03 ミヤコの記憶
暗闇だ。
どこ?
ここは、どこなの?
死後の世界?
冷たい。
わたしの身体は冷たくなって、暗闇の中ぴくりと動かすことも出来なかった。
これは、身の朽ちていく走馬灯的な瞬間?
似たようなものではあるが、違う。
父がわたしを生かすために、わたしを冷凍みたいな状態にしているのだ。
わたしにはなんにも見えないし、なんにも聞こえないけれど。でも、なんとなく見えるし、なんとなく状況が理解出来ていた。それはもしかしたら、身体が死に掛けているために魂の領域で色々と感じているということかも知れない。
凍っているに等しい超低体温状態で、わたしの身体は眠り続ける。死なないために死に続ける。
どうやらわたしのいるこの場所は、父の隠れ家的なところらしい。
父は機械を開発する研究所の所長ということだけど、ここでも一人で研究実験をしているようだ。
隠れ家的といっても秘密というわけでもなさそうで、たまに人が訪れる。
ML教団、とかいう人たちがよく来るのだけど、その人たちとのやり取りがなんともきな臭かった。
もしかしてお父さん、脅されている?
美夜子の場所? って、何故わたしの名前がやりとりに出る?
どうやら父は、わたしがここにいることを隠しているようだ。
そもそも、どうして隠されなければならない? わたしは、未来の医学進歩を期待して眠らされているだけではないの?
隠される理由も、ML教団が居場所を知りたがる理由も分からない。
その後も、教団の人たちはよく訪れる。
月の魔力が、とかそんな荒唐無稽な話ばかりしている。こうして精神がふわふわ漂って見聞きしているわたしがそんなこというのも、おかしな話だけれど。
……!
だ、だ、だめだよお父さん!
クローンだなんて。
わたしを助けるためだけに、別のわたしを作って殺してしまうだなんて。
そんなこと絶対にだめだ!
法で禁止されていることだし、法なんか関係なくわたしそんな酷いことまでして生きていたくないよ!
でも、冷たい身体の中からいくら叫ぼうとも、届くはずもない。
見ていることしか出来なかった。
お父さんの専門は機械工学だけど、いわゆる天才なのだろう、入手したクローンの知識をすぐに学んで生み出していく。
わたしの分身を。
ただのクローンなら百年前から人類は技術を持っている。けど、お父さんの作り出したいのは、「融合係数」とかいう値の高い個体。つまりは人為的に操作を試みたクローンであり、その調整が上手くいかずに作られたクローンはすぐに死んでいく。
わたしのお父さんにより作られた、わたしの妹であり、わたし自身でもある存在が、魂が、生まれては、消滅していく。
やめて欲しい。
こんなことは。
でも、お父さんを責めることは出来なかった。
わたしへの深い愛情と深い悲しみを感じたから。それだけしか、お父さんの中に感じられなかったから。
だけど違うんだ。
わたしは、こんなことを望んでなんかいないんだよ。
望んでいないけど、冷たい肉の棺桶に閉じ込められたわたしにはどうにも出来ない。
次々と、わたしが消滅していく。
ごめんね。
本当に、ごめんね。
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