第40話 いつかまた

 あの騒動から半年以上が経って。

 イザークから手紙が届きました。


 それは正式な手紙の書き方で、きちんと礼儀作法に則り、更には私とレオンの連名で当てられた手紙でした。

 一体何事かと封を切ってみると、そこには驚きの内容が記されていたではありませんか。


 まず、アトキンス嬢が中間考査で基準点に達さなかったため、留年もしくは退学を迫られ、アトキンス男爵家はこれを受けて退学を選択させたとのこと。

 その際アトキンス嬢が暴れて騒いでしまい、怪我人まで出してしまったために彼女は王都にある修道院に一時預けられることとなってしまったのだそうです。

 そちらは問題のある貴族令嬢などの更生を取り扱う場所でもあるため、そこでしばらく頭を冷やした後にどうなるかということらしいですが……。


「なんてこと」


 そんなことになっていただなんて!

 彼女は彼女でこれから頑張るのかと思っていました……。


 そしてイザークによると、アベリアン殿下もまた厳しい状況に置かれているのだとか。


 学園では今後のためにも品行方正な態度を貫こうとなさっていた殿下ですが、アトキンス嬢が常に殿下の傍について回るために周囲の目は厳しくなるばかり。

 ただでさえ醜聞で厳しかった目に加え、恋しいとまで宣言した女性が自身にとって負担になると思ってしまった殿下はそれが祟ったのか日に日に授業についていけなくなっていて、今では成績も酷いものだそうです。

 それでも退学にはならないだろうとのことでした。


 ただ、いずれにせよあの二人は表向き反省はしているが、自分の現在の境遇に対しては納得していないようだから逆恨みの可能性がある、とのことでした。


(陛下は冷たいように見えて、殿下にたくさんの選択肢とやり直す機会を与えていらした。だからきちんと卒業まで通えたならば、最低限貴族として暮らしていくだけの所領はいただけるのではないかしら)


 イザークの手紙には、お父様にも同様の手紙を出したとありました。

 とても丁寧な文体で、あの子がしっかりと反省を活かして頑張っているのだとわかります。


「……嬉しそうだね」


「ええ。彼は前を向いて歩けているのだと思うと」


「自分の近況も書いてくれればいいのにな」


「……そうね」


 そうです。

 幼い頃から私と共にいるレオンにとっても、イザークは弟のようなものでした。


 あの子もレオンによく懐いて、剣を振るうレオンに憧れていたこともあったのです。

 私たちは三人でよく過ごしていたのです。

 今となっては、懐かしい思い出にしか過ぎません。


 ですが、この手紙には……遠くない未来に、もう一度三人でお茶をする機会に恵まれるのではないか。

 そういう希望が、見えた気がしました。


「そろそろ時間だ」


「ええ。叔母様の茶会に遅れてはいけないわ」


 私たちは、積極的に社交をこなしています。

 今はまだ、会話の裏の裏まで理解できないことも多々ありますが……少なくとも、私とレオンの関係をあの醜聞から切り離して見てもらえるよう、努力を重ねる日々です。

 

 お父様は対話は経験で、間の取り方や相手の仕草、そして自身が持つ権力というカードをどのように使うかが難しいと仰いますが……女性同士はまた異なるということで、私は倍覚えないといけないようなのです。


 勿論、レオンが助けてくれます。

 ですが将来的に公爵として、交渉の場などで直接誰かと対峙するのは私ですもの。


「そろそろ俺たちの婚約式を開いても良さそうだと義父上が仰っていた」


「まあ。気が早いわ、レオン」


「……そう呼べと言われているんだよ」


 どうやらお父様は、昔から可愛がっていたレオンを早く息子に迎えたくて仕方がないらしい。

 外では威厳たっぷりなのに、我が家の中では早く他家に向かって『うちの婿はすごいんだ』と自慢したくてたまらないらしいの。


 レオンは困った顔をしてばかりだけれど……それが照れ隠しだと知っています。


「仕方がないわねえ、本当に」


 このまま、忙しいながらも穏やかな日々を過ごしたい。

 私はそう願うのでした。

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