10 長い夜の終わり

 激戦も終わり、打って変わって部屋は静かだった。

 とりの魔道ジェネレーターの、効率化大幅向上したことによるすんすん軽い音。

 それとみやもとなえの、パチパチ胸から火花の散る音。


 その静けさを吹き飛ばしたのは、男性の叫び声だった。


「ささ早苗ちゃんっ、ミヤちゃん! ぶぶっ無事かあ?」


 慌てた様子で部屋へ飛び込んできた、のりまきさぶろう青年である。

 先ほどの部屋でゴミ箱に頭から放り込まれて気絶していたはずだが、目覚めて二人の姿が見えず必死に探し当てたのだろう。


「……って、え……」


 典牧青年の、間の抜けた声。

 キョトン顔で、突っ立ったままになっていた。

 目の前の光景に。

 赤いめかまじょと、青いめかまじょが、向き合い見つめ合っていることに。

 青いめかまじょが、ぼろぼろ涙をこぼして泣いていることに。


「な、なんやろ、この涙は。小取が復活して、こ、今度こそボコせる、嬉し涙、やろかな」


 早苗は情けない顔で強がりをいいながら、ひぐっとしゃくり上げた。


「あなたでは、わたしに勝てないよ」


 美夜子がふふっ笑うと、早苗は涙の溜まった目を驚きに見開かせた。

 それは中学二年の時に、ヒトミヤコから小馬鹿にされた時の言葉であったからだ。


「え、え、どど、どっちの小取や自分!」

「どちらでもあるし、どちらでもない。あたしは、小取美夜子だ、あたしは、あたしだ。……もうダメかと思ったけど、生きることを諦めてしまっていたけど……ありがとうね……早苗ちゃんの強い気持ちが、優しさが、奇跡を呼んでくれたんだ」


 美夜子がまた優しく笑うと、早苗はうくっと息を詰まらせた。


「ず、ずるいで、そ、そないないいかた」


 早苗はさらにぼろぼろと大粒の涙をこぼし続け、いつしかその顔は、誰だというくらいのぐしゃぐしゃになっていた。

 一体どうしてそんな機構が搭載されているのか、鼻水まみれの汚い顔であった。


「で、でも、よ、よかっ、よか、うぐっ」


 うわああああああん。

 早苗は天井を向いて大きな泣き声を上げたかと思うと、恥ずかしさをごまかすように美夜子へと抱き付いた。


「わっ、早苗ちゃんっ」


 びっくりする美夜子であるが、すぐに笑顔へと表情を戻すと、早苗の肩をそっと抱き締め返した。


「ここ小取っ……し、し、下の、名前で、呼んでもええかな。……憧れだったんや。うち友達おらへんかったから」


 ぐずぐずと情けない顔で早苗は、ちょっと甘えた声を出した。


「もちろん、嬉しいよ」

「ほ、ほな……み、美夜子。美夜子……美夜子おお! ……って、うちかて宮本でミヤやん紛らわしいわあ。うわあああああああん」


 早苗は一人ツッコミをすると、なおも大泣きで美夜子美夜子と叫び続ける。


 そんなみっともない、でも最高に可愛らしい相棒を、美夜子は柔らかな笑顔を浮かべて強くも優しく抱き締め続けていた。

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