第23話 お好み焼き「善」で歓迎会!?

 暖簾をくぐり引き戸を引くと、

「いらっしゃい。待っとったで」

 と野太い声が迎えてくれた。


 頭にタオルを巻いた善さんは相変わらず熊さんみたいだけど、優しい熊さんだと知っているから自然と笑顔になってしまった。


 17時前の店内には他のお客さんは誰もおらず、善さんの手招きに導かれ私たちはカウンター席に並んで座った。



◇◇



「礼桜ちゃん、湊のところでバイト始めたんやて? もし湊に嫌なことされたらすぐ俺に言うんやで。速攻でしばいたるからな!」


 そう言って豪快に笑っている。

 九条さんは「そんなんするわけないやろ」と少し低い声で返した後、探るように私を見てきた。


「俺、嫌なことしてへんよね?」

「もちろんです! 私のほうが九条さんにご迷惑をかけてばかりで……」


 善さんに向き直って「九条さんはとても優しいです」と伝えると、チラッと九条さんを見て、「それならええんやけど、何かあったらすぐに言うんやで」と言ってニカっと笑った。




「今日は礼桜ちゃんの歓迎会やから、好きなもの作ったるで。何がええ?」

「そう言われると迷ってしまいます。……善さんのオススメって何ですか」

「せやね~、善さんお任せコースとかどんな? 俺の料理をお腹いっぱいになるまでちょっとずつ出していくコースやねんけど」

「美味しそう! 九条さん、どうですか?」

「ええんちゃう。それにしよか!」

「湊は野郎バージョンにしといたるわ」



◇◇



 善さんが出す料理はどれも美味しくて、舌鼓を打ちながら3人でいろいろな話をした。二人とも話がとても上手なので、ずっと笑いっ放しの楽しい時間が過ぎていく。


 九条さんは、善さんの前では年相応になっていた。店長をしている九条さんはハイスペックすぎて別世界の雲の上の人のような感じがするから、年相応の九条さんはとても身近に感じられた。




 善さんは、熊さんみたいな大きな手で、お洒落で可愛い盛り付けをして出してくれた。

 目で感動して、味で胃袋をつかまれて、「善さん、美味しいです」としか言えなかった。



 お好み焼き屋の大将はもっと豪快なイメージがあったが、いや、善さん自体は豪快な人なんだけど、その手つきはとても繊細で、出来上がっていく工程からも目が離せなかった。


 二人と話しているときも、食べているときも善さんが料理を作る工程を見ていたら、二人に笑われた。


 お好み焼き屋のはずなのに、今日はお好み焼きや焼きそばといった粉もんは一切出てこない。

 理由を聞いたら、「すぐお腹いっぱいになったら俺が悲しいから」と真顔で言われた。


 ……なるほど…? 



 串カツが出てきたときにはテンションが上がってしまい、それを見た二人に「目が輝いてる」とツッコまれ、また笑われた。



「礼桜ちゃんは串カツ好きなん?」

「大好きです!」

「串カツなら何が好き?」

「レンコン、うずらの卵、チーズは絶対に食べます。あと、カボチャ、アスパラ、椎茸、玉ねぎ、さつまいもなんかも好きです」

「肉とか魚介類よりも野菜のほうが好きなんやね」

「言われてみれば、そうかもしれません。お肉系では、鳥ささみと大葉の串カツが大好きで、いつもそれは頼んでいます」

「ああ、あれ美味いな。俺も好きやわ」


 善さんは「串カツなら何が好き」話を私としながら、私が好きな串カツの具を次々に串に刺し、バッター液、衣をつけて油の中へと投入していく。


 手際の良さはマジックを見ているようで感動する。


 そして、出来上がった串カツは、衣はサクサクで中は熱々、二度付け禁止のソースも絡み、すごく美味しい!


 私の左横に座っている九条さんが串カツを食べるのを何気に見てたら、目が合った。

 「美味しいね」って言って微笑んでくれたので、「はい」と答えて、また串カツが入ってるバットに視線を戻した。


 次どの串を食べようか迷っている姿を、温かい目で二人に見られているとも知らずに。





 ちなみに、野郎バージョンも気になって見ていたら、お皿から何からすべて1.5倍になっており、量が野郎バージョンだった。






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