05 ん、誰?
五歳くらいの小さな男の子と、さらにもう二歳ほどは幼いと思われる女の子が、はしゃぎながら道を走っている。
兄妹だろうか。
追いかけっ子をして遊んでいるのであるが、よく見ると女の子は笑いながらも泣きそうである。追えども追えども、お兄ちゃんが捕まらないのだろう。
と、男の子がいきなり転んだ。
妹の様子を気にして振り返ろうとしたところ、猫が小道から飛び出して横切ろうとし、あわや踏みそうになるのを避けようとしたら足がもつれてしまったのだ。
受け身を上手く取れず、ごっ、と路面に顔面強打。
すぐに顔を上げるが、鼻がすり剥けて赤くなっている。
痛みか驚きか、それとも恥ずかしさのためか、目がじわり潤んだかと思うと、声を上げて泣き出してしまった。
追い付いた妹が頭をなでて慰めてやるが、お兄ちゃんはぎゃんぎゃん泣くばかりで止まる気配をまるで見せない。
「男の子が泣くもんやないで」
若い女性の声に、男の子は顔を上げた。
妹も、声の方を見る。
紺色の女子制服、手には黒い通学カバンを提げた
短い前髪に、ピンピン張り出した横髪、そしてタレ目。間違いなく早苗である。
男の子へと近寄りながら、右手を差し出した。
「でもまあ、猫を踏まんよう避けての負傷や。かっこええんとちゃう? もう少し大きかったら、お姉ちゃんの彼氏になって欲しいとこやなあ」
早苗は冗談をいいながら男の子の手を掴んで引っ張り起こしてやると、笑いながら去って行った。
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