第41話 それぞれが歩む道

 それから程なくして、私とレオンは婚約発表をしました。

 結婚式は来年の夏頃に予定しています。


 マルス様の婚約者が来年の秋頃にこの国を訪れるからその前に式を挙げるよう、そう陛下からお言葉を賜りました。

 どうやら陛下は嫁いでくる南方の公女様の国内後見を、ワーデンシュタイン公爵家に任せるおつもりらしい。


 公女様が嫁いで来るのは当然ながらもっと先の話だが、この国に滞在する間は王城で……そして傍で歓待するのは、王妃でも第二妃でもいけないということなのでしょう。

 妃殿下方からすれば面白くないでしょうが、アベリアン殿下の件であれこれと派閥が揺れ、ここで妃殿下方が我が儘・・・を通そうものなら……盤上の駒は簡単にひっくり返るのでしょうか?


 我が家としては厄介なことこの上ないとため息が出てしまう話ですが、我が家と別の公爵家は妥当な人員がいませんので仕方がないでしょう。

 コリーナ様がいればよろしかったのでしょうが、あの方は嫁いで隣国と縁があるわけですし……一つの家に他国との繋がりを偏らせるわけにはまいりません。


 少なくとも同格の貴族が望ましいでしょうが、そうなるとあとは男性か、年上の方ばかり。

 結果としてワーデンシュタイン公爵家以外にはいないということになるのでしょう。

 そこで婚姻を済ませていることが必要になるのだと思います。

 そうすることによって、他国からの縁談が舞い込むことはございませんもの。


 しかもその相手が没落貴族の子息であり、我が家の家人……ということで国内貴族は不満を呑み込むしかなくなるというわけです。


 まったく、どこまでが陛下の手の平なのでしょう?

 王妃様も第二妃様も、陛下と愛を育まれていれば今頃とんでもなく幸せな王家ができあがっていたような気がしないでもありませんが……まあ、そんなことを考えても仕方ありませんね。


「レオン、どうだった?」


「……殿下は本当に諦めが悪いな。もう卒業間近なのだろう?」


「そのはずだけれど……イザークから返事は?」


「まだ来ていない。あいつもそろそろ年末考査で勉学が忙しいんだと思う。この間の連絡じゃ、イザークが子爵家に戻ったからかアベリアン殿下は一切無視してくるとあったからな」


「そう……」


 ここ最近、また殿下が面会を申し込んでくるようになったのです。

 それも、私に対して。


 初めは曖昧にお断りしていたのですが、あまりにもしつこくて……円満に解消したとは言えない関係だから、会いたいと言われるのも迷惑だと一度はっきりお断りもしたのです。

 それでも止まなくてお父様にもご相談したのですが……。


 どうやら殿下は、学園での言動以前に成績の下がり方で卒業を待たずに爵位と所領について決定したらしく。

 それらを陛下から言い渡されたから困っている……とのことでした。


 私への手紙は基本的に面会の申し込みをする内容ばかりで他は特に意味も無く、最近ではレオンが全て変わって断りの手紙を書いてくれています。


「まったく……婚約発表も済ませているのに、どうして私が会うと思っているのかしら」


「婚約をしたから俺が傍にいれば問題ないとでも考えたんじゃないか?」


「それでも普通、あんな騒ぎを起こした相手に会いに来るかしら」


「謝罪がしたいとか?」


「それならまずは文章でよこすのではなくて?」


「まあな」


 そうです、あの日のことを謝罪もなくただ会いたいとか!

 いえ、謝罪をされても今更……という感じなのですが、礼節というものがあるでしょう?


 本当に何を考えているのかさっぱりわかりません。


 最低限の礼節も尽くさず、再度の醜聞になるかもしれない行動をとってまで地位と名誉にしがみつきたいのでしょうか。

 そんなことをしたら余計に失うものの方が大きいと、普通に考えたらわかりそうなものですが……。


「……他に頼るあてもないんだろ」


「だとしてもよ?」


 あれだけ私のことを蔑ろにしておいて、今更縋られても困ると言いますか。

 レオンも呆れつつ笑っています。


 その件に関してはイザークも呆れているようで……ああ、ちなみに反省してからのイザークは元々優秀だっただけあって、今では学年トップになっているようです!

 周囲の目は相変わらず厳しいものはありますし、恋人もいないようですが……それでもきちんと『自分なりに将来を見据えて、文官試験を受けるつもりでいます』と書いてくれていたので……。


 いずれ子爵家を出て平民になってもイザークならばきっと文官試験に合格して、良い人に巡り会えると私は信じています!


「……早く、殿下も目を覚ましてくださればいいのに」


 思わずそんなことを呟いてしまいましたが、レオンは聞かない振りをしてくれたのでした。

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