第38話 ロディ、『弟子』と認められる

前書き


 前話の前書きにも書きましたが、第35話を投稿し忘れるという失態をしでかしていました。

 今は公開していますが、飛ばしてよんでしまった方もいると思います。再度書かせていただきます。誠に申し訳ありません。


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 城に移動した一行は、客間に入りエリーをベッドに寝かせると一息ついた。

 エリーの寝室は戦闘により滅茶苦茶になっており、すぐには使用できない。代わりに客間を使ったのだ。

 ロスゼマはすぐに主治医を呼びだす。すると、主治医が恐る恐るやってきた。

 彼は戦いの最中は部屋に隠れていたため無事だったのだが、大勢の兵士が犠牲になっており、とても平常心ではいられないのだろう。

 だがそれでもエリーの容態を診てもらわないわけにはいかないのだ。


 主治医の見立てでも、やはりエリーは睡眠薬で眠らされているだけとのこと。外傷もなく、時間が経てば目が覚めるだろう。


 しかし無事ではない者もいる。フェイだ。彼はエリーの隣のベッドに寝かされている。意識はあるのだが顔色が悪い。

 彼は高級ポーションにより一命はとりとめたものの、すぐさま回復というわけではない。血が足りないため、しばらくは安静にしないといけないようだ。


「仕方ないのう。しばし体を労わるしかないか。」

「そうしときな。ついでに医者に女好きも直してもらうんだね。もちろん医者や看護師は男性で固めさせてもらうよ。」


 そうロスゼマに言われたフェイは、この世の終わりとでもいうように絶望的な顔をした。


「そんな、ひどい!女の子に看護された方が直りが早いと言われておるのじゃよ。」

「そんな話聞いたことないね。」

「くぅーーー、美人の看護師さんに寝たふりしながら隙を見ておしりを触ったりすることを楽しみにしておったのに・・・。」

「寝ぼけたこと言ってんじゃないよ。あきらめな。」


 そんなフェイとロスゼマのいつもと変わらぬやり取りを聞いて、ロディは自然に顔がほころんだ。

 ロディは少し前まで、侵入者の男と生死をかけた戦いをしていたのだ。その男はかなり強く、かつ魔道具による能力アップをしており、フェイにも傷を負わせるほどだ。ロディの命も危うい状況だった。結果的に勝てたのだが、今思うと信じられないほど奇跡的な綱渡りだったと思う。

 その戦闘の緊張感がまだロディの心にあったのだが、それも目の前の2人のやり取りで薄れ、勝ったのは現実なんだ、と実感できた。と同時に安心感が広がっていく。

 今自分は生きている。フェイも生きている。その現実がロディを自然と笑顔にさせていた。




「あ、エリーさんが起きた!」


 部屋に響くエマの声に一同が目を向けると、そこには目を開けて天井を見ているエリーの姿があった。


「「「「「エリー!」」さん!」」」」


 フェイを除くみんなが一斉にエリーに駆け寄ってきた。


「エリー、良かった。目を覚ましたんだね。体は何ともないかい?」

「あら・・・私、・・・どうして?ここは・・・?」


 目が覚めたエリーは、まだ少し意識が混濁しているのか、周りを認識するのに時間がかかっていた。少し経つと意識もはっきりしだし、それと同時に襲われた記憶も思い出してきていたため、少しおびえたりうろたえたりして、不安な様子を見せていた。

 しかしみんなが笑顔で話しかけるうちに、やがて落ち着きを取り戻して、現在の状況を理解すると、エリーの顔にも笑顔が戻ってきた。


「どうやらみんなに助けられたようね。本当にありがとう。それにフェイ、大変なけがを負ったそうね。ごめんなさい。」


 エリーは少しすまなそうな顔をフェイに向ける。


「なんの、エリーが謝る必要などないわい。ワシがへまをしただけじゃ。気に病むことはないぞい。」

「そうそう。歳甲斐もなく若いやつらと戦おうとするからだよ。」

「なにぃ!?わしゃまだまだ現役じゃ。若いもんに負けはせんわい。」

「そう言っておいてそのザマかい?」

「うっ・・・」

「とにかく、エリーも無事だしフェイもまあ最低限生きているんだから、良かったんじゃないかい。」


 確かに、今回の事件は最悪のケースではフェイとロディが凶刃に斃れ、エリーが誘拐されてしまう結末もあったが、全員無事なのは本当に幸いだった。

 エリーは何度も頷き、そしておもむろにロディに向かって言った。


「ロディ。」

「え、は。はい。」

「あなたが居なければ私もフェイもどうなっていたか。本当にありがとう。感謝するわ。」


 この国の太后であるエリーからお礼を言われ、ロディは慌ててしまった。


「え、いえ、お礼なんて・・・。そんな、俺大したことはしてないですよ。」

「そんなことないわ。ロディが賊を倒してくれなければ・・・。」

「そうよ、ロディが一番活躍したのは間違いないわ。」

「そうなのだ。ロディは大活躍なのだ。カッコいいのだ。」

「で、でも最後のトラップはフェイさんに教えられたものだし、それにあそこ迄たどり着けたのもフェイさんの力があってこそ・・・。」

「往生際が悪いねえ。」


 うろたえながら否定続けるロディに、ロスゼマがバンッっと背中をたたいた。


「アンタが活躍したってことはみんなが認めてるんだ。素直に感謝されな。」

「は、はい・・・。」


 そう言われてロディは頭を掻き、照れながらもエリーに向かって頷いたのだった。


「フェイ。アンタもなんか言ってやんなよ。ロディのおかげで命拾いしたんだからね。」


 ロスゼマの矛先がフェイに向かい、みんながフェイの顔を見た。

 その時のフェイの顔は、なんだかいつもと違って嬉しいような悲しいような複雑な笑みを浮かべていた。


「そうさのう。ここで意地を張っても仕方がない。素直になるとするか。」

「おや、アンタが素直になるなんて珍しいねえ。血を抜かれすぎたのかい?」

「やかましいわ。せっかく人がその気になっておるのに、茶々を入れるでないわい。」


 そう怒りながらも、フェイは体を起こしてロディに向き直った・


「ロディよ。おぬしのおかげでワシも生きながらえることができた。ありがとうよ。」

「フェイさん。とんでもない。フェイさんの教えがあったからこそ危機を切り抜けられたんです。自分一人じゃどうにもできなかった。自分こそ感謝しています。」


 ロディのその言葉に、フェイは嬉しそうに目を細めた。


「そう、お主は立派じゃ。自らの功を誇るでなく、周りにも気を配っておる。ワシもよい弟子を持ったのぅ。」

「はい、フェイさんの・・・え?弟子?」


 弟子、と聞いてロディは聞き違いかと疑った。しかしどうやら聞き違いではなく、フェイは頷きながら続けた。


「そうじゃ。ロディ、お主はワシの弟子じゃ。」

「ほ、本当ですか!?」


 フェイの『弟子』という言葉に、ロディは思わず大声を出してしまった。

 それも仕方がない。これまでフェイは『弟子は取らない』と公言していたのだ。それが、フェイがついにロディを弟子と認めてくれたのだ。


「教え子に助けられておるのに『まだ弟子とは認めぬ』などと意固地になるほどワシも耄碌はしとらん。いや、むしろワシから『弟子になってほしい』を言わんといかんくらいじゃ。」

「そんな、フェイさん、もったいない言葉です。・・・でも、ありがとうございます。」


 ロディはこれ以上ない笑顔でフェイに感謝の言葉を述べた。


 ところがフェイは少し不満顔だった。

 それに気づいてロディは笑顔を少し引っ込めて首を傾げた。


「あの、どうかしましたか、フェイさん。」

「師匠」

「え?」

「師匠と呼んでくれぬか?せっかく弟子を取ったのに、『さん』付けではのぅ・・・。」


 フェイは「師匠」と呼ばれたかったらしい。それを指摘され、ロディは慌てて言い直す。


「すみませんでした。フェイ師匠。これからもよろしくお願いします。」

「うむ。・・・うむ。」


 フェイは満足そうに頷く。

 そこへロディの仲間たちが近寄ってきた。


「ロディ、良かったわね。弟子と認められて。」

「お兄ちゃんなら絶対大丈夫。賢者の弟子の名に恥じない立派な冒険者になるわよ。」

「さすがロディなのだ。私の見込んだ男なのだ。」

「ロディ、良かったな。賢者の弟子なんてすげえことだぞ。」

「みんな、ありがとう。」


 フェイに弟子と認められた。つまりそれだけの力量を認められたのだ。こんなにうれしいのは久しぶりだった。

 そしてみんなからの祝福。ロディは思わず涙ぐんでしまった。


 その様子をエリーはにこやかに眺めていた。


 ロスゼマはフェイのそばに近づいてきて言った。


「あれだけ弟子は取らないと言ってたあんたがねえ。全くロディは大したもんだ。」

「なんじゃい。嫌味でも言いに来たのか?」

「いや、アンタにしてはいい判断だったって言いたいのさ。」


 そう言ったロスゼマの顔には、これまで見たこともない穏やかな笑みが浮かんでいた。

 なんだかんだ言って、フェイのことを気に掛けていたのだろう。過去の言動から解き放たれて前に進むことができた、それが少しうれしく、自然と顔に出ていたようだ。


「で、どうだい?弟子を持った感想は。」

「ん?それほど変わらんかのう。しかし・・・」

「しかし、何だい?」

「『師匠』と呼ばれるのは、そう悪くはないのう。うん、悪くない。」


 そう言って少し照れたようにロスゼマから顔を背け、窓の方を見るフェイだった。

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