第4話 未経験の恋愛相談
五月も半ば。このクラスが始まって一ヶ月を過ぎた。ともなれば、クラスでちらほららグループができ始める。
趣味の合う奴ら同士のグループや部活メンツのグループ、毎度おなじみ赤幡軍グループなどなど。徐々にぼっちな奴らが少なくなってきている。
そんなことに焦りを覚えつつ、今日も一日が始まる。
このクラスでまともに話したことがあるのは澤崎さんぐらいだ。
この前、いろはにぼっちと言われ、否定したことは正しいのだが、毎回お喋りするような仲間がこのクラスにはいない。つまり、孤立状態というわけだ。
……まぁ、別にいいのだが。
一人は気楽な面もあるが、時に困ったこともある。グループワークや体育のグループ決めで組む相手がいないということ。それをこれまで何回経験してきたことか。
でも、結局交友関係もマイペースに自分が付き合いたいと思った奴と付き合えばいいと俺は思っている。
「ねぇ……さっきから一人で頷いたり表情が険しくなったり……どしたの? 考え事?」
「え?」
どうやら感情が動きと表情に出ていたらしい。
引き気味に澤崎さんに指定された。
澤崎さん。俺の隣の席の女子であり、数少ない俺の女子友だ。
このクラスで一日一回は話す女子は澤崎さんだけではなかろうか。それに、一緒に下校もしている。俺にも転機がやってきたに違いない変化なのだ。
これを機に俺は変わっていこうと思う。と、思ってもう一ヶ月が過ぎている。口では簡単に言えても、実行に移すとなると相当な活力が必要になる。そもそも、何をすればいいのか。さっぱりだ。
早々に諦めかけている俺はもう、自分らしくマイペースに生きていくのが一番なのだろうと結論付けた。
残りの高校生活は約二年というところ。さすがに彼女の一人や二人は作りたい。
あ、さっきのは語弊があったかも。決して二股したいわけではない。俺は一途に愛したい派の人間だ。
いつか、この言葉を後悔する日が来るのか来ないのか……。今の俺にはまだわからない。
さて、次の授業は現代文の授業だ。今は物語を読んでいるため、教科書は必須。
俺は机の中から現代文のセットを一式取り出す。
横であたふたと机の中を覗き、ロッカーを見て戻ってきてはまた机の中を覗いている澤崎さんが目に入る。何となく予想は付くが訊かないことには何も起こらない。
「澤崎さん。もしかしなくても教科書忘れた?」
「う、うん……」
とてもバツが悪そうな表情をする。
何か言いたげな顔に何となく察しがつく。見せてほしいのだろう。これを。
「教科書ないと困るだろうから見せてあげるよ」
「ありがとー、成李くん! 恩に着るよ」
そこまで感謝される程のことはしてないと思うけど。
まぁ、現代文の先生怖い感じの人だから忘れましたとはとてもじゃないけど言い出しにくいか。でも、結局言うことにはなるだろう。だって、絶対に隠しててバレた時の方が怖いんだから。
このあと、ちゃんと澤崎さんは報告しに行ってました。
そして、昼休み。今日は珍しく、アイツが俺のクラスへとやってきていた。
「お前に折り行って相談があるんだ……」
「なんだなんだ、急に改まって。しかも、人目につかないところでご飯食べようとか……」
いつもなら教室でお弁当を食べるのだが今日は俺の親友、
運良く椅子と机があり、地べたに座って食べる必要はなさそうだ。
俺らは向かい合って座り、腹が減った俺はさっさとお弁当を開けて食べ始める。
「親友であるお前にしかできない相談なんだ。受けてくれるか?」
「ああ、もちろんいいぞ」
「ありがとう、成李! 恩に着るぜ!」
一日に『恩に着る』って二回言われることなんてあるんだな、と思った。
で、やっと奏斗もお弁当を開けて、食べ始める。
奏斗とは高一の時にクラスが同じで知り合い、親友になったのだが、いつもお弁当のクオリティーが高いなと奏斗のお弁当を見るたびに思っている。
栄養バランスの取れたメニューに彩りは完璧。それだけでも凄いのにこれを自分で作っているなんて言うもんだからなお驚きだ。
奏斗って案外女子力が高いのかもしれない。
「相談に移る前にな、成李に一つ訊いておきたいことがあるんだが……」
「ん? なんだ」
玉子焼きを口に運びながら応える。
「成李って彼女いるか?」
「いないに決まってんじゃん逆にいると思った?」
一息で、普通なら二文に区切る文章を一文に繋げ、早口気味に言う。
「あ、いや……。なんかごめん。てか、それ自分で言ってて悲しくならないか?」
「まぁ……うん……なる」
俺が一番今悩んでいるのは『交友関係(女子)』。このままだと、彼女は愚か女友達すらできないと危惧していたところだ。
マイペースにとは決めたものの、心の焦りは消えないものだ。
たが、最近は澤崎さんという女友達ができたのだ。進展あり。良い傾向なのだ。
まぁ、彼女はできてないが……。
「えっと……それはいいとしてだ。今日お前に相談したいのは恋愛に関してなんだ」
「え、恋愛?」
それって俺が受けれる相談なのだろうか。彼女いない歴=年齢の俺が? しかも恋愛経験は小学校以来ない。
最近やっと女友達ができたような男に恋愛相談相手が務まるのだろうか。
「他にも相手いるんじゃないか? 恋愛相談なんて、恋愛経験がほとんどない俺にすることじゃないと思うけどな」
「相談に経験なんて関係ない。お前だからこそ、相談したいんだ」
嬉しいことを言ってくれる。そこまで言われたら受けてやるしかないじゃないか。
いいだろう。もしかしたら今後の自分の成長にも役立つかもしれないし、ひと肌脱いでやりますか!
「恋愛経験ないけどできるだけ、力になれるように頑張るわ」
「ホントにありがとな」
「というか、なんで急に恋愛相談なんだ? 今までお前に彼女ほしいような素振りはなかったのに」
「まぁ、高二にもなって彼女いないのはあれかなと思ってな」
その言葉は針となって俺の心に突き刺さる。
「そ、そうだな。それで、恋愛相談って具体的にはどんな相談なんだ?」
「好きな人ができたんだ。だから気持ちを伝えたいなって」
「つまり、告白したいのか」
「そういうことだ」
奏斗とは二年生になってからほとんど会ってなかったけど、その会わない間にコイツ恋愛なんてしてたのは驚きだ。
しかしコイツは何かと容姿はいいからな。モテはしなくとも、ブサイクだからとかという理由でフラれることはなさそうだ。
「相手は誰なんだ? それによって方向性が変わってくる」
「
「ああ! あの髪色明るいショートで美形の」
「そうだ」
なるほど。二軍の高嶺狙いだということか。
この学年で高嶺の花と呼ばれる存在は、赤幡軍グループと鐘鈴軍グループのメンバーだ。
だが、その他にも美人や可愛い子はいる。それを『二軍の高嶺』と呼んだり呼ばなかったり。
奏斗の言う柊さんは赤幡軍でも鐘鈴軍のメンバーでもない。だから二軍の高嶺に分類されている。
二軍だからと言って人気がないわけではない。柊さんはクールな雰囲気があるが、とても優しく、誰よりもクラスのために動いてくれる存在。
去年一年一緒のクラスで過ごしてみて、この人はクラスに欠かせない存在何だなということがわかった。
だからこそ、柊さんの人気度は高い。相当強い接点がないと進展はないだろう。
「柊さんとは今年も同じクラスなのか?」
「運良く今年も同じクラスだ」
「なるほど」
取りあえず、関係を築くのは簡単そうだ。
「関係はどこまで進んでるんだ?」
「ん? 普通に仲いいぞ」
「あ、そうなの……」
これは、案外すんなり事が収まるのではないか。
仲がいいのと関わったことがないのとでは天と地の差が生まれる。仲がいいだけマシだ。
後はここからどのようにして関係を発展させるか。
「もういっそのこと、呼び出しちゃえよ。そしたらすぐ済むぞ」
「別にオレはそこに困ってるわけじゃなくてだな……」
「え? じゃあ何に困ってるんだよ」
「どういう言葉で伝えるべきかだよ」
うーむ……。どういう言葉で? 難しいなぁ……。
普通に「好きです。付き合ってください」じゃだめなんだろうか。
「なんかありきたりだろ? 普通のはさ」
俺の考えを汲み取ったからのように反応してくるな。
確かにありきたりではあるが……ありきたりではだめなのだろうか。気持ちさえこもってればありきたりでもいい気がするけど。
ありきたりじゃないのならどういう感じなのだろう。
――オレ、お前のことが好きだ。一生お前のことを守る。だからオレと付き合ってほしい! とでも言うのだろうか。
そういうのはプロポーズでやったらいいのだよ。
「じゃあ、奏斗はどういう風に言うつもりなんだよ」
「えぇー……オレ? オレは……こんなオレで良ければ君の未来を輝かす光でありたい。隣で共に歩もうこれからも。君が好きだ。付き合ってくれ。って感じにするつもりなんだが、どうだ?」
「うん。なんだろうね……重い」
「重い!?」
「付き合っただけで一生一緒に歩まないとだめな感じが出ててすごく重い。それに無駄にカッコつけてるのがきしょい」
「えぇ……」
俺ならこんな告白するやつと付き合いたいとは思わないね。第一印象が重い、きしょいだからな……。
さすがに少女漫画じゃあるまいし、こんなセリフを言ったところで女子がキュンキュンするわけでも心をつかめるわけでもない。現実だと、むしろ引かれるまである。
「もうさ、好きです。付き合ってくださいって言うだけでいいのよ。わざわざ凝った告白をしなくてもいいの。気持ちさえ伝わればいいんだから」
「うーん。でもな。ちょっと物足りない気がするんだよ」
物足りないって何なんだよ。
「じゃあさ、これは――」
「お、奏斗くん。やほー」
俺の提案は第三者の乱入によって遮られる。
「お、おお。心晴。こんなところで何してるんだ?」
「ちょっと委員会の仕事で生徒会室に呼ばれてね。そっちはなになに? 男子の密会かな?」
「ま、まぁ、そんなところだ」
「ふふ。じゃあ、女子は禁制だね。またね」
「うん、また」
あれ? 俺が思ってたより十倍は仲いいぞ?
「お前、柊さんとどれだけ仲いいんだよ」
「どれだけって言っても……オレら幼馴染みだし」
「おい。それを先に言わんかい!」
俺は今、少し仲の良い好きな女子に告る方法を訊かれてるんではなくて、好きな幼馴染みに告る方法を訊かれてる?
それとこれとでは話がガラリと変わってくるんだが?
「幼馴染みなら、そこまで深く考えずに告白したらいいんだよ!」
「幼馴染みだからこそ考えちゃうんだよ! どうやっていい感じにしようかとか」
幼馴染みに対してってそんな感じなのだろうか。今幼馴染みと言える存在が近くにいないからイマイチ理解しがたい。
「そこまで言うんだったらさ。柊さんと過ごしてどう感じてる?」
「えっと……楽しくて、あっという間に時間が過ぎちゃう」
「それをそのまま告白の言葉にすればいいんだ。例えば、君と過ごす時間はあっという間で、もっとたくさんの時間を共有したい。だから、オレと付き合ってくれ。こんな感じでいいだろ」
「おぉー!」
奏斗がパチパチパチと手を叩く。どうにか納得したようだ。
そして、丁度いいタイミングで昼休み終了十分前を知らせる予鈴が鳴る。
「じゃあ、さっき俺の言った言葉を奏斗なりにアレンジして、告白にチャレンジしてこい」
「おっし! わかった!」
自分たちのクラスのある階で俺らは別れた。
教室に帰ると澤崎さんそれに気づいて声をかけてきた。
「今日は友達と食べてたの?」
「ああ。呼ばれてな」
「ふーん? いつも一人なのにね」
ニヒッと笑う澤崎さん。そこには何かと言いたげな口がある。
「うっせ」
「そうだ。今度はあたしとお弁当食べない?」
「え、俺と?」
「うん。もっと成李くんのこと知りたいし」
「あっそう……? 別にいいけど」
「やったっ! じゃあ、楽しみしてるね」
そういうことは他の男子に言うんじゃないぞ。男子はこういうのをすぐに好意だとか言って勘違いする。
言った相手が俺でよかった。ホントに俺でよかった。
数日後、奏斗から彼女できましたと報告を受けた。どうやら無事に付き合えたみたいだ。
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