第2話 ショッピングデート?

 ある日の休日。この前もらったお小遣い五千円を握りしめ、ルンルン気分で午前十時頃に家を出発した俺は、今、本屋に向かっている。しかも今日はいつもの近所の本屋ではなくて、遠出をして都心部の大型本屋に行くのだ!

 その理由は、確実に欲しい小説を全巻買うためである!

 この冬シーズンスタートの新アニメでどハマリした作品があって、つい先日アニメが十二話で最終回を迎えた。まだ二期の発表はされていないが、俺の感覚だとこれはあるね。俺の第六感がそう言っている!

 アニメが最終回になれば続きが気になるのは必然的なことであり、運良く昨日お小遣いをもらったので今日は原作を買いに行くっていう魂胆こんたんだ。


 俺がどハマリしたアニメというのが、Web小説サイトから書籍化し、マンガ、アニメも合せ、とても人気のある原作がライトノベルのアニメだ。

 ジャンルは大きくいうと異世界ファンタジーになると思う。

 ストーリーは、世界の均衡を保つコアクリスタルという物が五つ、各都みやこにあり、そのクリスタルを守っている結界が一時的に弱まる年。そんな時に結界が魔族によって破壊され、コアクリスタルが奪われる。コアクリスタルを取り戻すべく、クリスタル管理責任者である主人公が旅に出る話という感じの話である。

 タイトルは『うちの専属メイドにはウソが効かない』っていうのだが、タイトルとストーリーがあってないような気もする。確かに主人公に仕えるメイドはいて、ウソが効かないみたいだ。でも、それがどう絡んでくるのか……。

 そう考えてたら原作を読みたくなったのだ。


 うちの最寄り駅から一時間もすれば目的地の最寄り駅まで着いている。

 大型ショッピングモールるるぽーと。ここの本屋は俺が知ってる本屋の中で一番大きい店舗なのだ。

 ショッピングモールなので、本屋以外にも飲食店や雑貨屋、服屋、日用品店などなど、一日中いても飽きないような施設だ。それに、ゲーセンもあるし。

 まぁ、今日の目的は本屋で小説を買うことだからそこまで長居はしないだろうけども。昼ご飯だけは食べて帰ろうか……。


 エスカレーターをスゥーと登っていき、本屋のある階までやってくる。

 本屋の中に入るとふわっと新本の匂いというのだろうか。俺の好きな匂いが香る。

 それにしても流石は大型店。奥が見えない程の奥行きだ。横もまぁまぁ広い。

 こりゃぁー本棚探すの大変だぞ、と思っていた矢先に検索機の看板が俺の視界に入ってきた。

 サクッと検索機に探している作品名を打ち込み、検索する。すると、その本のある棚までの案内がレシートのような形で出てくる。


 そこからは早く、当たり前だが案内通りに進むと目的の本棚までたどり着いた。

 俺の求めていた小説のコーナには祝アニメ化や、なんとかかんとかな作品などのポップで飾られていた。それを見るだけでこの作品の人気度が伝わってくる。

 この前調べた情報によると既に原作は完結しているらしい。最終巻は十巻と多くもなく少なくもないみたいな巻数だ。

 近所の本屋では見事に歯抜けだったこの作品の本棚がここでは全巻揃っている。

 さっき言ったがもう一回言わせてもらう。流石大型店だ。


 全巻合わせてざっと六千円ぐらいだった。お小遣いの五千円プラスで千円。ちゃんと計算してお金は持ってきたから、財布にはしっかりと全巻買うためのお金が入っている。

 一巻から順に取って行こうと小説に手を伸ばしたところで、これは持ちきれるか? と疑問が湧いたので、取りあえずカゴを探しに行った。

 カゴを取って戻り、全巻をカゴの中に入れ、そのままレジへ。会計を済ませて本屋を出たところでピコンとルインの通知が鳴る。

 見てみるといろは(俺の妹)からだった。


『おにぃ、今るるぽーといるんでしょ? お願いなんだけど、この店でこの服あるか見てきて欲しいの! ついでにあったら買ってきてくれる? お金は後でちゃんと渡すからさっ!』


 と、書かれており、そのメッセージの後に店のURLと欲しい服の写真が送られてきた。

 やれやれ、全く兄使いが荒いな、と呆れながらも了解と返事を打つ。


「えっとー……この店の場所はっと?」


 本屋の前にあった案内板で店の場所を確認する。今は時代が進んで液晶の案内板だ。しかもタップできて、全階のフロア情報が一つの案内板で調べることができる。おかげで店が探しやすい。


「あ、あった。この下の階か」


 昼ご飯だけでも食べてすぐに帰るつもりだったが、ちょっと長居することになりそうだ。


 服屋の前。写真だけじゃ気づかなかったが、前まで来てみてわかった。

 ここは男子が出入りするような店じゃない! 雰囲気がもう男子お断り! って言ってるよ……。

 あ、でも男性がいる……けど、その隣には女性。絶対カップルだ。確かにこういうところに彼女と来るのは合法だ。男子は来るなって雰囲気の店でも女性が一緒なら入りやすい。

 どうしようか。素直に入りづらかったからいろはが自分で行けよって言うか? でもなー、そんなこと言ったらいろはに……。


『おにぃって雰囲気だけでやられんの? クソどーてーじゃん』


 とかって言われた暁には多分もう立ち直れない……。

 今からいろは呼び出すか? いや、今日は午後から友達と遊びに行くとか言ってたけ? じゃあだめだなぁー……。

 そう頭を悩ませていた時。


「あれ? あ! 成李くんじゃん! 奇遇だねー」

「ん? あ、澤崎さん」


 俺の左側側から現れたのは澤崎さん。


「こんなとこで何してんのぉー?」

「そういう澤崎さんこそ何してるんだ?」

「あたしはただ、服を見に来ただけ」


 服? もしかしてここの服屋に用だろうか……。ならば都合がめちゃくちゃいいんだが。


「で、あたしの質問に成李くんも答えてよ」

「あ、ああ。なんというか……妹のお使い?」


 ん? と澤崎さんが頭にはてなを浮かべてたので、事情を説明した。ついでに入りにくいんだよってことも話したが、お腹を抱えて大爆笑された。


「あっはははは!!! 成李くんってそういうとこあるんだね!」

「何でそこまで笑うんだよ。澤崎さんだって女性お断りみたいな雰囲気を出してる店は一人だと入りづらいだろ?」

「ま、まぁ気持ちはわかるよー。入りにくいよね」


 ふぅーと一息吐いてから澤崎さんがこう言う。


「で? あたしにどうして欲しいわけよ。あたしもここの店に用があるよー?」


 どうして欲しいかわかっているくせにニヤニヤしながらわかっていないかのような口調で質問を投げかけてくる。


「い、一緒に服屋に入ってください……」

「うふふ。うん。いいだろう」

「ありがとう」


 ほっと胸を撫で下ろす。

 これでいろはのお使いを果たすことができる。


「でも、一つ条件を飲んでもらうよ」

「条件?」

「そう条件! その条件とは、あたしの服選びに付き合うこと」

「なんだ、そんなことか。オッケーその条件飲むよ」

「あ、案外すんなりと……」


 なんか、予想してたこと違った時のような反応をするな。別に服選びに付き合うぐらい苦じゃないからいいじゃないか。


「よし! じゃあー入ろうか」

「うん!」


 てくてくと歩いていき店と通路の境界線を踏んだぐらいで澤崎さんが呟く。


「うふふ。うれしいなぁー、成李くんと初めてのデートだっ! しかもショッピングデート!」

「え? デ、デート!?」


 デートって……これってデートに入るのか!? だ、第一俺らは付き合っていない。付き合ってないのならデ、デートとは言わないだろう。

 デートって交際する男女が出かけることを指し、ただの友達関係の男女が出かけた、しかも服屋に入っただけでデートになるはずがない。


「あれ? なんか焦ってる?」

「い、いや、そんなことないけど?」

「え、そう……?」

「うん。全然大丈夫!」


 内心はパニック一歩手前だが……。

 

 少し落ち着いて取りあえずいろはが言っていた服を探すのだが、あちらこちらにある服。俺には全て同じに見える。多分俺が探してもきりがない。店員さんに訊くのが正しいだろう。澤崎さんも自分の服を見に行ったし。


「すいません」

「はい。いかがなさいましたか?」

「この服を探してるんですけど、どこにありますかね?」

「この服はあちらにありますのでご案内しますね」


 すると、的確に角を曲がり目的の服が置いてあるコーナーまで案内してくれた。流石店員さん。


「こちらになります」

「ありがとうございます」

「彼女さんにプレゼントですか?」


 店員さんがそんな質問を投げかけてくる。


「い、いえ! 妹に頼まれたんです」

「あ、そうでしたか! では、また何かあればお呼びください」


 そう言うと店員さんはレジの方へと帰っていく。

 やっぱりこういう店に来る男性は彼女にプレゼントする服を選びに来るのだろうかと、店員さんの後ろ姿を見送りながら思い、俺は服の方に視界を移す。

 カラーは黒、白、ベージュ、ワインレッド、深緑と意外と大人な感じの渋いカラーでありながらもデザインがオシャレでかわいいため渋いというのを感じさせない。

 サイズも全サイズ置いてあった。

 しかし、ここである問題に気づく。いろはが欲しい服の色と服のサイズを俺は知らない。

 服選びにおいて重要なサイズを知らなかったら本末転倒だ。


「お、成李くんいたいた」

「ああ、澤崎さん……ってそのカゴいっぱいの服は何? 全部買うの??」

「違うわ! 試着するのぉ!」


 値段を考えていないのか、とびっくりしたがそうではなく試着するだけだったよう。一安心だ。もしこれで全部買うとか言われてたら女子の経済力の恐ろしさに怯えていたところだ。


「それで、あったの? 妹ちゃんが求めてた服」

「あったはあったんだけど……色とサイズわかんなくて」

「服選びの上で重要な二つがわかってないじゃん……」


 と、ちょうどその時、ピコンと通知音がなる。いろはからだった。


『あ、そうそう。伝え忘れてたけどサイズはМで色はワインレッドでお願い』


「だってさ」


 スマホの画面を澤崎さんに見せる。


「よかったね。ベストタイミングでわかって」

「よし、買うか。うわっ、そこそこええ値段しますやないか」


 値札を見て金額に驚かされる。いつも俺の買う服の三倍するぞ……。


「まぁ、女子の服ってそういうもんよ?」

「へ、へぇー……」


 財布を開いて持ち金を見てみるが、足りないぞ?

 どうしようかと迷った末にいろはにお金を電子決済アプリに送金してもらうことにした。


「じゃあ、成李くんの用事が済んだなら、あたしの服選び手伝ってよね!」

「条件だしな。しっかり選んだるよ」


 澤崎さんはカゴいっぱいの服を持って試着室へと向かう。

 さっき澤崎さんが言っていたことだが、今日買いに来た服は新しい春服と数枚の夏服を見に来たらしい。春服は季節的にはベストたが、夏服を着るまだには少しまだ肌寒い。

 夏服は大体蒸し暑くなる6月後半ぐらいから着れそうな服を探しに来たのだと。

 そんな新しい服がいるのかねと思うけど、女の子はファッションを大事にするみたいだし、服選びは大事な行事なんだろう。

 正直、澤崎さんとプライベートで会ったのは今日が初。いつもは制服姿だから澤崎さんはファッションセンスがいいのかは知らない。けど、今日会った時見たの私服は普通によかった。

 ちょっと暖かいけど、まだ風に冷たさの残るこの季節。

 今日、澤崎さんは、白のブラウスの上からチェック柄の茶色ワンピースを着ており、薄いカーディガンを羽織っていた。ワンピースは腰辺りにリボンが付いていてなかなかいいアクセントになっていた。そして、首元にはネックレスもしていた。なんか高校で会う時よりも俺には澤崎さんが一段と大人びて見えた。

 ファッション一つで人の印象というのは変わるものなのだなと痛感させられる。俺も少しファッションに気をつけようか。そしたらモテるかも?


「おまたせ」


 と、ファッションのことに関して考えていたら、澤崎さんは着替えが終わったようだ。


「どうかなー?」


 プリーツの目立つ深緑のロングスカートに上は白のトップスだ。上下のバランスもよく、なんだか澤崎さんっぽいって感じがした。


「いいんじゃなか? 澤崎さんって感じがするよ」

「ふむふむ。で、成李くんは好き? この服装」

「うーん。普通だな」

「なるほどなるほど……」


 シャッと試着室のカーテンを閉めて二着目に着替え始めた。

 ていうか、さっき俺に好きかと訊ねる必要はなかったんじゃないか? 彼氏じゃあるまいし。


「つぎつぎー。いつもはスカートだけど、パンツとかどうかな?」

「まず、いつもスカートってことが初耳だが、パンツあまり似合わないような……」

「うーん、やっぱり……?」


 そう言って三着目に着替え始める。もしかして、さっきの言葉は地雷だったか? あまり似合ってないとか言わないほうが良かったのだろうか。

 それからも何着か選んだが、事あるごとに俺が好きかと訊いてくる。でも、全部俺が好きかと言われると微妙だった。


「全部試着室し終えたけどさ、成李くんが好きな服なかったの?」

「うーん。別に全部嫌いではなかったけどさ。やっぱり今のその服装が俺は一番好きかな」

「え、今の?」

「そう」


 結局、さっき試着していろんなバリエーションの服を見たあとでも俺は澤崎さんのワンピース姿が一番好きだった。気品があり、澤崎さんのスタイルの良さと相まって澤崎さんの可愛さを引き立てているように俺は感じる。

 スタイル面で言うと、パンツも澤崎さんのすらっとした脚のラインが出てよかったが、少しパンツは澤崎さんのイメージと違った。


「ふふふ。そっかー、成李くんはワンピースが好きなのか」

「どうだろうな……まぁ、澤崎さんはスカートとかワンピースが似合うなとは思うよ」

「そっかそっかぁー、よーし。じゃあ、なんかスカート一着買ってこー。成李くん選んでー」

「えぇー。あ」


 ファッションセンスとか皆無な俺にそんなことできるんだろうかと思っていた時、一着のスカートが目に止まった。エメラルドグリーンより少し暗いぐらいの色合いで、大人っぽい印象を与えるスカート。これは澤崎さんに似合いそうだなって思った。


「このスカートとかどう?」

「これ? ちょっと試着してみようか」


 試着してみて、実際に着た姿を見てめっちゃ似合ってると確信した。


「うん、めっちゃ似合ってると思うよ!」

「ホント! ならこれ買おーと」


 元の服に着替えて、レジへと向かって行った。

 俺は先に店を出て店前で待つ。


「おまたせ」

「ん」


 澤崎さんが会計を終えて店の外に出てきた。


「あ、もう十二時だね」


 澤崎さんがスマホの画面を見てそう言う。


「ホントだな。確かに腹減ってるわ」

「だねー」

「折角フードコートあるし、食べて帰るか? 俺は元々食べて帰るつもりだったんだけども……」

「お、なんかデートっぽくていいねー」

「え、まだデート判定なの?」

「当たり前じゃん! さっき言ったでしょ? ショッピングデートだって!」


 なるほど、食事もこのデートの一貫だということか。

 俺らがいたフロアからフードコートと食べ物屋がたくさんあるフロアへと上がってきた。

 昼時なこともあり、前を通るといい匂いが鼻をくすぐる。この際美味しければなんでもいいと思ってしまうけど、デ、デート判定ならなんかいい雰囲気の店のほうがいいじゃないかとも思う。

 

「ねぇねぇ、なににしよっか?」

「俺はなんでもいいぞ!」

「あー、デートにおいてなんでもいいは禁句なんだぞー。何か選ばないとぉ!」

「えぇー!? うーん……じゃあ……オムライス、食べたいな」

「オムライス……。ふふふっ……」

「なんで笑うんだよ」

「いやー、成李くんの口からオムライスって言葉が出てくるとは思わなくてさ。なんかかわいいなって思って」

「そ、そうか……?」

「うん。あたし、オムライスならいい店知ってるよー! そこに行かない?」

「お、いいじゃん!」

「よし決まりだね。じゃあ行こうか」


 あまり店でオムライスとか食べたことがないから結構楽しみなんだよな。

 うちでオムライス作る時はいつもいろはが作ってくれる。いろはの得意料理はオムライスだって言っていた。しかも、いろはの作るオムライスは本格的なやつでオムレツを最後に割るという動作があるのだ。15歳にしてスゴ技だと思う。

 当然、店で出てくるのもオムレツを割る動作がある物もあるだろうけど、ないやつもあるかもしれない。別に俺はそこら辺にこだわりはないが……。


「わっ、まぁまぁ並んでるね……」

「あー、まぁ、この時間だししょうがない」


 そこまで多いというわけでもないけど数組の客が外で待っているのが伺えてた。ざっと三十分待ちといったところだろう。

 さっきからお腹が鳴りっぱなしで限界も近いけど、ここまできたなら待ってやらぁ!


「おまたせいたしました二名でお待ちの澤崎様」


 呼ばれた。


「はい」


 既にお腹と背中がくっついてしまっている。

 短そうに思えた三十分は空腹の状態だとめちゃくちゃ長く感じるようだ。


 茶色の柱と白い壁が目立つ西洋風な店内にトマトやデミグラスソースなどの匂いが充満してさらに空腹を掻き立てる。あとは甘い匂いも少しながら感じる。スイーツメニューがあるからだろう。


 席へ案内され、メニューを見るとどれも美味しそうだ。

 どれを食べようと迷っていると澤崎さんが何か思いついたように「あっ!」と声を上げ、俺に声をかける。


「ねぇねぇ。あたしこれ食べたいの」

「ん? そうか。なら食べたらいいじゃないか」

「そーなんだけど、こっちも食べたいの!」


 そう言ってさっき指差したオムライスの下に指を移動させた。


「なんて欲張りな……」

「よ、欲張りじゃないし! ただ二つとも美味しそうだから食べたいなーって思っただけだから」


 それを欲張りって言うんだよ澤崎さん……。


「だから、いい提案があるのだよ! さすがに二つはあたしの胃袋が保たないから成李くんはこっち頼んで、あたしがこっちを頼むってのはどうよ?」

「うわ、ちょっとセコい技使ってきたぞ」

「べ、別にセコくないでしょ! 正攻法でしょ!」


 しかし、自分の頼みたいもの食べたいからな……と思ったけど、澤崎さんがさっき指差したメニュー、俺がうまそうだなって目を付けたやつじゃないか? それなら別に悪くはない提案だ。しかも二つの味が楽しめるのは俺にとっても一石二鳥なのでは?


「よし。別にいいだろう。俺もそれ気になってたし」

「ホントに! よかったよー! じゃあ、どっちがどっち頼む?」

「結局どっち頼んでも食べるんだし、どっちでもいいけど……」

「成李くんが食べたい方選びなよ」

「そう? ならこっちで」

「りょーかーい。すいませんー」


 澤崎さんが店員さんを呼び、注文をする。俺らが頼んだのはよくあるトマトケチャップがかかったノーマルオムライスとデミグラスソースのチームインオムライスだ。

 俺はこのチーズインという言葉に目を引かれてしまった。チーズは正義だからな。絶対美味い。不味いわけがない。


 料理が来るのを待つ間、俺らは世間話に花を咲かせていた。

 女子と二人で昼食とかいろはを除けば初だが、案外イケるものだ。相手が澤崎さんだからだろうか。……おっと、危ない。これを口に出していたら澤崎さんに怒られていたところだ。

 世間話の一環で兄妹はいるかという話になった。聞くところによると澤崎さんは一人っ子らしい。俺が妹の話をすると「いいなー」と羨ましがっていた。

 兄妹がいない人たちにとって、兄妹というものは憧れるだろうけど、実際、兄妹がいることで疲れる場面もある。

 一歳しか年の離れてないいろはだからと言って困ったことがなかったわけでもない。

 でもいい事の方が多い。俺がよく覚えているのはいつもいろはが俺の後ろを「にぃにー」と言ってついてきていたことだろうか。今では『おにぃ』に呼び方が変わっているが性格は変わっていない。ホントにかわいい自慢の妹だ。何気に容姿端麗なのでモテてるんじゃないかと思う。兄の俺が言えることは変な虫がつかないでほしいということだけだ。


 そんな世間話をしているうちに注文した品々が届いた。

 デミグラスソースのいい匂いが鼻腔をくすぐる。なんだか繊細な匂いだ。

 いただきますと言って二人で食べ始める。交互に食べ比べをしてどっちも美味しいことを確認した。

 オムライスは丁度半分で割り、それぞれが半分ずつ食べた。

 オムライスを食べ終わったあと手が伸びるのはやはりデザート。俺はオムライスを選んでいるときから何を注文するか決めていた。


「デザート何にするの?」

「そんなのフレンチトースト一択だ」


 こういうところのフレンチトーストが一番美味いと俺は知っている。

 そして、澤崎さんはカスタードプリンをした。澤崎さんも「こういうところのカスタードプリンが一番美味しいのよ!」と俺が思った同じことを言っていた。

 デザートは気づいたらお皿から消えていた。あと一皿食ってやろうかと考えたが、自分の会計が二千円を超えるのでやめた。

 さすがに昼食に二千円は豪遊し過ぎだろう。


「いやー、めちゃ美味しいかったね」

「最高だったわ。また来ような」

「え……?」

「ん? どうした?」

「い、いや、なんでもないよ! そうだねまた来ようね」


 ちょっと嬉しそうな澤崎さんの表情。俺、澤崎さんが喜ぶようなこと言ったかな?


「成李くんはこのまま帰り?」

「そうだな。特にすることないし」

「そっかー。残念、これからあたしはお母さんと待ち合わせだからー」

「そうなのか」

「うん。じゃあ、また月曜日ね」

「おう。また月曜日」


 そうして、ショッピングモールで俺らは別れた。


 家に帰り、いろはに服を渡すと何故か驚かれた。


「え! おにぃ買ってきてくれたの?」

「自分から頼んどいてなんでお前が驚くんだよ」

「いや、あそこの店、レディースの店だからそういうとこにはおにぃ入りづらくて結局入れず、帰ってくるかなって。ダメ元でルイン入れたんだけど……」

「おい、なんだそれ。失礼な。俺を舐めるな」

「ごめんごめん。でもー、もしかしてー? 彼女がいたから入れた! とかぁー?」


 くっ……。コイツ、無駄に勘が鋭い……。


「別に彼女がいたわけじゃないぞ」


 うん。嘘はついてない。


「ふーん? つまり彼女じゃない女子といたと?」

「……」


 こういう困った時はノーコメントだ。


「ノーコメントは肯定の意かなー? ねぇーおにぃ?」

「……」


 急いで自室に駆け込んだが、夕食の時に問いただされた。さすがに高一女子、恋バナが好きだわ……。

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