第36話 ロディ、へたり込む
ロディのばら播いたウォーターボールには、実はもう一つの重要な意味があった。ウォーターボールを乱打している間に、ロディは別の仕込みを仕掛けていた。
だがロディは自信があってこれを仕掛けたわけではない。うまくいくかどうかはわからない。
わかることは、失敗したら死に直結するであろうこと。
それでも、これに賭けるしかないと決めた。いや、決めざるを得なかった。
あたりを静寂が包む。激しいバトルにおびえたのか、虫の声すら聞こえない。
ロディは息を整え、男が動き出すのを待った。
(エリーさんを地面に寝かせたままじゃまずい。何よりフェイさんの怪我の治療を一刻も早く・・・)
ロディは焦る気持ちを懸命に抑えて、眼前に広がる暗闇に意識を集中し続けていた。
どれだけ時間が経っただろうか。感覚的には10分も20分も経ったように感じたが、実際は数秒だったかもしれない。
瞬間、ロディの魔力が男の動きを捉えた。
ロディの魔力の輪は、男の猛烈なスピードによって引きちぎられてバラバラになる。
(来た!)
これあることを集中を切らさず待っていたロディは、すぐに男の方向を向く。
そして即座に両者激突、
・・・・・・とはならなかった。
「うぉっ!?」
驚く男の声とともに聞こえてきた、ドシャッ、という音。
ロディの目の前で、男は地面に倒れこんでいた。
倒れた男はすぐさま体を起こそうとする。しかし、
「な、なんだこれは!?」
男の再度の驚愕の声が響く。
男の足のすねの部分までが地面に埋まっていた。それどころか、さらにどんどん地面に埋まりこんでいく。
地面に足が埋まったために男はそこから動けない。もがけばもがくほど足が埋まっていく。
「くっ!」
男は体が沈んでいくのを止めようと両手を地面に着いた。しかしその手もすぐさま埋まってしまう。男は力をかけうる安定した地盤がなかった。
そこに、ロディが魔法を唱えた。
「サンドウォール!!」
ロディの唱えたのは、威力を減少していない正真正銘の古代魔法『サンドウォール」。そのサンドウォールは現代のサンドウォールとは異なり、無類の硬さを誇る
そのサンドウォールにより男の周囲の地面を固化したのだ。
「な、なんだ、・・・う、動けん。」
手足が埋まったまま四つん這いの状態で地面に縫い付けられる男。激しく動いて脱出しようつしているが、地面に埋まって固定された手足は全く動かない。
そこへロディがダッシュで駆け寄り、そして男の後頭部を剣の柄尻の部分で殴打した。
「ぐ・・・」
男は低くうなると、がっくりと首を落として気絶した。
男は四つん這いのまま動かない。
ロディは、勝ったのだ。
「ふーっ。やった、うまくいったぞ。・・・っと、おっとっと」
ロディは安どの息をつくと、そのままふらふらと地面にへたりこんで、尻もちをついた。
長い精神集中と大量の魔力消費により、疲労が蓄積していたのだろう。
尻もちをついたままもう一回大きく息をつき、そして軽く笑いながらつぶやいた。
「でもフェイさんに教わったあのトラップ。こんなにうまくいくとは思わなかったな。フェイさんに感謝しないと。」
フェイから教わったトラップ。それは一言で言えば「土魔法と水魔法により地面に即席の泥沼を作るトラップ」だ。
まず地面をそのままサンドウォール化する。そしてそこに大量の水を含ませる。
サンドウォールはもろいためすぐに砂のようになるのだが、その特徴を生かして大量の水を含ませることで泥沼のように変えるのがこのトラップの肝だ。
地面が泥沼のようになれば、そこに足を踏み入れた者は足を取られて満足に動くことが出来なくなる。スピードのあるものに対しては特に有効だ。
これがフェイがかつて『ハマれば間違いなく効果絶大。土がある場所で、相手が空を飛ばなければ』と言っていた、フェイ曰く『傑作』トラップだった。
そしてロディは今回このトラップに、彼なりにアレンジを加えている。
まず敵がどこから来てもいいように、自分の周囲を全て囲むようにこのトラップを作った。
そしてウォーターボールを暗闇に向かってやみくもに攻撃すると見せて、一部はその泥沼トラップにも打ち込んでいたのだ。
ただ単純に地面にウォーターボールを撃つだけではそこに何かあると男に悟られるだろう。そのため関係のない周囲にもウォーターボールをばらまいたのだ。攻撃していると思わせたウォーターボールは、本当の目的(トラップ)に気づかせないための、ただの目くらましだったのだ。
そしてさらに、ロディはサンドウォールを深くなるように作った。トラップが浅ければ単に足を引っかけるだけで完全い動きを止めることはできないだろう。なので足が埋まって動けなくなるように深く、およそ1mの深さの泥沼を作った。そのため男の足はすぐにズブズブと底なし沼のように沈み、容易に脱出できなかったのだ。
それにしても、このトラップは、どこから来るかわからない相手に全方位に魔法を大量に使わなければならなかったわけで、これができたのはロディの魔力量のなせる業だ。ロディ以外には誰も真似することはできないだろう。
ロディが尻もちをついて気を緩めていたのは、ほんの少しの時間だった。ロディにはこれ以上時間をかけることは許されなかった。
「っ!いけない。フェイさんとエリーさんを助けなければ。」
ロディは自分の魔法で作った泥沼を解除すると、フェイとエリーのもとに駆け寄った。
そしてすぐにフェイの口元を確認すると、かすかに息をしているのが分かった。
「・・・フェイさん。まだ生きてる。よかった・・・」
戦いにかなり時間がかかってしまったが、フェイは何とか命をつなぎとめていた。ロディはほっと一安心する。
しかし明るくないこの場においてもわかるくらいに顔色が悪い。血を流しすぎているのだ。
「はやく治療をしなければ。でも、どうする・・・」
ロディとしてはフェイを担いで城に向かって治療したい。だがそうなると、エリーをこの場に一人残すことになる。
エリーはまだ寝たまま。2人を担いでいくのはロディには無理だ。太后を一人で残すわけにもいかない。それに拘束しているとはいえ近くに侵入者もいるのだ。
ロディがどうしようかと逡巡していると、城の方から足音が聞こえてきた。
その足音は1つではない。複数の足音だった。
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