第11話 なぜか一緒に歩いています

「じゃあ、バッグお預かりします」

「はい、よろしくお願いします」


 修理依頼書の控えをクリアファイルの中に入れ、リュックを背負った。

 代金を払うために財布を出していたのだが、受け取りにくるときでいいらしい。


 お礼を言って帰ろうとしたら、九条さんが話しかけてきた。


「礼桜ちゃんは、ここから天王寺駅まで歩いて帰るん?」

「どうしようか迷ってます」

「天王寺まで地下鉄で行くか、歩いていくか?」

「はい」

「俺も天王寺まで行く用事があるから、一緒に行かへん? 礼桜ちゃんに話したいこともあるし」


 その申し出を丁重にお断りしたかったが、話したいことがあると言われると断りづらく、「はい」と肯首してしまった。



◇◇



 お店を閉めていくから表で待っててほしいと言われたので、私はお店から出て待つことにした。


 空を見上げると、雲一つない澄んだ青空が広がっている。そして、相変わらず、4月初旬にもかかわらず、太陽の陽射しは容赦なく照り付けている。来たときより気温も上がっているようだ。

 汗ばむ陽気で制服のジャケットを脱ごうか迷ったが、これから九条さんと天王寺までご一緒するので、そのまま着ておくことにした。



 「おまたせ」と爽やかに登場した九条さんは、天王寺まで1駅分歩こうと提案してきた。


 天王寺駅のほうを見ると、あべのハルカスがそびえ立っている。

 四天王寺前夕陽ヶ丘駅から天王寺駅までは1駅で、歩いたとしても谷町筋沿いに進む1本道なのですぐ着く。

 途中にある天王寺駅前商店街はまだ歩いたことがないので、どんなお店があるか見てみたい気持ちもあり、九条さんの提案に乗ることにした。



◇◇



 九条さんは背が高くてスタイルもよく、その上イケメンだから、最初、隣を歩くのはとても気が引けた。

 近くに専門学校か何かあるのか、お洒落な私服の学生さん(お兄さん、お姉さん)たちが歩いている。

 天王寺駅前商店街に入るまでは若い女性からの視線が私に刺さりまくっていたが、九条さんはそんな視線をすべて無視し私の隣で楽しそうに喋っていた。


 商店街に入ると年配の女性が多くなり、視線を感じることもあまりなくなった。


 天王寺駅前商店街は、歴史ある商店街なので風情があり、昭和レトロな雰囲気を醸し出している。昔からあるお店もあればコンビニや薬局などお馴染みのお店もあり、ちょっと興味をひかれるようなお店もある、何とも不思議な魅力が詰まっている商店街だと感じた。

 令和なのに昭和感というか、昭和?

 道幅も狭く、距離を空けて二人で並んで歩いていると向かいから来る人の邪魔になる。


 商店街の中に入ると自然に腕が触れるか触れないかの近い距離で歩いていたが、九条さんの話が面白く会話が思いのほか弾んだので、隣を歩く気まずさもなく、近い距離で歩いていることにも気づかなかった。


 そして、今日出逢った九条さんと一緒にいても、全然苦痛に感じることはなかった。



◇◇



「礼桜ちゃん、この先に俺がよく行くお好み焼き屋があるんやけど、よかったら食べ行かへん? 俺も腹が減って倒れそうやから、一緒にどお?」


 商店街を歩いていると、九条さんがお好み焼きを食べに行こうと誘ってくれた。


 初対面の人とご飯を食べに行ったことがないので、正直どう答えていいか分からず、戸惑ってしまった。こういうとき、みんなはどうしているのだろう。

 寄り道もせず家と学校の往復――直行直帰の私にはどうしていいか分からない。

 九条さんと話すのは楽しいし、一緒にいても苦痛じゃない。だからといって、初対面の人とご飯に行くのはいいのだろうか。


 どうすべきか悩んでいる私を九条さんが見ていることさえ気づかず、私は必死に考え続けた。



「……礼桜ちゃん、そこのお好み焼き、めっちゃ美味いよ。ふわっふわ。礼桜ちゃんさえよかったら、お昼食べながらそこで話そ」


 ふわっふわのお好み焼き……、想像しただけで垂涎ものだ。

 そういえば、九条さんは私に何の話があるのだろう。

 悩んだ結果、〝話したいことがある〟を理由に、私は九条さんとお昼ご飯を食べることにした。


 断じて、ふわっふわのお好み焼きが気になったわけではない! ……はずだ。







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