第48話 選択肢を誤る

 やはりというか、お父様はその話を知っていました。

 といっても、監視をつけていたわけではないため行方までは知らないようでしたが……。


「あれは王家の方で監視している。逃げ出したが、気にしなくていいと連絡をもらった」


「……気にしなくても本当によろしいのですか?」


「ああ、一応対外的には自衛のふりだけでもしておくように。情報をもらっていながらただぼうっとしていると見られては困るのでな」


「わかりました」


 王家の監視!

 さすがに今も続いているとは思いませんでした。


 確かに殿下にまとわりついていたという話ですし、王家側、いいえ陛下としてはこれ以上アベリアン殿下の評判を落とされることを避けたかったのでしょう。


 ということは、彼女の脱走を手引きしたのは殿下ではない、ということでしょうか。


「義父上、話はどこまで我々が聞いてもいいのですか」


「そうさな。知っていても知らなくても変わらないことだが……知りたいのか?」


「念のためです」


 レオンは真っ直ぐにお父様にそう言いました。

 私も頷きました。


 そうです、ここまで関わったのですから知っておきたいと思いました。


「……私も知りたいです」


「そうか」


 お父様は短くそう言うと、引き出しの中から一通の封筒を取り出しました。

 そしてそれを私に差し出したのです。


「読んだら燃やせ」


「……かしこまりました」


「この部屋でなくとも良いだろう。後は自分たちの執務室で話すといい」


 お父様はもうそれ以上何も教えるつもりはないのでしょう。

 再び書類に目を通し始めました。


 私たちはお父様にお辞儀をして執務室に戻り、他の者を下がらせてから封筒の中身を取り出しました。

 封筒は何の変哲もない白いもので、差出人の名前はありません。

 宛先すらありません。


 それでもお父様が持っていたということは、なんらかの形でこの手紙を直接お父様が受け取ったということです。


「……そんな、まさか……」


 私は封書の中身を見て、驚きました。


 そこに書かれていたのは、なんとアトキンス嬢を連れ出したのは先に神の道に進んだウーゴ様だというのです。

 ウーゴ様は出家をしてはおりますが、現在も籍はメルカド侯爵家にあります。

 この件は侯爵家でも把握しているのでしょうが、消息は掴めていないようです。


 わかっているのはアトキンス嬢は矯正施設に入れられてすぐに反抗的な態度を取り続け、手紙も幾通も書いていたそうですが……その中身をあらためられては却下されるということを繰り返していたそうです。

 確かにあんな内容のお手紙、よく届いたなと思いますものね。


 どうやら彼女は慈善活動などの合間に貧民街の子供たちに小銭を握らせて、手紙を届けさせていたようです。

 表向きは慈善活動のお菓子を渡したりする行動で、彼女は子供たちに接するときだけは優しく振る舞っていたため誰も気がつかなかったのだとか。

 初めの方は普通に子供たちに優しくして、数回後でそういったことをしていたようなので計画的な犯行と考えていいでしょう。


 まあ手紙を届けてもらうだけならば犯行という言葉は強すぎるかもしれませんが、それが最終的に脱走に繋がったのですから。


「……アトキンス男爵は今回の件をもって、彼女を男爵家から除籍処分と決めたそうよ」


「まあ妥当だ。……まさかと思うが、それも仕組まれたものじゃないよな?」


「それはわからないわ」


 レオンの言葉に、私はただ首を横に振りました。

 仕組まれたものか、そうでないかはわかりません。


 ただ、確かにわかっているとすれば、それは。

 

「いずれにせよ、選択肢はいくつも用意されていた。その機会をふいにしたのは彼女自身よ」

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