第35話 ロディ、ひらめく

 この戦い、侵入者の男に有利な点が多い。


 まず戦闘場所の周辺に暗い場所が多い事。こういった仕事を請け負う者たちは、総じて夜目が利く。

 それに対してロディは夜の戦闘訓練は行っていない。だから夜間戦闘では太刀打ちできないのだ。

 また、男はギフトを強化させている。これにより攻撃も離脱もロディの追いつけないスピードで動けるのだ。

 対して、ロディの有利な点はあまりない。

 フェイとエリーを守るため、この場所を動けない。またフェイは深手を負っている。あまり時間をかけすぎるとフェイが死んでしまうという時間的制約もある。

 不利な点だらけだが、強いてあげるならば城からの援軍が望める可能性があることか。賊の人数は少ないので、最終的には城兵によって鎮圧もしくは撃退されるだろう。

 だがそれがいつになるか全く読めない。本当に有利な点かどうかも怪しいのだ。


 それでもロディは戦わなくてはいけない。

 そして勝つためには、数少ないロディの長所を生かして戦うしかないのだ。


(俺の長所は・・・やはり魔法だろうな。相手がどうか知らないけど、魔力量の多さには自信がある。それを生かす戦いをしなければ。)


 ロディは自分が習得している、もしくはフェイに教わったいろいろな魔法や魔力の使用方法で、効果的なものは何かと考え始めた。


 しかし、相手はその時間を与えてはくれないようだった。


「!」


 ロディの索敵に反応!

 向かって右側の魔力の輪に何かが接触したのを感知し、ロディはすぐさま右を向く。

 そこには高速で迫る男の姿があった。


「くっ!」


ギィン


 男の短剣とロディの剣とがぶつかり、音が響く。

 ロディは男の短剣を紙一重で何とかしのぐ。ギリギリで剣筋を避け、体を男の動線上から避ける行動をとった。

 男はロディに躱されると、立ち止まることなく反対方向へ駆けていき、再度暗闇の中に姿をくらませる。

 男はヒット・アンド・アウェイ戦法を取るようだった。


「はぁ、はぁ・・・危なかった。ちょっとでも遅れてたら切られていたな。」


 ロディは一撃を何とか凌いだことに安堵したが、そんな時間は長くは許されなかった。

 再び、ロディの索敵に反応。今度は正面方向から。


「うおっ!」


ギィィン


 今度もなんとか躱したロディは、反撃とばかりにあてずっぽうに剣を振った。

 当然のことながら剣は男にかすりもしなかった。が、初激の時よりも少し反応が出来ている。

 男は再び暗闇へ走り去る。

 と、ほぼ間を置かず今度は左前方から男が襲い掛かる。


ギィィィン


「はぁ、はぁ、はぁ・・・」


 3度目の攻撃もなんとかしのいだロディ。しかしその息は荒い。絶体絶命の状況であるため肉体的にも精神的にも疲労がのしかかってきている。


 ここで男の攻撃に変化があった。

 4たび、ロディの索敵に触れる何か。

 が今度のそれは今までとは違う。人間の体の大きさではない。ロディの魔力の輪にほんの僅かかすめた何か小さいもの。

 ロディはとっさに危険と判断し、身をかがめる。

 と同時にその頭上を風切り音が通り過ぎる。


ガツッ


 後ろの城壁の方から何かがぶつかる音がする。それが何かを確かめる余裕はないが、おそらく男はナイフか何かを投げてきたのだろうと推測する。


(危なかった。俺の魔力の輪にかすらなかったら気づけなかった。ラッキーだったな。)


 ロディの索敵は自分の周りをぐるりとつないでいる細い魔力の輪を縦に3つならべているだけ。人間などの大きいものなら感知できるが、ナイフのような小物では隙間を通過することもあるのだ。


 ともあれ男の攻撃を4度凌いだロディ。ここで男の攻撃が一旦止んだ。

 実は男は、ロディのような若い男など簡単に倒せる、と思っていた。だが実際にはうまく攻撃をしのがれてしまったため、ロディへの認識を上方修正して、改めて攻撃手段を考え直したため、一時敵に手が止んだのだ。


 このわずかな時間。しかしロディにとっては僥倖だった。

 この戦いは終始相手に先手を取られっぱなしである。後の先で反撃できればいいのだが、今のところその糸口すらつかめないため、考える時間が欲しかったのだ。


(なんとかしのいでいるだけで、こっちから攻撃できていない。これじゃあ奴を倒せない。何か方法はないか・・・)


 ロディは起死回生のために必死に頭をフル回転した。


(あのギフトを強化するやり方は、魔力を大量に消費するはず。時間を使うように戦えば・・・あ、ダメだ。奴は魔石を大量に買っていた。おそらくこのために買っていたんだとしたら、ギフトの使用時間を延ばすために今魔石を使っているはずだ。それにフェイさんの傷のこともある。そんなに時間はかけられない。)

(奴を倒すためには俺の長所の魔法を最大限に使うしかない。魔法でこの状況を打開するんだ。)

(でも相手の場所が分からない。これでは強い攻撃魔法を撃っても当たるわけない。どうすればいい・・・)


 敵に集中しながらも打開策を考え続けるロディ。時間は刻一刻と過ぎていく・・・


 その時、

 ロディの頭に、天啓のようなひらめきがあった。それは、過去にフェイより教わった、ある魔法の使い方。


(・・・そうだ、フェイさんのあの話。あれを使えばうまくいけるかもしれない。)


 以前フェイに教わった魔法の使い方は、今の状況で使用するのに適した方法だ。それを使えば奴を捉えることができるかもしれない。

 だがそれは、フェイからやり方を教えてはもらったものの、実際にはロディは試したことが無い。うまくいくかどうか自信のない方法だ。


(フェイさんは有効だと言ってたけど、本当にうまくいくのか・・・。しかし、今はこれ以外に方法が思いつかない。ここはフェイさんの教えに賭けるしかない!)


 ロディは覚悟を決めたように大きく息を吸い込み、そしてゆっくり吐き出した。

 そして、前方の暗闇に向かって手を伸ばして叫んだ。


「ウォーターボール!」


 ロディの手の先に大きな水球が現れる。1つではない。2つ、3つと、次々に増えていく。

 その現れ続ける水球を、ロディは前方の暗闇に向かって撃ち出した。

 シュッという風切り音とともに飛び出す水球たち。

 その水球はロディの周りの全方位に、まさにめくらめっぽうとでもいうようにがむしゃらに打ち出した。


 このウォーターボールの攻撃にはもちろん意味がある。

 1つは、もしかしたら男に当たってくれれば、という淡い期待。

 ウォーターボールにはロディの魔力がこもっている。もし男に当たったならば、男にロディの魔力が付着することになる。

 そうなればロディには男の位置が分かるようになるのだ。なにせ自分の魔力である。つながりを切らなければ魔力の位置が把握できるのだ。そうなれば男がどこにいるかわからないという相手の有利を消すことができる。


 数十発ほどをウォーターボールの魔法をばら撒いて、ロディは魔法を止めた。

 残念ながらウォーターボールは男には当たらなかったようだ。高速移動が可能な男ならばウォーターボールを避けることは容易だったのだろう。


 ロディは一息つくと、ふたたび剣を構える。

 あたりを再び静寂が包む。まるで次に起こることのに対し、かたずをのんで見守るかのように。


(次の攻撃がおそらく最後の一撃だ。さすがに奴ももうそんなに時間をかけられないだろう。だから次は乾坤一擲の攻撃が来るはず。地を走る最速の攻撃が。)


 ロディは覚悟を決め、闇しか見えない前方を見据えた。


(とにかく”種”は播いた。あとは待つだけだ。)

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