MAGIC・11 美夜子と美夜子
前章のあらすじ
これは美夜子が手にしている、志木島博士の日記である。
志木島博士は、月面から地球へ届く魔力量が急上昇を見せていることを把握していた。
開発中の「めかまじょ」は魔力を動力源に利用するシステムなのであるが、その研究のため設置したセンサーによって。
だが、博士はさして気にとめていなかった。義手義足の延長である「めかまじょ」に、大きなパワーは不要だからだ。
研究所に、ある宗教団体の者が訪ねてくる。
ML教団を名乗る男たちは、博士に対してある依頼を持ち掛ける。
月面からの膨大な魔力を扱うことの出来る魔道ジェネレーターや、器に足りうるめかまじょの開発を。
博士の専門は機械工学であり魔力云々は専門外であるため、話を聞くものの興味なく、適当にあしらってしまう。
ずっと離れて暮らしていた妻と娘がいる。
三人で一緒に暮らそうということになり、妻と娘は飛行機でこちらへと向かうのであるが、山上で墜落、大破してしまう。
乗客は、ほぼ全員が死亡。
生き残ったのは、なんという偶然か、娘である美夜子のみであった。
しかし身体の機能がほとんど停止しており、当然意識もなく、現代医学では助けることの出来ない状態だ。
開発中のめかまじょ手術を施すことによって生命を助けられるのでは、そう考えた博士は、瀕死の美夜子を引き取るが、調べて愕然とする。
美夜子の生体が、メカとの融合係数があまりにも低く、めかまじょにしたところではぼ確実に拒絶反応が起こることが分かったのだ。
美夜子は、超低体温睡眠により眠らせることになった。
融合係数の不安がない、完璧なめかまじょシステムを作るために。
また、めかまじょでなくとも美夜子を救える未来の技術進化に期待して。
ML教団の来訪は少なくなり、入れ替わるようにディアナ・レジーナ財団が研究所へと接触を図るようになっていた。
彼らは大口のスポンサーとなり、博士はよりめかまじょの研究開発に没頭することになる。
そんなある日、志木島博士は衝撃の事実を知る。
妻と娘を奪った飛行機墜落事故は、人為的に起こされたものであるということを。
ML教団こそが、黒幕であったことを。
博士が自分の娘に対してめかまじょ手術を施すように、教団が追い込んだのだ。
教団への憤りこそあれなにが出来るものでもなく、博士は復讐の念を後回しにしてまずは美夜子を助けるために研究を続ける。
生体とメカとの融合係数問題がままならず研究は苦戦しているのだが、博士はあることを思い立つ。
美夜子のクローン体を作ることを。
素質調整したクローン体を作り、その細胞を移植することにより美夜子本人の融合係数を引き上げられるのではと考えたのである。
法では禁止されているクローン技術であるが、乗り気になったディアナ・レジーナ財団による根回し支援のもと、とんとん拍子に準備は進み実験が開始される。
だが、作られる美夜子のクローンは失敗ばかりだった。
単純なコピーであればオリジナルと寸分違わぬ性質のものが作れるが、メカとの融合係数を調整した影響により、生命としてあまりに弱くすぐに崩れて朽ちてしまうのだ。
取り憑かれたかのように、美夜子を作っては殺していく日々が続く。
ひときわ融合係数の高い、何番目だかのクローンが朽ちていく。
それはもう日常の光景であるはずだった。
だが、そのクローンが死に際、生みの親である博士へと微笑み掛けたことにより、博士の心に衝撃が走る。罪悪感、そしてクローンであろうとも我が娘という父親としての愛が蘇り、死にゆくクローンの美夜子を抱き締める。
そして誓う。
「もう一人も、娘は死なせない」
博士は、めかまじょ化手術を敢行する。
死に掛けているクローンの美夜子に対して。
手術は成功し、クローンの美夜子はめかまじょとして復活した。
ニューロン刺激その他の技術により、クローンの美夜子はある程度のオリジナル記憶を持ち、ある程度は後天的教育による暗示効果で、自分は本物であると認識している小取美夜子。
そんな、クローンの美夜子に、志木島博士は会いに行くことが出来なかった。
本物を助ける道具として殺そうとしていた罪悪感から。
会う会わないの選択をクローンの美夜子に委ねてしまうのであるが、クローンの美夜子も会うことに躊躇いがあるようだ。それは当然で、彼女にとっては自分が本物の美夜子なのだから。
お父さんに会おうとして母とともに飛行機墜落事故に遭ったのだから。
睡眠カプセル内で目覚めぬ美夜子、めかまじょになったクローンの美夜子、二人への罪悪感と、会えない葛藤を語るその途中で、日記は切れて終わっている。
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