第20話 バイト初日 ③
ドアベルが鳴らないか心配しながらの休憩だったが、カランコロンカランと澄んだ音色が鳴ることは一度もなかった。誰一人来ないので逆に大丈夫なのだろうかと心配になるが、九条さんは気にしていないので問題ないのだろう。
休憩後は、宅配業者への荷物の受け渡しや商品の説明を受けた。
時刻が午後4時20分を過ぎようとしたとき、カランコロンカランとドアベルが鳴った。初のお客様対応に緊張したが、にこやかに「いらっしゃいませ」と声をかけることができた。
扉から入ってきた人は、インバウンドの外国人観光客カップル。
欧米の方のようだが、日本語は通じるだろうか。
……いや、無理そうだな。
私は英語が苦手だ。単語は覚えているし、ライティングもリスニングもまあまあいけるのだが、いかんせん話すのが。頭の中で文章を考えるから駄目なのか、言葉の回路がうまく繋がらない。
固まっている私をよそに、隣にいた九条さんはお客様のもとへ行き、流暢な英語で声をかけている。にこやかに会話をした後、二人は店内を見て回りながら、気になる商品を手に取り始めた。時々、九条さんのほうを見て質問し、説明を聞いている。
最後に、おそろいのキーケースを購入して帰っていった。
「九条さん、すみません」
「どうしたの?」
「私、英語が苦手で……」
「うん、見てすぐに分かった。礼桜ちゃん、固まってたから」
「………」
「俺も得意かって言われると、どうやろう。単語並べてるだけやしなあ」
……いや、めっちゃ流暢な英語でした。
これまで英語は苦手だからといって後回しにしてきたツケが回ってきたと感じた。
これから頑張ったら、九条さんみたいに喋れるようになるだろうか。せっかくバイトを始めたんだから、自分の世界を広げたい。九条さんみたいにスマートにはできないかもしれないけど、いろんなことに挑戦してみたい。
そんな想いが私を突き動かし、九条さんの目を正面から見据えた。
「せっかくここでバイトさせてもらっているので、私、苦手な英語もこれからがんばろうと思います。もしよかったら、私に商品の説明など、お店で使う英文を教えてもらえませんか」
自分で商品の特徴を伝える英文を作ったら、間違いなく酷いものになる。言いたいことを理解されないだけでなく、もしかしたら使ってはいけないニュアンスの単語を選んでいる可能性もある。なので、商品に関する英文をまずは教えてもらって、それを完璧に覚えるところから始めたい。
そう訴えると、「礼桜ちゃんは頑張り屋さんやねえ」と笑った後、「わかった」と了承してくれた。
BlueberryFlowersは午後5時までなので、もうすぐお店が閉まる。
私のバイト初日は、覚えることは多かったが、穏やかに終えることができた。
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