第14話 ◆ 俺から見た二人(善視点)①
小さい頃からよく知っているクソガキの湊が、初めて女の子を店に連れてきた。
あいつは腹が立つぐらい顔もスタイルもいいし、高校生のときに投資でひと財産儲けて金も持っている。女にもモテ、自分から行動せずとも向こうから近づいてくる。好みだったら付き合うが、彼女との温度差は激しく、不安になった彼女が別れ話を切り出したら、それを受け入れて別れる。
何度かそんなことを繰り返して面倒くさくなったのか、大学に入ってからは彼女さえつくっていない。適度に遊んではいるようだが。
そんなクソみたいなやつが、もう一度言おう。初めて女の子を連れてきた。
しかも女子高生やで!
こいつ悪さしてへんやろなと速攻で疑った俺は悪くない。誰でもそう思うわ!
犯罪の臭いがしないか二人をそっと観察したが、今のところそんなことはなさそうだ。
とりあえず俺は胸をなでおろした。
◇◇
俺の店に来る客は、なぜか9割9分野郎ばっかりだ。だから、狭い店内は、いつも野郎のむさ苦しさで充満している。それに慣れ切っていた俺だから、女子高生が入ってきただけで店内の雰囲気がぱあっと明るくなったのが分かった。お花が舞う感じってやつ?
湊の後ろから窺うように店内に入ってきたとき、俺は固まってしもうて、目で追うことしかできなかった。そして、その女の子は、俺にペコッと頭を下げて席へと向かった。
俺にペコって……(泣)
めっちゃいい子やん!
むしろ制服を着た天使にしか見えん!!
◇◇
湊が初めて連れてきた女の子、礼桜ちゃんは、とても可愛らしい女の子だった。肩の上あたりの長さの黒髪で、目鼻立ちも通っていて、澄んだ瞳はキラキラしている。見た目もすらっとしていて、背筋が伸びているから立ち居振る舞いがとてもきれいだと感じた。そして何より礼儀正しい。こんなおっさんに対しても嫌な顔一つせず笑顔で話してくれる。サービスするたびに、恐縮しながらもきちんとお礼が言える子だった。
そんな礼桜ちゃんから「善さん、美味しいです!」と笑顔で言われてみい!
……笑顔の破壊力が半端ない。
心に潤いがないオッサンの心臓は、いとも簡単に撃ち抜かれてもうた。
会話を続けていくうちに、礼桜ちゃんは俺に対する警戒心を解いて話してくれるようになった。
俺が礼桜ちゃんとの会話を楽しめば楽しむほど、隣で睨んでくるやつがおる。
礼桜ちゃんが楽しそうに俺に話しかけるのが面白くないのだろう。
礼桜ちゃんに気づかれないように俺を睨んでくるが、もちろんそんなん無視や、無視。
俺は、嫉妬する湊を今まで一度も見たことがない。
礼桜ちゃんが自分よりも俺のほうに心を開いていることで、焦りと嫉妬を孕んだ湊の目は口以上に物を言っている。
いつもすました顔をしている湊が初めて見せる人間的な一面を嬉しく思うし、これから揶揄うネタができると思うと楽しみで仕方がない。
◇◇
カウンターの中に戻った後もさりげなく二人を観察すると、湊は話すとき以外もずっと礼桜ちゃんを見ていた。
礼桜ちゃんはというと、湊と話すとき以外はサラダを美味しそうに食べたり、俺に話しかけてくれたり、お品書きを見たり、湊を意識することなく、その温度差がまた面白い。
二人を観察していると、あることに気づいた。
あれだけ礼桜ちゃんをガン見してるのに、湊はもしかしてまだ自分の気持ちに気づいてないんとちゃうか……。
これから二人の関係がどうなるか、未来を想像するだけで、にやけそうになる。
礼桜ちゃんは湊の視線に全然気付いてへんし、湊に対して好意も抱いてない。
やばい、まじでウケる。
笑ろうたらあかんと思うと余計笑いたくなる。俺はにやけそうになる顔を引き締め、眉間にぐっと力を入れてしわを寄せ、何度も耐えた。
◇◇
二人の温度差に笑いを堪えることができず奥の厨房で夜の仕込みをしていると、「美味しい」と言いながら食べている礼桜ちゃんの声が聞こえる。
ほんま可愛くてええ子やな。本心から言うてるのが分かるから、料理人冥利に尽きるわ。
礼桜ちゃんの美味しいを聞きながら仕込みを続けていると、湊がバイトしないかと誘っている声が聞こえてきた。湊お得意の口上手が遺憾なく発揮されている。
これから面白くなる予感しかしない。二人の行く末がほんま楽しみで、俺の顔はにやけっぱなしだった。
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