01 今日も大宮の空の下

 群青の空の下には、点々と明かりのついた真っ黒な高層ビル群が密集し高さを競い合っている。

 ここは、さいたま新都心おおみや地区のオフィス街だ。

 高層ビルの一つであるながともオフィスタワーの周辺には、大勢の警察機動隊員たちが強化プラスチックの盾を構えてひしめきあっている。

 先頭には、ただ一人コート姿の壮年男性。陣頭指揮を取る、そえごうすけ警部補である。


 武装した男性が群をなす勇ましく迫力の光景、であればよかったが、残念ながら現在の彼らはやることまるでなく、ただぽかんとビルを見上げているだけであった。


「さあ、残るは一機だあ! ぐんぐんと追い上げます! 追い詰めます!」


 さいきようテレビのレポーターもとはらえつが大声で実況する、その実況されている対象を男たちはただ見上げるだけである。


 カメラマンすぎうらてつぺいが映し出しているのは、元原悦子ではなく上空だ。

 ビルの間、雲ひとつない空に浮かぶ大きく赤黒い月の前を、なにかがよぎった。

 それは、少女であった。

 首から下は、すべて真っ赤な金属の身体。栗色髪の可愛らしい顔も、やはり赤い金属のヘッドギアで守られている。

 とり、めかまじょである。

 警察からの出動要請を受けて、今日も悪党と戦っているのだ。


 地上からは遥かな高さである上空を、ビルを蹴った勢いで軽々と滑るように飛んでいる彼女へと、不意になにか大きな影が突っ込んだ。

 軽トラックほどの大きさで先頭にはアームが付いている、一見すると作業自動車のよう。俗にゼログラと呼ばれている、浮遊する重機だ。


「くたばれやあ!」


 操縦する髭面男の叫びとともに、アームの先端がばじばじ音を立て青白く発光する。

 そのアームに機体からだを突かれて吹き飛ばされた美夜子、であるが表情に苦痛の色はない。五体も見た目なんともない様子だ。


「効かないよ!」


 赤い金属の少女は余裕の笑みを浮かべると、ビルの壁を蹴って再びゼログラを追う。


 いつの間にか美夜子の左腕がぼおっと薄赤く輝いていたが、不意にふっと溶けるように消えた。

 この輝きが、ゼログラのアームによる攻撃から身を守ったのである。


「くそっ!」


 髭面の乗るゼログラはさらに浮上、ビル間を上へ、上へ。

 めかまじょから逃げようと必死だ。


「悪党のゼログラから、なんか出た激しい電撃バリバリっとした攻撃を、同じようになんかぼわっもわもわっとエネルギー出して相殺して防いだ赤いめかまじょ。さあ、もう悪党に打つ手はないか! 今度はこちらのターンだあ! 分からないけど多分きっとそんなことを叫びながら、赤いめかまじょは空へ空へとゼログラを追い詰めていくぞお!」


 遥か遥か眼下に立つ元原悦子の気合感情入りまくった実況を受けて、いや受けずとも同じだろうが、ともかく栗色髪の赤いめかまじょ小取美夜子はビルを蹴り蹴り上へ、上へ。

 法定高度を無視してぐんぐん急浮上する違法改造ゼログラを、104キロも無きがごとくふわりひらりと妖精が舞うように追い掛けていく。

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