戦争真っ只中の英雄になった件

僕の世界は狭かった

狭いなんてものじゃない、

子供時代を祖父の遺産争いに巻き込まれ

青年時代を災害に見舞われ

大人になって社会に嫌気を刺して引きこもった


手元に残ったのはパソコンだとかスマホだとかの文明の利器だけだった


ある時

「君も英雄気分になれるRPG」なんて言うゲームを見つけた

やることがなかった僕はそのゲームをやっていた

ガチャもなければ、最初は才能がそのアバターにはなかった

子供から始まるから英雄になるまでの軌跡を味わえた

僕の住む村は1年に1度9歳の子供に才気煥発の火というものに炙られる

そこで火傷の後が文字になる時それは英雄の証という儀式があった

9歳になった時、僕と他に幼なじみのユレンとその双子の姉のアイファスがその儀式を受けた

先にアイファスに文字が浮かんだ。

村では26年前に英雄が生まれて以来久しぶりの誕生であった。

僕とユレンにも儀式は執り行われた

文字は・・浮かばなかった


ゲームなのに文字が浮かばないなんてあるのかと思ったら

村長に

「君たちにはアイファスの旅のお供になってもらう」

と言われた

この時点でゲームをやめてやろうかと思った


だが人生には疲れてるし、辞めるのも面倒だからある程度までやったら辞めようと思うところまでは考えてたが、世界観にリアリティのある描写に引き込まれていったし、さらに音楽もよく出来ていて

人生を変えるゲームだなんて思っていた



アイファスの旅は彼女が14歳の時に始まるという事が分かった

アイファスは英雄の証が出たとはいえ、男の僕よりも力は弱いし背も小さい

162センチの彼女と172センチの僕

162センチって14にしてはデカい気もするがここはゲームということで

ユレンは159センチと歳相応に成長していた


この世界には才覚というものが存在する


才覚というものは簡単で、いわゆる能力的なものなのだが少し違う


少し剣が早く振れる


少し魔法を使える


少し料理が出来る


この少しといってもちょっとではなく、人間がどれだけ努力をして剣技を学んでも限界が訪れる、それは歳、病気、そもそも剣技を使われなくなるだとか。

才覚というのはその限界の少し先に辿り着けるというもの

野球で例えれば

今は165kmなんて投げるピッチャーがいるが

球を早く投げるなんて才覚があれば、175kmくらいは出せるようになる。

これは体の仕組みだとか、筋肉量だとかでは説明がつかない、スピリチュアルなもの


それはさておき

もちろんアイファスにも才覚がある。それは


"英雄"という才覚だった


剣を振ればほとんどの物は斬ることができ

人望も熱い

人助けや頼まれごとに会いやすいなど、

英雄といえば...というものてんこ盛りな才覚だった。





旅が始まった。

少し寒い村だったから、道を進めば気温が高くなっていく

雪は溶け

日は照りつけ

遠くの方で陽炎が揺らめいている


アイファスと僕は体がある程度出来ているし、

アイファスは才覚があるから暑さにはへっちゃらだろう


だがユレンは年相応だ。


14歳に長旅なんてそう出来るもんじゃない。

車もなければ馬もない、歩いていく果てしない旅、そんな無謀な事にユレンが付き合わされている


ユレンは言う

「私は大丈夫!お姉ちゃんの為に頑張らなきゃだし!」


アイファスは気づいているだろう、無論僕もだが

ユレンは限界だ。



そういえばこの旅について言ってなかったことがある、そもそもこの旅は魔王を倒すだとか、そういうファンタジーではない。

人と人との戦争に向かう旅だ。

僕達の村はグルンデルク王国という国の占領域にいる。

英雄が出れば、適正年齢に応じて王国に行き、戦争に参戦しなくてはならないのだ。


アイファスには僕が1つ聞いたことがある。


「アイファスは人を殺せるの?」


「もうしょうがないでしょ?やれと言われたこと以外出来ないのだから」


「そっか」


なんて面白みのない会話だが、僕達も遠回しに戦争に参加するということだろうか

それは勘弁だと思った。

死にたくないし



ユレンは思いのほか頑張り

1週間の旅を経て、王国の首都についた。


黄金の都と言われたその国は

これでもかといわんばかりに、金が張り巡らされていた


これにはアイファスも


「これは..すごいわね.....!」


年相応の表情を見せた


僕も同様に相応の表情を見せた


宮殿に付き

国王に

「英雄よ待っていた。我が覇道の為に、力を存分に奮いたまえ」

と黄金の椅子に座りながら

黄金の杖をこちらに指しながら言ってきた


こいつ偉そうだな。


そんな感想は置いておいて、


「そこの青年」


「このわたくしめになにか御用でも?」


「貴様も戦争に参加しろ、貴様の体格は我が国でも秀でたものだ」


「はっ!」


断れない、断ったら何が起こるか分からない


だからだ。




明日は戦争に参戦する日になった


アイファスに

「あなたとユレンは置いていくわ」


「ユレンは置いて行けるけど、僕は無理でしょ」


「私から言っておくから」


凄まれては仕方がない、

「分かった」

と言ってしまうこの弱い心は、昔の自分を思い出す



アイファスは戦争へと行った


僕たちを置いて。


アイファスの戦果は日が経つ事にみるみるうちに流れており、

英雄がまたやった!だの英雄の戦果が凄い!だの

置いていかれた僕たちと

心も地位も離された気分になった。


ユレンは

「凄いね!お姉ちゃんは!私、この国の事、キライになりそうだったけどお姉ちゃんが勝つと、皆が嬉しそうな目で私にありがとうって言うんだ!自慢の姉だね!って」


僕は何も言えなかった。

空想の戦果に見栄ははれないからだ


「そうだね」


なんて適当にあしらうことが多くなったんだ



半年たち、少し戦線が押されているニュースがあった


僕には勿論招集がかかり

ユレンを置いて行くことになった


「お姉ちゃんみたいに頑張ってね!」


ユレンには元気付けられたが、自信がなかった

負け始めている戦線に僕が行ってもしょうがないと思っていたからだ



この国にも雪が降り始め

僕は戦線に行った

戦線は



壊滅的だった

というかお互い壊滅的というべきか

やせ細った体で、貧相な装備で戦い続ける兵士に

戦意はなかった

折れた剣

頭の無い鎧

使えない馬


肉壁がそこにはいた



(こんな中でアイファスはどうしてるんだ!)


「アイファスを探さなきゃ!」


押すだけで倒れていく兵士に目もくれず、

戦いの声が聞こえる方に行った


丘の上から

大量の兵士が死闘を繰り広げている戦場を見た


死を実感し吐いてしまった


(こんな環境で戦っていたのか?)


気づいたら崖を走り降りていた、敵軍は奇襲に動揺し、戦線をみるみるうちに押し返していた。


戦争に劇薬というべきか、JOKERのようになった僕は


いつしか英雄と呼ばれた


アイファスの名前はいつしか興味を失っていた。



戦略的にこの地域をとれば降伏に追い込めるという戦域に僕は派遣された


そこはアイファスが戦っていた地域というのは聞いていた

砂漠のようだったと記憶している


傲慢の塊のようだった僕は、

少し驕っていたと思う、アイファスより活躍するなんて考えていた

才覚なんていうものをもっている彼女に


その戦線は拮抗していると聞いていたから、僕たちが参戦すれば勝てると言われていた


馬に乗り、快速を飛ばして戦場についた。

やはり戦いの音が聞こえてきた。


(僕が終わらせてやる)




僕は思考が浅はかだった、


戦線が拮抗?そんな生半可な表現じゃ表せない、

1000人を優に超える死体の上に1人で、

死体の何倍にもいる敵兵士と相対している

アイファスを見た。


口を閉じることが出来なかった。


援軍が来るまで、ここに僕が来るまで、

味方は?なんで1人で、装備はもうボロボロじゃないか!

まだ疲れていないのか?僕なんて比にならないくらい



英雄じゃないか......




僕たちの援軍が入り、戦争は終結した。


アイファスは才覚以上に戦い

か弱い女の子のようにボロボロになっていた。

立つので精一杯のような状態だった。

人を殺したという実感を戦争中彼女は、感情よりも押し殺し。

考えないようにしたが、彼女は立ち直れず、引きこもっていた。


僕は英雄だ。と世間は言う、世間的には僕が戦争を終わらせた英雄だと崇めていた。


(違う!そうじゃない!アイファスこそ英雄なんだ!)


そんなこと言える空気ではなかった......



ユレンには

「英雄さんだね!」


と言われた


民衆には

「英雄様!」


と言われた


国王には

「英雄よ、褒めて遣わす」


と言われた



黄金のような景色だった。







戦争は続く。

国王は覇道をやめないらしい、黄金が続くまで戦いは終わらないらしい

グルンデルクに栄光あれ!


僕は英雄じゃない。

僕は彼女の為に英雄を作り出さなくてはならない。これは彼女への贖罪の物語


僕は英雄になりうる引きこもりの男を見つけることにした。


そんな男を引き込むための言葉はこうだ。


「君も英雄になれるRPG」




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