第49話 違える道、見つける道
わからない、とは言ったものの、レオンが言ったようにこれは仕組まれたことでしょう。
そうだと確定的なことは記されていません。
ただ、アトキンス嬢が秘密裏に手紙を出せるようになったこと。
それをイザークは困惑して受け取ったものの、殿下はどこか気にしていたということ。
エルマン様はその手紙を拒否したこと。
それから、ウーゴ様は彼女の手紙を受け取った後、ご両親から連絡が届いて還俗の手続きに入ったこと。
以前からメルカド侯爵家は国二つ挟んだ遠国とのやりとりを王家から一任されていましたが、そちらにウーゴ様が赴かれることになっているのだそうです。
「……もしそこに、一人随行者で女性が増えていても王家は知らないふりをするのかもしれないわね」
でもこれも結局私の想像にしか過ぎません。
アトキンス嬢とウーゴ様が逃避行をしたのかもしれないし、アトキンス嬢だけどこかに逃がしてあげたのかもしれない。
殿下のところに……ということは今のところないようですし、これからもきっと……安穏な生活を送りたいのであれば、殿下は彼女を不用意に助けることはないでしょう。
結局のところ、私たちはまだまだ老練な策士たちに好きなように操られているのかもしれません。
(それでも、少なくとも……誰も不幸にならないように導いてくださっていると信じたいわ)
私は名誉に傷がついたけれど、好きな人と結ばれました。
殿下は真実の愛の儚さを知り、重圧から解放されました。
イザークは輝かしい道を閉ざされましたが、自分で道を切り開く誇りを取り戻しました。
ウーゴ様は驕りを知り挫折をしたけれど、新天地に行くことができる。
エルマン様もまた己の傲慢さを知り、本当の騎士道を学ぶのでしょう。
そしてアトキンス嬢もまた、彼女の望まない環境から脱して……その後どうなるかは、彼女が好きに選んでいいのです。
目指していたものと違うということが不幸だというのであれば、誰もが不幸だったのかもしれません。
私は王妃になれませんでした。
殿下は王になれません。
イザークは公爵になれなかったし、ウーゴ様は宰相に、エルマン様は騎士になれませんでした。
けれど、その道が閉ざされたことで見えた道もきっとあったのだと思います。
(……ただ罪を問うよりも、生かす方が難しいのね)
幾手も先を見据えた上で、十分な罰と許しが必要なことでした。
絵物語や演劇のように悪者、あるいは悪ふざけをしたものが派手に裁かれて『めでたしめでたし』で終わればよいのでしょうが、現実はその後も続くのです。
「人の上に立つというのは難しい道ね」
私はその手紙を言いつけ通りに暖炉の火にくべました。
一気に燃えて炭になっていく手紙を見ながら、これから公爵になる身として今回のことを忘れないように覚えておこうと気を引き締めます。
厳しい処罰は、見せしめになるでしょう。
ですがその必要は今はなく、無用な騒ぎは避けなければいけなかった。
現法に従って裁くにも、高位貴族としても人としても、まだ子供の域の
厳しすぎても、優しすぎてもだめなのです。
私たち貴族は常に民に見られていることを覚え、横暴な振る舞いもいけなければ、媚びすぎてもいけない。
「レオン、私が甘ったれたことを言うときは遠慮無く今回の話を思い出させてね」
「……わかったよ、俺の大切な役目だと心得よう」
恋に始まって、恋に終わったこの喜劇。
それでも誰かが不幸になるよりは、幸せになってほしいと思うのはお人好しだからというだけではないと思います。
「ああ、でも……私みたいな
「不幸を願われるよりはいいと思う」
「そうね、そういうことにしておくわ。……きっともう、二度とお目にかかることもないでしょうけれど」
アトキンス嬢にはなぜだか嫌われていましたが、私は決して彼女のことを嫌いではありませんでした。
あれが真実の愛だったかどうかは別として、恋に恋していたのか、それとも本当に恋だったのか……そこもあやふやでありましたが、殿下と共にいた彼女はとても可愛らしかった。
だから、彼女にも幸せになってほしいと思います。
ウーゴ様も、エルマン様も。
新たな地で、幸せになってくれたらと願っています。
レオンが言うように、不幸せを願うよりもそちらの方がずっと素敵じゃありませんか。
私はレオンに夫になってと恋い願って叶えて幸せになったのですから願うことはきっと無駄ではありません。
それなら、幸せを願った方が良い気がします。
といっても、具体的に何かをするのではなく、そうなればいいなあ程度ですけれどね!
「さあ、良き公爵になれるようまた勉強を始めましょうか! 今日はダンスの特訓でもする?」
「……お手柔らかに、マイ・レディ」
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