第一章

第8話008「新屋敷ソラという生徒について(ストーキング開始)」



 私の名は『胡桃沢星蘭くるみざわせいらん』。


 私には『気になる男子生徒』がいる。


 その生徒の名は『新屋敷ソラあらやしきそら




——一学期


 教室の奥の窓際の席で眠っているに目がいった。というのも、普通であれば入学初日は誰もが初めての高校生活ということもあってどことなく浮き足立っているのに、彼だけはそんな同級生とは違って初日から気だるそうにしていたからだ。


 でも、だからといってなぜ彼にそこまで目がいったのかはいまだによくわからない。別にイケメンというわけでもないし⋯⋯いや、むしろいつも『生気のない目』をして存在感をあえて消しているかのような佇まいなのでイケメンとは程遠いだろう。⋯⋯まー私は嫌いではないがな。


 結局、彼とは話す機会がないまま一学期は終わりを迎える。




——二学期


 約1ヶ月ちょっとぶりに彼を見た瞬間、何かが変わっている・・・・・・・・・ことに気づいた。


 とはいえ、一学期と同じように授業の時も休み時間の時も寝てばかりなのは変わらないが、しかし以前とは確実に何かが変わっていた。雰囲気というか、彼自身の根本が⋯⋯というか。よくわからない。


 まーでも、わかりやすい変化が一つあった。それは授業中「俺には構うな」とでも言いたげなオーラを出して机に突っ伏して寝ているだけだったが、最近は聞き耳を立てて授業を聞いているようだった。


 え? なんでそんな細かい変化がわかったのかって?


 ふふん! 私にかかれば彼のちょっとした変化や機微などすぐにわかるわ。どれだけ彼を見ていたと思ってんのよ! もっと言うと、最近彼は時折喜ぶような仕草をすることも多くなったわ。何か良いことでもあったのかもね。




——ある日の放課後


 彼は授業が終わると足早に教室から出ていった。


 突然、いつもと違う彼の行動に私は驚きつつもすぐに彼の跡をつけた・・・・・


 え? ストーカー?


 何を言っているのかしら? これは、ただの『好奇心』よ。


「図書室?」


 彼が足早に向かった先は図書室だった。


 中に入ると彼は『大学入試コーナー』に行って『去年のセンター試験』の問題を取り出し、問題を解いているようだった。


 彼に気づかれないよう、遠目からだったのではっきりとはしなかったけどスラスラと解いているように見えた。


「意外」といったら失礼かもしれないけど、彼は意外と勉強もできるようだった。すごいわ。


 しばらくすると、今度は『スポーツ』関連のコーナーへと行くと『陸上競技』の本を手に取って読み始めた。陸上競技? まさか部活にでも入るのかしら? らしくないわね。


 1時間ほどすると彼は突然、図書室から出て行こうとする。当然・・私も彼の跡を追う。


 彼は運動場に出ると、部活動をしている生徒の邪魔にならないようにと思ったのか端のほうへと行く。「何をするのだろう?」と見ていると何やらコーンを置いた。そして⋯⋯⋯⋯走り出した。


 えっ?! 結構速くないっ?!


 意外だった。彼はてっきり運動は苦手だと思っていたから。たぶん、男子の中でもかなり速いほうなんじゃないかしら?


 それにしても、授業が終わったらすぐにまっすぐ帰宅するような彼が、どうしていきなり運動なんて始めたのだろう?




——二週間後


 最近、忙しくて彼のストーカー⋯⋯⋯⋯様子を見ることがおろそかになっていた。


 やっと『用事』から解放されたので、今日からまた彼のストーキング⋯⋯⋯⋯様子を見るのを再開する。


 教室に行くと、の様子がさらに違っていた。


 いつもはホームルーム前も机で寝ているのに今日は寝ずにずっとスマホをいじっていたのだ。


 何か調べ物でもしているのかしら?


 気になった私は、放課後いつものルーティン・・・・・・・・・である彼の追跡を始める。


 普段なら学校から徒歩15分ほどにある自宅へ一直線に帰るのだが『今日』は違っていた。なんと駅のほうへ向かうと電車に乗ったのだ。


「どこへ行くのだろう?」


 切符を買った私は彼がいる車両の一両離れたところで着座する。


 5つほど進んだ駅で彼が降りるのを見て、私も合わせて降りた。


 駅から降りた彼は3分ほど歩くと『ある建物』へと入っていった。


「えっ? こ、ここって⋯⋯」


 それを見て、私は呆然としながら呟く。


「⋯⋯探索者シーカーギルド!」


 なんと彼⋯⋯新屋敷ソラが入っていった建物は、探索者シーカーギルド『インフィニティ日本本部』だった。

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