第47話 行方知れず

 本来でしたら、矯正とはいえ修道院にいる女性の所在を調べるなどあまり褒められた行動ではありませんが……今回に限って言えば仕方のないことだとあちらの修道院長様もお認めくださって、問い合わせに対してすぐにお返事をくださいました。


 といっても、修道院長様は全員について常に把握しているわけではありません。

 修道院の隣に矯正施設を設け、そちらで預けられたご令嬢たちは暮らしているのです。

 担当の修道女たちが彼女たちの指導や教育に携わり、時には悩みを聞く……学園にもあった寮に似ているかもしれません。


 私が問い合わせた際には、確かにアトキンス嬢は修道院にいたそうです。

 そちらでの矯正生活というのは、令嬢生活よりは修道女のような朝早く起きて掃除、拝礼、食事……というような規則正しい生活を送るのだそうです。

 ただ修道女たちは肉や魚などを食べず常時潔斎をしているのですが、矯正目的で暮らしている令嬢たちにはそれらも含め、食事にはデザートもつくそうなので大分そちらに関しては融通が利いていました。


 さすがに華美なドレスやお茶会、それこそティータイムのようなものはないそうですが……まあ、当然といえば当然ですね、矯正用の施設ですから。


「矯正施設って想像していたよりも怖いところじゃないのねえ」


「そうですね。……まあ、大体矯正施設に入れられるのは貴族の令嬢が殆どですから」


 性格に難ありで預け先がないけれど、修道女にはなりたくない……という令嬢を入れることも多いのだそうです。

 元々はそういう事情の高位貴族の令嬢たちを預ける際に高額の寄付を行ったことから施設ができたのだという話ですが……結果としてどれほど矯正されたのか、そこはわかりません。

 基本的には貴族令嬢たちの名誉を守るために世間には『修道院に預けられた』という言い方でどこの・・・とは言いませんから……まあ気づく人は気づくだろうという話し。


「……しかし、困ったことになったわね」


 修道院長様からお手紙をいただいたその三日後、今度は『アトキンス嬢が修道院から姿を消した』というお手紙が届いたのです。

 勿論その話はアトキンス男爵のところにも行っていることでしょう。


 ただ、私への恨み言のようなものを書いていたことを考えると……王都からワーデンシュタイン公爵領まで来ることも考えた方がいいかもしれません。


「手紙が届くまでの間のことを考えるともうすでにこちらに向かっている、あるいは領地に入っていることも想定した方がいいだろう」


「そうね。基本的に私は館から出ないようにしましょう。幸いシーズンは終わっているから、領地の視察は代理のものを立てて……レオンにも申し訳ないけれど、館にいてほしいわ」


「わかった」


「お父様は多分把握しておられるでしょうけれど、私から説明しに行きます」


「俺も行く」


 アトキンス嬢が修道院を抜け出すなんて、一人でやれることではありません。

 誰か協力者がいないと旅費も何もないのですから、あっという間に見つかってしまうことでしょう。


 それが見つからずに不明者として連絡がくるのですから、仲間がいると考えるのが妥当です。

 その仲間が彼女に馬鹿なことをするなと言ってくれるような人ならばいいのですが、そんな人ならそも修道院から抜け出す手助けなんてするはずもありませんからね!


(ああでも、矯正施設できちんと認めてもらえれば貴族社会に戻れるということを彼女が理解していなかったら? 手助けをしてくれる相手に無理矢理修道女にされそうだと嘘を吐いていたら……? そうね、決めつけは良くないわ)


 あらゆることを想定して、適した行動を取れるようにしなくては。

 相手がなんであれ、もしも私たち狙いで来るというならばそれに対して行動をするだけです。  

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