07 さあ反撃だ!
「あ、ああ、ありがとうございますっ」
人質であった女性は、自分の身に起きた不思議にちょっと戸惑っていたようだが、すぐに気を取り直し、ぐるり包囲している警察機動隊員たちへと向かって走り出した。
電光石火の早業で予想外の救出劇を演じた栗色髪の小柄な少女は、じゃあねーといった感じの緊張感に欠ける涼しい顔でひらひら手を振っている。
「ユキエさん、だだっ大丈夫だった?」
先ほどまで一緒に人質になっていた男性が、女性へと小走りに寄って心配そうに優しそうな声を掛けた。
だがその顔が、無様に歪む。
「えうっ! ひゃうっ!」
バッシバッシと、ユキエに両の頬を思い切り張られたのだ。
とどめの一撃は鼻っ柱に突き出された鉄拳、後ろへ倒れて尻餅ごろりん一回転。
さて、突然現れた女子高生のまさかの行動に、なにが起きたのか把握出来ず狐の仕業にぽかあんとしているのは、ゼログラに乗った凶悪犯二人である。
はっと気付けば弟分の機体の操縦席に人質はおらず、見下ろせば緊張感なく人質男女の顛末に苦笑している制服姿の女子高生。
摩天楼には夜の風。
「舐めやがって! ぶっ潰してやる!」
屈辱心から、弟分にゼログラとは別のエンジンが掛かったようである。
パンツの役得(?)では相殺し切れなかったか、引きつった唇やほっぺたをぷるぷるさせると、栗色髪の女子高生を睨み付け、ぐんと浮かせた機体を一転急降下で突っ込ませた。
押し潰し殺してやる、ということだろう。
「バカ! 新しい人質にすんだよ!」
慌てる兄貴の怒鳴り声。
「くそ、しゃーねえなあ。でも、殺さなけりゃいいんだろ? 腕の一本くらい焼き落とさせてくれや!」
急降下からまた一転、弟分のゼログラは少女の顔の薄皮かすめて急上昇。
スン、とモーターの動く小さな音とともに、機体正面部にあるアームの根本近くにあるカバーがスライドして開き、小さな砲塔がせり出てくる。
先ほどの言葉からして、
操縦席のパネルに埋め込まれている狙撃用のスコープをガシャリ引き起こした弟分は、楽しげな笑みを浮かべながら覗き込む。
「まずは足元!」
という言葉と同時に、少女の足元である地面が溶けて大きくえぐれていた。
「うお、びっくりしたあ!」
栗色髪の女子高生は、驚きの声を上げながら一歩下がった。
わざと狙いを外したのだろう。弟分の苛立ちの表情が、少しスッキリしたものになっている。
「さあて次はあ」
下品な笑い方をしながら、あらためてスコープを覗き込んだ。
円の中央、十字線が揺れながら、少女の腕でびたりと止まった。
が、またすぐに、すうーっと斜め上へと動き出し、少女の顔の中央へ。
「人質だぞ。殺すなよ」
気配を察したのか、兄貴が注意を促した。
「分かってるよ兄貴。あー、でもドタマにぶっぱなしたらスッキリするだろうなあああ」
そんな光景を想像しているのか弟分、指を掛けた引き金をさすりながら生死を握る優越感に笑みを浮かべている。
だが、その笑みが不意に曇っていた。
スコープの中の少女もまた、こちらつまり弟分の方を見ながら楽しげに微笑んでいるのだ。
「そろそろお、いっくぞお!」
少女が甲高い声で叫びながら、ぶんと勢いよく右腕を天へと突き上げると、その右腕が一瞬にして巨大化していた。
いや巨大化というと少し語弊があるだろうか。
腕の皮膚が縦に裂けて、突き破るようになにかが出てきたかに見えた瞬間には、西洋騎士の全身甲冑さながらの無骨な、真っ赤に塗られた金属の腕になっていたのである。
生身に装着しているものであるのか、それともそれが自身の肉体であるのか、とにかく少女は仁王立ちになり、その巨大な右腕を頭上にかざしたまま、大声で元気に叫ぶ。
「変身だあ!」
そこから少し離れたところ、警察機動隊員たちの包囲網ぎりぎり外にいる黒スーツの女性、
「やっぱりそうです! 突如あらわれた謎の少女は、いま巷を賑わせている『めかまじょ』だったのです! 普段は埼玉県の高校に通う女子高生
埼京テレビの名物レポーターは、顔を真っ赤にしながら左拳を目の前にあるカメラレンズへと力強く付き出した。
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