第50話 ロディ、新たな条件を付けられる
予期せぬフェイの登場で完全に気勢をそがれてしまったロディたちのパーティ。
「近道の話は置いておいて。・・・師匠は『観戦』しに来たんですね。」
「そうじゃ。おぬしらの討伐に手出しはせん。それに、おぬしたちも安心じゃろう?」
「安心?」
「ワシがおるから、たとえボスが強くてもパーティが全滅することはない。危なくなったら、ワシが助けることもできるんじゃからのぅ。」
「確かにそう言った意味では安心ですけど・・・・」
ロディはそう言って他のメンバーを見る。皆は程度の差はあるが「仕方がない」と言った表情をしていた。言いたいことはあるが、ここで時間をかけても仕方がない。
「わかりました。師匠は観戦していてくださいね。危なくなったとき以外は手出し無用です。」
「わかったわかった。」
そういうわけで、フェイを含めた6人でボス部屋に入ることになった。
「しかしのう、それだけじゃあ詰まらん。」
とここでフェイがさらになにやら言い出した。どうも話に続きがあるようだ。
「つまらない、とはどういうことですか。」
「ワシが一緒に入ったら死ぬことはない。そうなると、みんなが油断したり手を抜いたりしてしまうかもしれん。」
「・・・は、はあ。」
なにやらフェイが理由付けのように回りくどいことをしゃべっている。ロディはなんだか嫌な予感を覚えた。
そして残念ながら、それは的中する。
フェイはニヤリと笑いながらこうのたまった。
「じゃからロディ、おぬしにもう一つ条件を付けることにする。」
「・・・・・・え?」
「その条件とはな、『ロディは魔法しか使ってはいけない』ということにしようかの。」
「「「「「はあああああああああああ!!」」」」」
フェイからまたとんでもない爆弾発言が出てきた。ロディが魔法だけしか使えないという条件。
「ちょ、ちょっと待ってよ。このボスは攻略法があるでしょ。それを前提に戦い方を考えて来たんだから。攻略は、ロディの剣での攻撃ありきの話なのよ。」
あわててナコリナがフェイに吠える。
それもそのはず。フェイの条件は予定していた戦い方(攻略法)を使えなくするものだ。
ナコリナの剣幕に対し、しかしフェイは全く堪えないようで、同じような口調で話を続ける。
「戦闘では予定外のことが往々にして起こるもんじゃ。そういった時でも臨機応変に対応できねば、今後生き延びることは出来んぞ。」
「フェイのおっさん、いきなり何勝手なこと言ってんだよ。ボスには魔法が効かないんだろ。ロディが魔法しか使えないなら全くダメージを与えられないじゃんか。」
「ふぉっふぉっふぉ。確かにヒュージスライムは『魔法耐性』が高い。しかし、あくまで耐性が高いだけじゃ。無効ではないので少しは効果があるんじゃよ。」
「でも少しだけなのだ。それじゃあダメージを与えるより早くこっちが潰れてしまうのだ。」
「そこは工夫じゃ。魔法で倒す方法もあるんじゃよ。無論、ワシは出来る。」
「フェイさんが出来てもお兄ちゃんができるとは限らないじゃない。フェイさんは賢者なんでしょう?」
「”元”賢者じゃ。今はもう老いぼれておるでな。ロディならワシよりうまくできるじゃろう。」
5人でフェイに文句をつけて翻意させよとしたが、フェイはどこ吹く風、全く意見を変えようとはしなかった。
「・・・しかたない。みんな、師匠のいうことに従おう。」
しばらくして根負けしたロディがフェイの条件を飲もうといった。
「ちょとロディ、いいの?そんなの認めて。」
ナコリナが慌ててロディを止めるが、ロディは口角に笑みを浮かべながら首を振った。
「師匠は一度言ったことを曲げないよ。だからこれ以上言っても無駄だ。まあ最悪、師匠がいればみんなが死ぬようなことはないのは間違いないし、それに」
ロディは視線をフェイに向けて言った。
「師匠は、出来ないようなことをやらせはしない。俺ならやれるだろうと考えてのことだと思う。」
そしてロディはフェイに体を向け、はっきりと言った。
「師匠の条件通り、私は魔法だけ使ってボス戦に挑みます。その代わりに、みんなの安全を頼みます。」
その言葉を聞いたフェイはうれしそうに笑顔でゆっくり頷いた。
「うむ、その言葉を待っておったぞ。わが弟子よ。」
「あーあ、お兄ちゃんも難儀な師匠を持ったものね。」
「まったくだ。こっちにもとばっちりが来るし、大迷惑だよ。」
「みんな、ごめん。キツいかもしれないけど、よろしく頼むよ。」
「ロディは悪くないのだ。悪いのはフェイなのだ。」
「ほんとほんと。あとでうちの師匠(ロスゼマ)に、こっぴどく叱ってもらわなくちゃ。」
全員口々に困惑とフェイの悪口を口にしていた。
ただ、みんな本気で嫌がっているようではなく、それぞれの顔には、困難を前にした緊張感と高揚感も浮かんでいた。
「戦闘方法を練り直さなくていい?体力回復ポーションは十分あるけど、魔法戦を予定してなかったから、魔力ポーションは2本しかないわ。」
ナコリナが不安そうに聞いてくる。
「うん、基本方針は変えないでいいと思う。俺、テオが2本の腕を対処する。どの魔法がボスに有効かは、試していくしかないだろう。その間エマは牽制の攻撃、ナコリナとレミアは回復とフォローだ。ポーションが少なくても、何とかするしかない。」
「任せろよ。後ろには攻撃が行かねえようにするさ。」
「怪我をしたらヒールするのだ。」
「私は動き回って牽制するわね。そういうのは得意だから。」
みんなのボス戦に対する意思も固まってきたようだ。イレギュラーな条件になってしまったが、それでも戦わなければならない戦闘も必ずある。この戦いはいい経験としてみんなの糧になるだろう。
「おお、頼もしいのう。みんなこの街でだいぶ成長したようじゃな。」
フェイが頷きながらロディに近づいてきて、ロディに語りかけた。
「ロディや、条件を付けたのはイキナリじゃったからチイときついかもしれん。なので、少しだけ戦いのヒントをやろうかの。」
「ヒントをもらえるんですか?」
「そうじゃ、じゃがそう簡単なヒントじゃないぞ。」
フェイは笑いながらもさらに続けて言った。
「ロディや。ボスは魔法耐性が高い。それは長所じゃ。しかしの、長所は往々にして短所となりうるのじゃよ。これがワシが与えるヒントじゃ。」
「長所が短所に?・・・それは一体・・・」
フェイの言葉に戸惑い気味にロディは訊ねる。長所が短所になるとはどういうことだろうか。
しかり、フェイは笑ってこう返すだけだった。
「ふぉっふぉっふぉ、これ以上言ってはヒントにならん。答えはこの戦いでおぬしが導き出すのじゃ。そしてこの言葉は、今後のすべての事にも当てはまることになるのじゃよ。覚えておくとよい」。
そう言って、フェイが他の4人を向いてせかすように言った。
「さあさあ、わしゃ待ちくたびれておるのじゃ。年寄りをこれ以上待たせるでないぞよ。いざ、ボス戦に挑もうぞ!」
この能天気なフェイの言葉に、4人はあきれた目をこの待ちくたびれ老人に向けた。
「・・・まったく、誰のせいで時間がかかったと思ってるの?」
「自覚が無いのだ?」
「戦う前から疲れちゃったわよ。」
「もう言うだけ無駄なんじゃねえか?」
こう口々にフェイを罵る4人を、ロディは笑いながら見ていた。
(いい感じに緊張がほぐれているな。これならボスのヒュージスライムにも本来の実力が出せそうだ。・・・まさか師匠はこれを狙ってた?)
そこまで考えてロディは首を振った。さすがにそこまで計算しての行動ではないだろう。・・・多分。
「みんな、確かに時間もかかっちゃったし、そろそろ行こうか。改めて、ボス戦に挑もう。」
そのロディの声に4人が同時に応えた。
「「「「おう(なのだ)!!」」」」
ロディたちのパーティ(+1名)は、条件付きでボス討伐戦に挑む。
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こんにちは。灯火楼です。
今話で、おそらく本年最後の投稿になるでしょう。
来年も頑張っていきますので、今後ともよろしくお願いします。
では皆さん、良いお年を。
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