第49話 ロディ、フェイはやはりフェイだったと思い知る
ザイフの西門を出て小一時間歩くと、ダンジョンの入り口がある。
他にもダンジョンに行こうとする冒険者は大勢おり、当然彼ら彼女らも同じ道を通ってダンジョンに向かっている。
ロディたちはのんびりと歩いて移動していたが、幾人もの冒険者に足早に追い抜かされたりしたし、またダンジョン直工の乗合馬車もあってその馬車にも追い抜かされていた。
「乗合馬車は、あまり乗っていないね。」
「距離が結構短いから、馬車代を出すより歩いていく方がいいって人たちが多いみたい。」
「そうなんだ。」
ロディたちはダンジョンで稼ぐことが主目的ではないため、急ぐ必要はない。
しばらく歩くと、かなりの人が集まって賑わいがある場所が見えた。
ダンジョンの周囲には冒険者目当ての商人が簡易の店や露店などを並べているのだ。
これはミズマのダンジョンでも見られてものだが、あちらと比べてこちらは規模が二回りほど大きい。人気がある中級ダンジョンのため、ミズマより冒険者が多いためだろう。
買い忘れや武器破損、ダンジョンドロップなどの買い取りなど、かなりにぎわっているようだ。
ロディたちは街できちんと準備をしていたためここで購入するものは無い。
彼らは賑わいを横目に突っ切っていき、一路ダンジョン入口も一気に通過して中に入って行った。
◇◇◇
ザイフダンジョンの内部構造は、『森』だ。
ミズマの初級ダンジョンの構造は、洞窟もしくは石造りの回廊タイプだったが、ここは一面に木々や草が生えている、まさに森なのだ。
「今日は5層の安全地帯まで行こう。そして明日は8層で泊まる。翌日に9層を突破して、10層のダンジョンボスに挑むぞ。」
これはすでにパーティ内では周知されているスケジュールだが、ロディは再度徹底のために皆に告げる。
「「「「わかった(わ)(のだ)」」」」
5人は気合を入れて、森の道を進んでいく。
途中、コボルトやウルフなどの魔物が出てくるが、低階層なので弱く、彼らの敵ではない。サクサク倒しながら進んでいく。
「やっぱり2人加わると進行速度が違うわね。あっという間に魔物を倒せるし。危険もほとんどないわ。」
エマが楽しそうに、しかし少しあきれたように言う。
前衛のロディとテオがほとんどの魔物を倒してしまい、他の3人の出番がない。
余りに出番がないために、準備運動にもならないからと、途中からは5人のローテーションで戦うようにした。しかしそれでも彼らは足を止めることがない。
「8層まで3人で行けてんだ。ロディとナコリナも加わった今なら9層まで簡単だぜ。」
「テオ、油断禁物なのだ。そんなこと言ってると、何でもない所でケガをするのだ。」
「えー、レミアに言われるのかよ・・・。」
そんな会話も楽しみながら、この日は5層に到達。ここにある安全地帯でテントを立て、体を休めるのだった。
翌日になっても、彼らの快進撃は止まらない。
5層以降はロディとナコリナにとっては初めての場所ではあったのだが、傍から見るとそんなことは微塵も感じられない。
ロディはフェイのもとでみっちりと修行をしたため、ザイフに来た当初よりはるかに強くなっていた。
ロディとしては修行ばかりであまり魔物と戦うことをしていなかったので、自分の力をいまいち把握できていなかったのだが、中級深層の魔物でも苦も無く戦える自分がわかって、初めて自分が強くなったと実感していた。
(俺、こんなに強くなってたんだ。師匠の修業は間違いじゃなかった。いや、信じてなかったわけじゃないけど、ここまで戦えるようになっているとは思わなかった。本当に感謝するしかないな。)
ロディは改めてフェイに感謝しながら、ダンジョンの奥深くまで進んでいくのだった。
◇◇◇
「あ、階段があった!」
「やった、これを降りれば10層のボス部屋だ。」
翌日も8層9層をさして苦も無く進んでいき、10層への階段を見つけたのは、外の時間でおよそ昼くらいだった。
「よし、ここでいったん休憩して食事をとろう。もちろん警戒は怠らないように。」
10層はボス部屋だけのフロアだ。だから階段を下りればボス部屋はもう目前だ。
ここで準備を整え、体力、魔力を回復するために、およそ1時間、見張りを交代しながら休憩した。
「お腹いっぱいなのだ。魔力も満タンなのだ。」
「レミアらしい言い方だけど、確かに私も準備万端って感じ。」
「だんだん気合が入ってきたぜ。いつでも行けるぜ。」
「行こっか、お兄ちゃん。」
「よし、階段を下りよう。」
休憩後、すべてを整えた5人は、若干の緊張を含みながらも、元気に階段を下りて行った。
階段を降りきると、そこは少しだけ空間になっていた。空間の先に大きな扉がある。もちろんボス部屋に至る扉で、ここを開けるとボスが待ち受けている。
「・・・ん?」
先頭で降りたロディは、目前にそびえる扉と同時に、あるものが目に入った。
それは、扉の横に立つ一人の人物の姿だった。
「え・・・な、なんで?」
ロディは驚いて動きを止めた。
「どうしたのロディ。立ち止まっちゃって・・・・・・え!?」
次に降りてきたナコリナがロディに声をかけるが、前を見て同様に動かなくなった。
「・・・え・・・」
「・・・は?」
「・・・なのだ?」
10階に降りた5人は全員立ち止まる。まさか10層に人がいるなんて考えていなかったからだ。
だがそれよりも何よりも、そこにいる人物が驚きだったのだ。
その人物はロディたちに少しだけ近寄ると、彼らに声をかけてきた。
「おお、ロディ。遅かったのう。待ちくたびれたわい。」
5人とは裏腹に、能天気そうに声をかけてきたその人物。
フェイだった。
「し、師匠、なぜここに!?」
フェイの声にようやく気を取り直したロディが慌てて疑問を投げかける。
なぜフェイがここに!?フェイは西門で別れ、街にいるはずじゃ?何が起こっている?
「なに、折角じゃからボス戦を観戦しようかと思うてのぅ。」
「師匠は街に残ったんじゃ・・・。」
「街で待っておくのもつまらんでのぅ。ま、年寄りの気まぐれと思うてくれ。」
あいかわらず飄々と答えるフェイ。
ナコリナも混乱から回復し、一番疑問に思っていることを問いかける。
「最短距離を通ったはずの私たちより先にどうやって先回りしたんです?追い越されたはずはないですが・・・。」
「なあに、ちょいと近道をしたんじゃ。」
「「「「「近道!?」」」」」
フェイが言うのは、ロディたちのボス戦を観戦しようと近道を使って先回りをしていたのだという。
「近道って、そんな情報無かったわよ。」
「当り前じゃ。ワシしか知らん近道じゃ。」
「「「「「えええ!?」」」」」
なんとフェイだけが知る近道があるらしい。フェイの実力は知っていたが、まさかそう言った知識まで持っていたとは驚きである。
「近道があるなら教えてくれてもよかったのだ。そしたら時間もかけずに来れたのだ。」
「若いもんが楽をしようとしちゃいかん。苦労は買ってでもせねばのう。」
みんなの非難のまなざしも、フェイはどこ吹く風とでもいうように気にしない。まさにフェイはフェイだった。
ここでロディは思い出した。ロディたちが門を出るときにフェイがかけた言葉を。
『・・・では、またな。』
あの時感じた違和感の原因はこれだったのだ。「また」というのは、街に帰ってきてからの話ではなく、ダンジョンのボスの前で、という意味だったのだ。
ロディはがっくりとうなだれる。
ロディたちのボス戦に向けて高めた気合は、フェイの登場で一気に霧散してしまったのだった。
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