第31話 ロディ、地下を駆ける
「本物の、侵入者!?」
「そうじゃ。あの音は隠し通路に侵入者かあったことを伝える音じゃ。断定はできんが、ロディが持ってきた情報の、ニセ冒険者たちである可能性が高いのう。ともあれ、」
フェイはロディに向き直って言った。
「すぐさま王城に向かわねばならん。着替える暇も惜しい。今は時間がオリハルコンよりも貴重じゃ。そしてロディや。」
「はい。」
「お主もついてくるのじゃ。お主なら少しは戦力になるじゃろう。今はわずかな戦力でもミスリルより価値があるからのぅ。そして、逆らうことは許さん。これは命令じゃ。」
フェイは眼光鋭くロディを睨み、そして強い声で命令した。
対するロディは、さも当たり前のように返事をする。
「はい、もちろんです。このまま置いてけぼりされたら、逆にフェイさんを恨みます。」
「死ぬかもしれんぞ。」
「冒険者なんです。とっくに覚悟は決めています。」
「む、そうか。さすがワシが見込んだ男、いい心がけじゃ。」
フェイが意識してかはわからないが、ロディを『見込んだ男』と誉め言葉を口にした。それに気づいてロディは嬉しくなって破顔しそうになったが、緊急事態であることに気づいて顔に出るのを必死で押しとどめた。
「剣は持っておるの?」
「もちろん。」
「ではついてくるのじゃ。全速でついてこい。遅れてもおいていくからの。」
そう言うが早いか、フェイは部屋を飛び出した。あわててロディはあとを追った。
フェイは1階に降り、ある1室の扉を開ける。その部屋は3m四方くらいに狭く、かつ何もなかった。
フェイはその部屋に入るや、「ふんっ!」と気合を入れた声を発する。すると、床の一部が跳ね上がり、その下から地下道が覗いているのが見えた。どうやらこの地下道は王城につながっているのであろう。
フェイは何も言わずその地下道に飛び込む。もちろんロディも後に続く。
ロディが地下道の地面に降り立ち、フェイを見ると、すでに10m先をひた走っているのが見えた。慌ててフェイを追うロディ。
先ほどフェイは「全速でついてこい」と言っていたが、それは掛け値なく、ロディが全速力を出さないとフェイに追いつくことはおろか、油断すれば引き離されるスピードだった。
どこにそんな力があるのだろう、とロディは考えてすぐに考えるのをやめた。
Sランク冒険者だったフェイなのだ。本気の力はまだ見せていなかったのだろう。今はその力の一端を垣間見ているのだ。
ロディはそう思い、ただフェイについて行く事に必死に専念したのだった。
走りながらフェイは独り言のようにロディに語りかける。
「エリーは命を取られはせんじゃろう。旧王城から連れ去るのが目的じゃろうからのぅ。」
侵入者の狙いは何か。それは一つしかない。当然太后エリーの身柄だ。
ここでエリーを殺すことはあまり意味がない。太后は政治の実権はないので、仮に死んでも少し混乱するだけで、政治に大して影響はない。
おそらくエリーを誘拐して王族を脅すことで何らかの主導権を握ろうとしているのだろうと推測できる。
「人殺しと誘拐では手間と時間が違う。誘拐ならば生かして身柄を拘束して連れ去らねばならん。つまり時間がかかる。城には守備兵もおることじゃ。大丈夫、間に合うはずじゃ。」
フェイの言葉はロディを少しでも安心させるように言った言葉だったが、同時にフェイ自身の心にも言い聞かせるような響きをもっていた。
地下道を1kmくらい走った先に、行き止まりがあった。正確には、その行き止まりには小さな板の扉がある。ここが地下道の終着点なのだろう。
扉を前にして2人は立ち止まった。フェイは全く息を乱していない。短距離走のスピードで1km走り切って息も切らさないとは恐るべき身体能力だ。
一方ロディは息も絶え絶えでありフェイと比べると雲泥の差だ。しかしそれは比べるのが酷だ。短距離走のスピードで1km走り切るなど普通できるはずもない。しかしロディはフェイについてきており、しかも息は切らしているが立ったままだ。フェイの厳しい稽古について行っているロディには自然とスタミナもついていた。
フェイはそんなロディを少し満足そうに一瞥して、口を開いた。
「わかっておるじゃろうが、この先は王城に中じゃ。そしておそらくすでに戦闘になっておるじゃろう。ロディ、気を引き締めよ。一瞬たりとも気を緩めぬようにな。」
「は、はい!」
ロディの返事を聞き、フェイは小さな扉に手をかけて開けた。
途端に明るい光が差し込み、ロディは目をすぼませる。
「すぐに目を慣らすのじゃ。」
容赦ない声が響き、フェイが王城へと踏み込み、ロディも続く。
ロディたちが出たところは小さな小部屋だった。何もなく地味な部屋だが、王城らしい意匠がところどころに見られる。
ロディは今通ってきた後ろを見ると、大きな柱時計が目に入った。柱時計は古びて全く動かないようで、そして振り子の部分に振り子はなく、黒い空間が大きく開いている。どうやらこの柱時計の後ろが地下道につながっていたようだ。
そして、かすかだが 金属が当たったりこすれたりする音、そして誰かの叫ぶ声が聞こえてくる。
「まだ戦いが続いておる。ならまだ間に合うということじゃ。」
言うが早いかフェイは部屋の出口の扉を開き廊下に出た。
「出るぞ、ロディ。すぐに4階に向かう。侵入者はそこに向かうはずじゃ。」
フェイが迷いなく言い切る、エリーの居場所を確信しているからに他ならない。ロディは無言で後に続く。
2人は廊下を走って一目散に目的地に向かう。
途中、十数人の死体が目に入った。
武装した兵士らしき者もいたが、大半は武装もしていない者たちだ。おそらく城の使用人であろう。
ロディは心の中で冥福を祈る。今は止まって祈ることもできないのだ。
階を上るにつれ、喧騒の音が近くなる。
「あそこじゃ!」
4階に上り、フェイが叫ぶ。
フェイの視線の先には、開け放たれた扉があった。
そしてその周辺に、数人が倒れているのが見える。大部分は兵士だが、2人ほど黒づくめの者たちもいた。彼らは使用人ではない。間違いなく侵入者だろうと理解できた。守備兵たちの反撃で、侵入者側も犠牲が出ているということだ。
そして戦闘場所はすでに室内に移動しているようで、剣戟の音は室内から聞こえてきている。
「ぬう、少し遅れたか。急ぐぞ。」
フェイとロディは兵士たちの体を避けながら廊下を走り抜け、フェイを先頭に部屋に飛び込む。
その瞬間、扉の横からフェイめがけて剣が振り下ろされる。
部屋の内側の扉の横に侵入者が隠れていて、部屋に入ってくるフェイたちを待ち伏せていたのだ。
完全に不意を突かれた、と思ったのはロディ。
しかしフェイは、
「甘いわッ!」
と叫んでその剣を軽々と避け、振り向きざまにその男に自らの剣をお見舞いした。
「ぐっ!」
うめき声を発して倒れる黒づくめの男。倒れた床には次第に血が広がっていく。
初めて命のやり取りを目にし、ロディは動揺すした。もしかしたら次の瞬間には、自分がこの男のように床に転がっているのかもしれない。そんな思いがロディを一瞬すくませた。
魔物と対している時の感覚にはない、殺意を持った人間との戦闘なのだ。
しかし、ロディは勇気を振り絞って前を見た。
目の前にはフェイがいる。フェイがいることで何よりも強い安心感をロディに与えてくれた。
そして何よりも、エリーを守らなければならない。
その安心感と使命感とがロディに前を向かせる勇気を与える。
ロディは心を決めて、顔を上げて前を向いた。
ロディの目に、室内の光景が飛び込んできた。
室内には数名の者たちがいた。
守備兵が2人。その2人と剣を交えている黒づくめの者が2人。その2組が戦っている。
室内に眼を向けると、大きくきらびやかなベッドが目に入った。どうやらここはエリーの寝室のようだ。しかしベッドにエリーはいなかった。
さらに目を周囲に向けると、窓際に立つ2人の人影が目に入った。
2人は黒い服を着ており、侵入者だ。しかしただ黒いだけではなかった。そのうちの1人の肩に白い何かが載っていた。
「あっ!」
思わずロディは声を上げた。
侵入者が肩に担いでいるのは白い服を着た女性。気を失っているらしく動きがなく、体を二つ折りにしており、両手が下にだらりと下がっている。
顔は見えない、しかしロディにはわかった。その白い服の女性がこの部屋の主、エリーであることが。
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