第42話 一計を案じる

 断りの手紙を書き続けてもう何通目なのか、レオンがうんざりした顔をする日々です。

 陛下にもお父様経由で苦情申し上げているのだけれど……。


「いっそのこと一代男爵とかにして寂れた土地の開発にでも行っていただいた方がいいのかもしれんなあ」


「お父様、さすがにそれは……」


「可哀想かい?」


「領民の方にご迷惑でしょう。殿下は……私と同じように、まだ未経験者なのですから」


 私の言葉は偽善でしょうか?

 いいえ、正しく領民のためです。


 勿論、殿下のことを案じている自分もいます。

 かつて辱められたことは忘れておりません。

 ですがあれのおかげでレオンとの未来を手に入れることもできましたし、己の未熟さを知ることにもなりました。


 たとえ甘いと言われようが、気付きを得られたことは確かで……そしてそれが、殿下にも訪れることを私は願っているのです。


(あの方は、自分に甘い方だけれど)


 それでも、王子として多くのことを学んでこられた方なのです。

 いずれは王になるべく、多少……そう、多少教師陣を困らせていたということはあっても、学んだことは領主となった後には決して無駄にはならないでしょう。


 とはいえ、以前お父様が仰っていたように、未経験のことを熟練者と同じようにやれというのは無理な話なのです。


(いきなり運営の厳しいところに放り込んでも難しいのではないかしら。そこの代官たちと上手く付き合える性格ではないだろうし……)


 なにせ、王子としてチヤホヤされることに慣れている殿下のことですから……ああでも、学園で少し変わったのかしら。

 身分が低くなったイザークを無視しているとあったから、あまり変わっていないのか、それともただ自分のことが手一杯で周りが見えていないだけなのか。


「いずれにせよ、私とは今後それほど縁があるとは思えませんし会わずに済めばそれで良いのですが」


「しかし延々と手紙を送りつけられても困るし、これ以上陛下に苦情を申し上げると待遇を悪くするといった処罰を取らねばならなくなるだろうしなあ」


「それはそれで困りものですね……」


 陛下としては親として諭してくださったそうなのですが、殿下は納得ができないからこそ私に手紙を送り続けているのでしょう。

 かといって公爵家として正式に苦情を申し立てて止めさせることは……それこそ陛下が処罰するという形で収めることは可能ですが、それだと少々対外的によろしくありません。


 勿論、殿下がしつこかったから……というのは理解していただけるとは思いますが、それでも『婚約者として扱ってもらえなかった腹いせに、ワーデンシュタイン公爵家の名前を盾に殿下を冷遇させたに違いない』なんておかしな言いがかりをつける輩が出てきてしまうかもしれませんからね。


 残念ながら他家の足を引っ張ってずる賢く立ち回ろうとする方はどこにでもいるもので、小さな綻びを自ら生み出すわけにはまいりません。

 私はまだまだ立ち回りが上手いとは言えませんので、余計な手間はかけたくないのです。


「どうしたものかしら……ああ、いえ、一度お目にかかりましょうか」


「うん? どういう風の吹き回しだ」


「レオンの誕生日が来月ありますでしょう? うちうちでパーティーをしようと話しておりましたが、ガーデンパーティーに変更いたしましょう。親しい方や友人たちをお招きする中で、殿下のこともお招きしたく思います」


「……ほう?」


「周囲の方に私たちが和解をする姿を見ていただければそれでよろしいのではないかしら」


 我が家に殿下お一人でやってきて私と対面するというのが困る話であって、ガーデンパーティーで和解をする分には周囲もお手伝いしてくださることでしょう!

 そこにはやっかみや興味本位、ごますりなど……まあいろいろな意図があるでしょうが、そこはそれ、そのお気持ち・・・・に私も助けていただきたいと思います。


「なるほど。では采配は任せよう」


「ええ! 身内でのパーティーは夜にいたしましょうね、お父様」


「……」


「レオンのために何か用意していらっしゃるのでしょう?」

 

 愛しい婚約者の誕生日をこんなふうに利用させてもらうのは少し罪悪感がありますが、その挽回は夜にしっかりと祝うことで許してもらいましょう。


 お父様も何かお祝いの品をコッソリ用意していたようですし、勿論私も……ね?

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