第32話 ロディ、飛び降りる

 太后エリーを肩に担いだ男が外に面した扉を開け放ち、バルコニーに向かう。どうやらロディたちが廊下からやってきたのを見て、進入路からの逃走をあきらめて外に逃げるようだ。


「フェイさん、エリーさんが」


 ロディが叫ぶより早く、フェイはエリーのもとに走った。が、残る一人がフェイの前に立ちはだかった。


「そこをどけ!」

「俺を倒してから行け。」


 フェイと男は数合剣を激しく撃ち合わせる。当然フェイが押しているが、守りに徹している男は容易に崩せそうにない。


 それを見ながら何もできず焦るロディだったが、ふと気づいて周囲を見る。兵士たち2組の戦闘はまだ続いていた。

 こちらを加勢すべきだと一瞬で判断したロディは風魔法であるエアカッターを2人の侵入者に向けて2方向に放つ。風魔法を選んだのは、火魔法では屋敷に被害が及ぶことを懸念したためだ。

 風魔法は正確に戦闘中の2人の侵入者に向かった。


「うっ!」


 1人の侵入者にエアカッターが直撃しうめき声を上げる。深手を負った侵入者に対し、兵士がチャンスとばかりに攻勢に出た。

 もう一人は魔法に気づいて体をよじって回避した。しかし完全には回避できずに右腕に傷を負い、さらにバランスを崩したとこため形勢は兵士に大きく傾いた。

 なんとか兵士を有利にすることができてほっとするロディだったが、間髪入れずに呼び声が聞こえた。


「ロディ!」


 ロディが慌ててフェイを見ると、フェイは剣を合わせた男をすでに切り伏せており、バルコニーへの道が開かれていた。

 しかし、すでにエリーをさらった侵入者はバルコニーに居ない。


 フェイとロディは走ってバルコニーに出て、手すりに体を預けて身を乗り出した。が、城の周辺は明かりが乏しく、暗くて何も見渡せなかった。

 そこへフェイの声が響く。


「ハイ・ライト!」


 フェイが魔法を上空に打ち上げる。それはライトの魔法の上位版、ハイ・ライトで、その魔法は周囲100mを照らせるほど明るくなる。

 ハイ・ライトで照らされた城の庭を眺めたロディが叫んだ。


「あそこに!」


 逃走する男はすでに下に降りて城壁の方に向かって走っていた。。


「4階からあんなところに、いつの間に。」

「決まっておる、飛び降りたんじゃよ。」

「え、4階から?」


 旧城とはいえかつての王族の居城であった城の4階である。普通の建物の4階ではない。高さは優に20m近くはあるだろう。下を見るのも恐怖であるのに、無事に飛び降りれるものだろうか。

 驚くロディに対し、フェイはこともなげに言う。


「風魔法を使えば可能じゃ。飛び降りてから着地する寸前に地面にブラストの魔法を叩きつければ、減速して無事に降りれる。」

「それは、す、すごいですね。」


 感心するロディにフェイがあきれたように言う。


「感心しとる場合か。お主もやるんじゃよ。」

「・・・はい?」

「うむ、いい返事じゃ。では行くぞ。」

「え、いやちょっと待って今のは承諾の返事じゃなくてですねいやそれよりもそんなの練習してないのにできるわけないじゃないですかそんなフェイさんのスパルタは今に始まったことじゃないけどでもこれは・・・」


 あせって早口でまくし立てるロディにフェイに叱責がとぶ。


「馬鹿もん!出来る出来ないじゃない。やるんじゃ。でないとエリーが攫われてしまうではないか。」

「で、でも」

「四の五の言うな。というか時間が惜しい。来い!」


 言うが早いか、フェイはロディをつかんでバルコニーから飛び降りる。


「えーーーー!」


 気持ちの整理もつかぬままフェイとともに落下していくロディ。

 いきなりのことにパニクっているロディの目前に地面が迫る。


(なんでなんでひどいひどい!って言ってる場合じゃない。やらなきゃ死ぬ!えーい、ままよ!)


 ロディはフェイに説明されたブラストの魔法を落ちる寸前に発動し、力いっぱい地面に向けて叩きつけた。

 とたん、地面にブワリと土ぼこりと草の切れ端が舞い、次の瞬間ロディが地面に着地した。


 ズシャァァァァ・・・ゴロゴロゴロ・・・


 いや、”着地”というカッコいいものではない。魔法の影響でバランスを崩して足では着地できず、背中から地面に落ちて、そして勢い余って転げまわったのだ。


「うー、ぺっぺっ・・・イテテテ。」


 口に入った土と草を吐き出しながら、ロディは痛そうに顔をしかめて呻く。しかしブラストで勢いが減っていたためか、さらに身体強化をしていたせいか、骨折のような重症はないようだ。


「ふむ、ぶっつけ本番としては上出来じゃ。」


 地面に転がるロディを見てフェイは満足そうに頷く。こちらは無事に着地したようだ。そんなフェイを恨みがましくにらみつけるロディだった。


「急ぐぞ。走れ。」

「は、はい。」


 だが、いくら体が痛かろうが今は緊急時だ。痛む体に鞭を撃ち、ロディはフェイとともに逃げる黒い影を追って駆けだした。

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