第30話 ロディ、フェイに伝える
「その話、俺の勘だけどすごく嫌な予感がする。急いでフェイさんに伝えた方がいいと思う。」
そうして慌てて出ていこうとするロディにレミアが呼び止める。
「夕食はどうするのだ?」
相変わらずレミアらしい言葉にロディは少し苦笑した。
「フェイさんのところに往って来るだけだから、帰ってから食べるよ。」
「冷めたらおいしくないのだ。」
「はは・・・仕方ないよ。」
不安な予感に気が急いて焦っていたロディは、今の会話で少し落ち着きを取り戻す。ゆっくりと3人を振り返ったロディは、あることを見落としていたことに気づいた。
「ナコリナは?まだロスゼマさんのところから帰ってきていないか。」
「今日は遅くなりそうって言ってたから。」
ロディは疲れていて、しかもおなかがすいていたため、ナコリナの不在に気づいていなかったのだ。ロディは周囲を見ていなかった自分を反省しつつ、言った。
「じゃあ、ロスゼマさんのところに行って2人に今の話を伝えてほしい。もう夜だし1人じゃ危ないから、3人で行ってくれないか。」
「わかったわ。」
そうして4人は宿をでて、夜の闇の中を足早に目的地に向かって行った。
◇◇
フェイの街中の仮家にある地下通路(ロディは通れるように設定済)を通り、屋敷の裏手へと出て裏口で来訪を告げるように呼び鈴を鳴らす。
しばらくしてフェイの執事が出てきて、ロディを見て驚いたような表情をした。
「ロディさん、いかがしました?先ほど帰られたと思いましたが。」
「すみません、フェイさんの耳に入れたいことがあるので引き返してきました。フェイさんはまだお休みになってないでしょうか。」
「ええ、今は食事を終えたところです。しばらくお待ちください。」
執事は屋内に引き返し、少しの時間ののちにロディの前に戻ってきた。
「お会いになるそうです。どうぞこちらへ。」
ロディは促されて屋敷に入り、執事の先導で屋敷の一室へと歩いていく。
執事は階段を進んで3階に上り、ある1室の扉の前で立ち止まった。どうやらフェイの私室のようで、ロディもこれまで入ったことはなかった部屋だ。
「旦那様、ロディさんをお連れしました。」
「入りなさい。」
フェイの低く、それでいて少し疲れたような声が聞こえ、それを合図に執事は扉を開けた。
部屋の中には、明らかに眠そうで不機嫌なフェイがソファに座っていた。彼の服装は稽古時とは違いかなりラフな服装で、今すぐにでもベッドに就きそうな格好だ。
「夜分遅く、おやすみ前に申し訳ありません。」
「どうしたんじゃロディ。夜更けに再訪するなど、よほどの話だとは思うが・・・。」
フェイは笑ってはいたが目はすわっており、『つまらない話ならタダじゃおかんぞ。』と言外に物語っているようだった。
「まあ座りなさい。」
フェイは対面のソファをロディに勧め、ロディは応じてそこに座る。
「重要な話かどうか判断はつかないんですが、不吉な予感がする話なのであえて急ぎ伝えに来ました。」
「どんな話なんじゃ?」
「ええ、それは・・・」
ロディは、怪しい男たちにまつわるこれまでの事柄を、順序良くかいつまんで説明した。
ロディの見たニセのギルドカード、レミアの”匂い”で人を判断すること、そのレミアが『同じ匂い』と語る冒険者らしき集団、そして今日の昼にテオが聞いた会話の断片・・・
ロディが話し終えた時、フェイは目をつぶったまま黙っていた。
どうやら深く考えているようだ。ロディはそのまま黙ってフェイが考え終わるのを待った。
それはおよそ2分くらい続いたであろうか。
不意にフェイの頭ががくんと前に落ちた。驚いたロディが目を見張ると、フェイは慌てたように顔を上げて目を見開いた。
「おお、すまん。ちとウトウトしてしもうた。」
「え、えーーーー!」
寝てたんかい!
ロディは力が抜けたようにソファにもたれかかった。いままで気を張っていて、気にしてなかった空腹が一気に迫ってきたようだ。ロディは思わずフェイを睨んだ。
「ワハハ、というのは冗談じゃ。寝てなどおらん。」
「・・・。」
屈託なく笑うフェイに、ロディはなおジト目を向ける。
「まあ冗談はさておき、ロディの話は確かに興味深い。夜更けにワシの家に訪れるのも納得できる。実はのう、エリーの周囲に注意せねばならん状況が続いておるのじゃよ。」
「え、エリーさんに?」
「そうじゃ。ロディには話しておこうかの。」
そう言ったフェイはおもむろに語りだした。
「少し前に国の王太子が実権を握った事は知っておるじゃろう。」
「ええ。」
「そしてそれにより権力を失った貴族共もいる。」
「はい。」
「でな、その権力を奪われた貴族、そのトップであるセルドズ公爵の動きに、最近きな臭い噂がある。」
「セルドズ公爵、ですか。」
「そうじゃ。」
セルドズ公爵家。この国の有力な貴族、2つある公爵家の1つで、当然領地も広く、政治的な力もある。
ちなみにもう一つの公爵家であるニューウィンザー家は、太后エリザベートの実家である。
「かの家は初代国王より王国に仕えたものが起こした家での、忠義で知られた古参の貴族じゃ。まあ今は保守的な貴族の考え方そのままの家になってしもうたがのぅ。」
フェイはそこで一区切りしてロディに顔を向けた。
「ロディ、お主の話は証拠のような確実なものはない。じゃが、どうもその話には今のそのきな臭い話に関係がありそうな気がしてならん。そして、『夜』『通路』『城』という言葉・・・」
そう言われて、ロディもいやな予感が一気に濃厚になった。
「もしかして、城に・・・エリーさんに何かを仕掛けるのでは。」
「あくまで可能性じゃが、ありうるじゃろう。じゃから一層警備を厳重にせねばの。」
「?フェイさんが警備を厳重に、ですか。」
「おお、そうじゃ。旧城の警備の一部をワシが担当しておるのじゃ。と言うても、不審者を通さない、もしくは見つけるための防犯の魔道具を取り付けておるだけじゃがの。」
「そうなんですか。」
「例えば、今日おぬしが通ってきた地下通路があるじゃろ。ああいった通路はほかにもあって、城からいろいろなところに通じておるんじゃ。そういう通路の至る所に仕掛けておる。」
フェイの邸宅は元城の一部である。城にはこういった地下通路がいくつかあって、変事には脱出経路になるのだ。フェイはそういった通路の監視を担当しているのだという。エリーさんに信頼されているフェイだからこそ任されているのだろう。
「もしそこから誰かが入って来ても攻撃して撃退できるんですか?」
「いや、侵入者を発見するだけじゃ。攻撃魔法など危険はなく、ケガなどさせるようにはなっておらん。もしかしたら王族の避難通路になるかもしれんからのぅ。怪我でもさせたら事じゃからな。」
さすがに王族が通るかもしれない通路に危険な仕掛けはできないらしい。
「なるほど。侵入者がいたら、フェイさんや警護隊の人が駆けつけるようになっているのですね。」
「そうじゃ。ほれ、そこに見えるじゃろう。」
フェイはそう言ってロディの後方の壁を指さした。
ロディが振り向くと、そこには赤い色をしたランプのようなものが5つほど並んでついていた。おそらくそれぞれが侵入者発見のためのものだとロディには推測できた。
「あれは侵入者を知らせる魔道具と連動しておおってな、通路に侵入者があるとあのランプが点滅するんじゃ。」
「へー。でも寝てるときはどうなるんですか。」
「寝てるときも心配ない。光ると同時に音が鳴る・・・。」
ビーッ、ビーッ、ビーッ!・・・・
自慢げに話すフェイの言葉が言い終わらないうちに、けたたましい音と共にいきなり壁のランプの一つが赤く点滅を繰り返した。
いきなりのことに驚いたロディは振り返ってフェイの顔を見た。フェイは驚くと同時に真剣な顔つきに変わっていた。
「・・・あの、これは・・・。」
恐る恐るといった感じでフェイに問うロディ。かたやフェイは真剣な顔のまますっくと立ちあがった。
「そうじゃのぅ。ワシがお試しで鳴らしたわけではない。魔道具が反応して鳴ったのじゃ。つまり」
フェイは少し笑みを浮かべながら言った。
「本物の侵入者、というわけじゃな。」
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