマーパイセン!




「ウチらはD級探索者シーカー4人で構成している探索者集団シーカー・クラン『一進一退』だ。主に20〜22階層を中心に活動している」

「えっ!? 20〜22階層で活動っ!? D級探索者シーカーって、たしか通常10〜15階層で活動するものですよね?」

「ふふん、まあね。私たちはランク的には『D級探索者シーカー』ばかりだけど、でも仲間との魔法やスキルの連携とかをうまく活かして20階層以上でも活動ができているのさ!」


 と、ドヤ顔で胸を張る。


 そして、胸がプルンと揺れる。


(こ、こいつ⋯⋯動くぞっ!?)


「⋯⋯君、今なんかいやらしいこと考えていなかったかい?」

「ソンナコトナイデス」

「⋯⋯⋯⋯」

「⋯⋯⋯⋯」

「⋯⋯ま、いっか。で、どうだい、新人ルーキーくん? ウチに帯同するかい?」

「はい。ぜひ、お願いします!」

「よっし、決まりだ! 私はエリン。この探索者集団シーカー・クラン『一進一退』のリーダーをやっている、よろしく!」

「新屋敷ソラ⋯⋯です」


 そう言って、俺はエリンと握手を交わした。


 交渉成立である。

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