第46話 一難去って
ガーデンパーティーから数日後、あれほど殿下から毎日のように来ていた手紙はなくなり、陛下からは個人的にお礼の手紙をいただきました。
どうやら、お気持ちが落ち着かれたそうです。
これはお父様に伺ったのですが、陛下は最悪、アベリアン殿下を神の道に進ませることも視野に入れていたそうです。
殿下が与えられる領地の代官はそのままそこで働くとのことですから、本当に後は殿下の心がけ次第でしょう。
「あらっ、結局謝罪の言葉は一度もいただけなかったわね?」
前を向いてご立派……とは言えませんね、やはり。
私への謝罪もなかったですし、アトキンス嬢も……彼女の場合は自業自得な面も否めませんが、それでも『真実の愛』として妃に迎える宣言までしておいて、結局見捨てた形になってしまったんですもの。
美談にはできません。
まあ伯爵となった後に、彼女の態度次第で迎えに行くのかもしれませんが……そうであれば、美談になるのかしら?
わかりませんね!
「今からでも謝罪させようか?」
「……いいえ、レオン。きっともう殿下とはそうお会いすることもないと思うから構わないわ。あの方が卒業後に社交で会ったとしても、こちらから話しかけない限りは互いに縁が無いものと思うから」
「そうか」
確かに肥沃な大地に実りも多く、その小麦を買い付ける領は多くあります。
ですが幸いにもワーデンシュタイン公爵家が持つ土地の中にも同じように肥沃な土地はあるので、遠方から買い付ける必要はございません。
万が一の災害に備えての備蓄なども常々考えておりますし、頼らずともなんとでもなるでしょう。
「そういえば、イザークから手紙が来ていたぞ」
「あら。なんて書いてあったの?」
「ロレッタ宛もある。俺には最近の成績がいいから、文官試験に推薦をしてもらえたとあった」
「まあ! 素晴らしいわ!」
文官試験には成績優秀者の中から、学園で片手に足りる程度の人数推薦状が出るのです。
その推薦状があると、試験の受験費用と一部試験を免除されるのです。
イザークは、逆境から見事に立ち直りその資格を実力で勝ち取った。
大変素晴らしいことではありませんか。
「……それで義父様も機嫌が良かったんだな」
「朝から秘蔵のワインを開けてらしたものね」
私も渡された手紙を開き、同じような内容で始まったイザークの手紙に目を細めました。
ああ、なんて喜ばしい話なのかしら!
お父様ではありませんが、私も心が浮き立つのを感じます。
しかし二枚目の便箋には、少々気になることが書かれていました。
アトキンス嬢から、イザーク宛てに手紙が届いたというのです。
対応に困って燃やしてしまおうかとも思ったけれど、何かあってからでは遅いので念のためそちらにも連絡をしておこうと思った、ということなのですが……。
「どうした?」
「アトキンス嬢からイザークにお手紙が届いたのですって。近況と、あの襲撃事件の真相を知ったそうよ。その上で、私を恨んでいるらしくて……」
「はあ? なんでそうなるんだ!」
「わからないわ。私は彼女と学年も違うし、接点がまるでなかったもの……」
そう、イザークによるとアトキンス嬢からの手紙は彼を唆すような内容だったのだそうです。
簡単に言うと、あの襲撃事件が彼女の実母によるものだと知ってしまったらしく、アトキンス嬢は現実を受け止め切れていないのではないか、とイザークは書いていました。
自分は貴族の娘である、出奔して平民になった男爵の兄と飲み屋の女の娘なんかじゃない、王子に見初められたのだとまあそういうことを書いてあったそうで。
きっと自分の美しさを妬んだ公爵令嬢(おそらくそれが私のこと)が自分を追い落としたのだ、イザークも子爵家に戻されて可哀想、王子も迎えに来られないのは悪役令嬢(と本当に書いてあったそうです)のせいだと……。
だから
そも、アトキンス嬢は王都で矯正のために修道院に入っていたはずですが……一体全体、彼女に何があったのでしょうか?
事実を知ったからといって、人間はこんなにも支離滅裂なことを言い出すのでしょうか。
私は困惑しましたが、イザークもきっとそうなのでしょう。
万が一にも妙な行動力で修道院を抜け出してワーデンシュタイン公爵家を目指すのであれば、まともな精神状態ではない相手でしかないから気をつけてくれとありました。
「……一難去って、また一難ね」
私はレオンにお願いして、彼女が今も修道院できちんと暮らしているか確認してもらうのでした。
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