05 だからこその景色
果たして今日は天中殺なのか、登校から下校までさんざんな目にばかり遭う
だけど、ここからは違うはずだ。
ようやくホームグラウンドである自宅アパートへと辿り着いたのだから。
いや、それで運勢が上昇するものでもないが、誰とも会わず大人しくしていれば、運も不運もあまり関係ないだろうということで。
「ただーし!」
難関が、あと一つ。
美夜子は、最後の難関たるアパート脇のボロ階段を、そおっと上り始める。
別に身体が重いという自覚はない。自覚というか、体感は。
体感的にならば、三十キロくらいだ。
しかし、実際のところかなり重たいのだ。なにせ全身が機械なもので。
だから即アパートの階段が壊れるというものでもないし、実際、毎日利用している。
でも今日の不運だ、なにが起こるか分からないし、もしも壊してしまったら弁償云々という以前に乙女の心がショックすぎるというものだ。
だから、そおーっと上るのだ。
ドミノ倒しのドミノを立てる時のように。
貴族がスープを飲む時のように。
そおーっと。
そおーっと。
「お、美夜子!」
「美夜子ーっ!」
「元気かー」
道路で遊んでいる近所の小学生男子が数人、ブンブン手を振っている。
「イエーッ!」
美夜子もついノリ良く腕を振って返事をしちゃう。
と、ミシと階段が軋んだ。
「わ、やば」
軋んだ音に慌ててしまい、何故か後ろに飛びのこうとして、狭いものだから壁にお尻をぶつけてしまった。
「あいたあっ!」
ぶつかったのが、老朽化で壁から剥がれた金属板。
ざくり刺さって悲鳴を上げる。
「うう、いてえええ、はー、よく壊れなかったあ」
壁も、お尻も。階段も。
すりすり擦りながら長いため息を吐いていると、気付けばもう夕暮れ時だ。
いつもの景色、茜色に照らされる新都心のビル群が遠くに広がっている。
美夜子は手すりに肘を付いて、その眺めを堪能する。
大好きな、大宮の風景を。
今日は色々ついていなかったからこそ、せめてこのくらいは楽しんでも罰は当たらないというものだろう。
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