第37話 ロディ、フェイに褒められる

前書き

すみません。第35話を投稿し忘れるという失態をしでかしました。

今は公開していますが、すでにここまで読まれた方は話が飛んでいるとお気づきになられたでしょう。誠に申し訳ありません。


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 ロディが足音の法に目を向けると、多数の人影と、どやどや、ガチャガチャという足音が聞こえてきた。

 人影の先頭を走ってくるのは5人。

 その人物が誰であるかを確かめたロディは、破顔して呼びかけた。


「エマ、ナコリナ、レミア、テオ・・・それにロスゼマさん。」


 その5人はロディもよく知る者たち。そしてそのはるか後方から来るのは城の兵士と思われる、武装した者もいる。


「お兄ちゃん、無事だったの!?」


 駆け寄るエマからの言葉にロディは笑って答える。


「ああ、おかげさまで何とか。」

「ロディ、無事だったのだ!良かったのだ!」


 ロディの姿を見つけたレミアがロディめがけて飛び込んできた。


「あ、ちょっ、待って・・・」


 レミアがいつもやる”ダイビング胸飛び込み”。ロディの胸めがけて突貫してくるのだが、今ロディはあの男との戦いで疲れてフラフラだ。抱きとめる自信がないので慌ててしまう。

 しかしレミアが飛び込む途中で、むんずと掴む手に遮られて空中で止まった。


「ロディは戦い終わったばかりなんだよ。突っ込んでいくやつがあるかい。」


 レミアの襟をつかんでぶら下げた老女が𠮟り飛ばした。


「ロスゼマさん・・・」


 レミアを掴まえたのはロスゼマだった。レミアはロスゼマに襟を掴まえられてプランとなっていた。


「あうう、ごめんなさいなのだ。」


 レミアはしゅんとして謝る。

 それにしても、とロディは思う。ロスゼマはすごい。レミアより早く動いて摑まえ、さらにぶら下げて平気な顔をしている。フェイがすごすぎるため、それにあまり能力を見せることがないため隠れていたが、ロスゼマも相当の実力者だ。

 まあフェイと一緒のパーティにいたのだから、よく考えれば当たり前の事なのだが。

 が、感心する前に伝えるべきことがあるのにロディは気づいて慌てて言った。


「そ、それよりもエリーさんとフェイさんを。フェイさんはケガをしてます。血を流して気絶している。急がないと死ぬかもしれない。早く治療を。」

「え・・フェイさんが!」

「あ!!」


 皆の意識がフェイに向けられ、倒れたフェイとエリーを見てナコリナが悲鳴を上げるた。

 5人は慌てたように動き出して2人の周りに駆け寄った。

 エリーはやはり眠っているだけのようで、ロスゼマはエリーを抱きかかえるようにして状態を確認していたが、やはり眠らされているだけのようで問題いと言っていた。

しかしフェイは見るからに重傷だ。顔色も悪く傷口からは相変わらず血が出続けている。


「とにかく早く治療を・・・どうだ、レミア、頼めるか?」


 レミアに治療をお願いするロディ。レミアはハイヒールを使える。ハイヒールは魔力をかなり消費するため体への負担が大きいが、今は一刻を争う。


「もちろん分かったのだ。私に任せるのだ。」


 レミアはまま頷く。が、そこにロスゼマが口をはさんだ。


「ちょいと待ちな。こいつはハイヒールでも間に合いそうにないよ。」


 ロスゼマの非情とも思える診断は、周りのみんなを沈黙させた。


「え!?じゃあフェイさんは・・・」


 フェイはもう助からない、そんな最悪の想像がロディたちの心を重くした。

 が、その雰囲気を破ったのもロスゼマだった。


「早とちりすんじゃないよ。フェイは危険だが死にゃしないさ。」

「本当ですか?でもどうやって・・・」


 一同が驚きと不安の目で見守る中、フェイに近づいたロスゼマが小さな小瓶を懐から取り出した。そこには無色透明な液体が入っていた。


「まったく、せっかく作ったというのにこんな男に使わなきゃならなくなるとはね。エリーに高く売りつけようと思ったんだけどねぇ・・・。」


 そう言うと、ロスゼマは小瓶の蓋を開け、中の液体を傷口にかけた。


「あ、傷が・・・」


 驚いたことにフェイの傷口はみるみるふさがっていって血が止まり、数秒後には跡形も見えなくなっていた。

 ロスゼマはさらに、小瓶に少し残った液体をフェイの口に流し込んだ。


「ロスゼマさん、それは・・・?」


 驚きながらもロディがロスゼマに尋ねた。ロスゼマは不満そうな顔をロディに向けて言った。


「こいつは高級ポーションさ。」

「高級ポーション!!」

「そう。こんな希少なポーションは普通手に入らないもんだが、この前偶然ナコリナたちが材料を見つけてきてくれたものでね、それで作っておいたのさ。」


 フェイの治療に使った液体は高級ポーションだった。これ1つで部位欠損以外のケガは大概治るという。

 高級ポーションの材料には、めったに見つからない『白い花が咲く回復草』を必要としている。そしてその白い花の回復草を、以前にエマが見つけてきた、とロディも聞いていたが、それがここで大いに役に立つことになったのだ。


「高級ポーションがここにあるだけでも奇跡に近いってもんだよ。そういえばこの男は昔から悪運だけはやたら強かったからねえ。後でエマちゃんに感謝しなよ。」


 意識のないフェイに向かってぶつぶつ文句を言うように語りかけるロスゼマ。憎まれ口をたたいてはいるが、フェイを心配しているのはロディにも分かった。そうでなければ高級ポーションなど持って来ないだろうし、すぐさま使う判断もしなかっただろう。

 

 ロスゼマだけでなくみんなの心配が通じたのか、フェイの顔色が少しずつ良くなり、そして


「・・・ゴホッ、ゲホッ!」


 フェイがむせこんだような声を出した。ポーションがのどに詰まったようだ。


「「「「「フェイさん!!」」」」」

「ゴホッ・・・なんじゃ、わしゃおぼれ死んでしもうたか。・・・ここは天国かのう。美女が2人もおる。」


 死の淵からよみがえってきたフェイの最初の言葉は、相変わらずの軽口だった。でもそれがロディにはいつにもましてフェイが戻ってきたのを感じたのだ。


「フェイさん、気がついたんですね!よかった・・・」

「なんじゃロディまでおる。しかも泣きそうな顔をして、どうした・・・・・・むっ」


 フェイは目を泳がせて周囲を確認していたが、ようやく記憶が戻ってきたように小さく唸った。

 そしてゆっくりロディを振り返った。


「ロディ。ワシはどうやらお主に助けられたようじゃな。礼を言うぞ。」

「いえ、運が良かっただけです。」

「運だけであの男に勝てるとは思えんぞ。おぬしの力も当然あったじゃろう。」


 そう言ってフェイは周りを見回し、侵入者の男を見つけた。男は相変わらず四つん這いで地面に埋まっており、周りを兵士が取り囲んでいた。


「ん!?見たところ地面に埋まっておるような。」

「はい、フェイさんに教わった土魔法と水魔法の合わせ技で罠を作りました。」

「ほ、なるほどのぅ。とっさにあれを思いつくとは、ワシも教えた甲斐があったというもんじゃ。」


 フェイはロディを見ながら何度も頷く。ロディには、フェイの目がなんだか前よりも優しい光を含んでいるように思えた。


「ほらほら、いつまでもここでおしゃべりしてんじゃないよ。エリーが風邪をひいちまうじゃないかい。」


 フェイとロディの話をロスゼマが強引に中断させた。腕にエリーを「お姫様だっこ」の形で抱えている。あの小さな体で人一人を抱えて平気そうにしている。さっきもレミアの突進を腕一本で掴み止めたし、さすが、としか言いようがない。


「フェイ、アンタの傷には高級ポーションを使ったからね。あとで金を払いなよ。ポーション代+緊急治療費で白金貨1枚(1000万)のところを、大金貨5枚(500万)にまけといてやるよ。」


 ロスゼマはにんまりしながらフェイに言った。高級ポーションの代金を、色を付けてフェイからふんだくるようだ。


「な・・・大金貨5枚!?ぼったくりじゃよ!ワシを無一文にする気か。」

「無一文ってそんなわけないじゃないか。うるさい爺さんだねえ。命が助かったんだから安いもんさね。いやなら元の白金貨に戻そうかい?」

「・・・全く、ごうつくばりの鬼婆めが(ボソッ)」

「なんか言ったかい?」

「いや、何も。ふぉふぉふぉ。」

「・・・まあいいさ。ひとまず城に戻るよ。」


 そんなやり取りののち、ロディたち8人はこの場を移動しようとした。しかし、


「う~ん、まださすがに歩けそうにないわい。」


 フェイが立ち上がろうとすると力が入らないらしい。高級ポーションで体はあらかた治療できているのだが、一度血を大量に失った代償は大きいらしく、すぐに万全な体調に戻るわけではなかった。


「ふらつくのう・・・ナコリナちゃんや、この爺を支えてくれんかのう。」

「え・・・?」


 フェイの言葉にナコリナが驚き、少し嫌そうな顔をする。まあ、仕方がないことだが。


「いやかの?ならエマちゃんでもいいが。」

「え、私?・・・あの・・・」

「ふう、やれやれ、この死にそうになっている爺の頼みも聞いてくれんとは、世の中せちがらくなったもんじゃ。」


 フェイがわざとらしく気落ちした様子でうつむく。女の子に近づきたいエロ心が見え見えだ。


「無駄だよ。あんたの今までの行いの結果だからね。こんなエロじじいの言うことを聞いてくれる女なんていないよ。」


 ロスゼマが容赦なくフェイのお願いをぶった切った。


「フェイさん、俺が背負いますよ。」

「おっと、ロディ。あんたはまだやることがあるよ。」

「え?」


 ロスゼマに止められて驚くロディに、ロスゼマは視線を別の方向に向けた。ロディはその視線の方に振り向くと、そこには地面に埋まったままの男のオブジェと、しきりに地面を掘っている兵士の姿があった。

 だが兵士は硬い地面に全く地面を掘り進めることが出来ずに悪戦苦闘していた。


「とんでもなく地面を固めたようだね。あんた、どんな魔法を使ったんだい?早く行って解除してやりな。」

「あ、あははは。」


 古代魔法は兵士たちの力ではどうすることもできないようだ。頭をかいて兵士たちの方に向かうロディ。


「ワシはどうすれば・・・?」

「テオって言ったね。あんたが背負ってやりな。」

「え、俺!?」

「あんたしか男がいないんだよ。頼まれてくんな。」

「・・・まあ仕方ねえか。」


 ロスゼマから指名されたテオは、不機嫌そうに、しかし断らずにフェイに近づいき、フェイに向かって背を向けて屈んだ。


「ほら、乗んなよ。」

「おお、すまんのう。助かるぞい。・・・えーと、・・・」

「テオだよ!さっきロスゼマさんが言ってただろ。いい加減俺の名前を覚えろよ!」


 相変わらず女好きで、男の名前を覚えないフェイであった。

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