第29話 ロディ、夕食を食べ損ねる
フェイとの食事会の数日後のこと。
その日はエマ、レミア、テオの3人は街で買い物をして過ごしていた。
ロディは相変わらずフェイの特訓でしごかれており、ナコリナはロスゼマのところで仕事中だ。
「そろそろ腹が減ったのだ。昼食にするのだ。」
レミアが能天気に話すと、後ろからテオが同意する。
「確かに、昼時だ。腹も、減ったし、とにかく、どこかに、入ろう、ぜ。」
テオの言葉は息も絶え絶えだ。見ると両手に大荷物を抱えている。右肩に箱を4つ、左手に紙袋を4つ持っている。周りからは明らかにキャパオーバーに見える。
もちろん3人・・・いやほとんど女性2人の荷物だ。
『荷物を女性に持たせておくなんてできない。俺は男だからな。』
と言って頑なに荷物持ちを主張した、その結果だ。
「テオ、大丈夫?」
心配そうにエマがテオに声をかける。エマはテオだけが荷物を持っている状況に申し訳ないと気を遣うのだが、テオはエマに向かって『大丈夫、任せろよ!』ってやせ我慢の笑顔を見せた。
気になる女性にいいとこを見せたいのは、いつも世の男性にも共通だ。
しかしレミアの方はというと、まったくマイペース。テオにさも当たり前のように荷物を持たせたまま、平然と前を歩いている。
「あの店にするのだ。」
レミアが指さしたのは普通の定食屋っぽいたたずまいの店。地味な外見だが、中は意外に多くの客がいるようだ。
「いい匂いなのだ。こういう店がおいしいのだ。」
レミアは自信満々に言い切る。
「そうね。いいんじゃないかしら。」
「とにかく、はやく、入れる、ところで、かまわないから。」
エマもテオも同意したので、3人はその店に足を進めた。
そんなエマたちを足早に追い抜き、同じ店に入って行こうとした冒険者っぽい4人組がいた。テオがふらふらでゆっくり進んでいたため追い越されるのは仕方がない。
そして3人の横を通り過ぎた時、レミアが顔をしかめて、その4人組の後姿を見つめた。
そしてレミアは立ち止まり、ムムムと考えこむそぶりをした。
「どうしたの?レミア。」
エマの問いかけにレミアが振り向いたが、難しい顔はそのままだ。
「なんだかあの4人で思い出しそうなのだ。もう少しで思い出しそうなのだ。」
「知り合い?」
「いや、知り合いではないと思うのだ。のだが・・・思い出せないのだ。」
煮え切らないレミアにテオが口を出す。
「そんなの、あとで、いいだろ、早く、はいろう、ぜ。」
テオの疲れた声に押され、エマたちは4人組に続いて店に入った。
◇◇
その店は混んではいたが、エマたちの分の席は何とか確保できた。
席に着き、荷物を置いたテオがテーブルに突っ伏す。
「・・・疲れた・・・」
「荷物を持っただけで情けないのだ。力が無いのだ?」
「お前の荷物が一番多かっただろうが。感謝もねえのかよ。」
「男性が女性の荷物を持つのはとーぜんなのだ。」
「ごめんねテオ。やっぱり帰りは私も持つわ。」
「・・・いや、やっぱ男が持つもが当たり前だ。エマは気にしなくていい。」
エマに気を使わせたくないテオは、レミアの言葉に不承々々同意せざるを得なかった。
「とにかくお腹が空いたのだ。はやく食事を頼むのだ。メニューはどこなのだ?」
レミアの声はテオと違って元気いっぱいだった。
そんなこんなで食事中、美味しいデザートを堪能していたレミアが『あっ』と小さな声を上げた。
その声を聴き目を向けるテオとエマ。その視線を受けながらレミアはつぶやいた。
「・・・思い出したのだ。あの4人組。以前嗅いだことのある嫌な匂いの奴らなのだ。」
「嫌な匂い?」
エマの問いにレミアが答える。
レミア曰く、最近よく同じ匂いをした者たちに出会うことがあり、このまえロディと一緒にギルドを訪れた時にも出会ったのだという。
「そいつは大量に魔石を買っていたのだ。ロディに聞いたら、どうもそいつが持っていたのはニセのギルドカードだったらしいのだ。」
「ニセのギルドカード!?」
エマが驚く。ギルドカードは不正防止のため偽造することはできない、と言われている。
しかしロディはニセのギルドカードだったと断言したという。ロディの能力を知っているエマたちは、それが間違いないことだと信じることができる。
「あいつらは・・・・?」
エマが慌てて周りを伺うと、隅の方のテーブルに固まって食事をしている彼らの姿を見つけた。
4人の男性は、ともに身なりは普通の冒険者風で、顔や体格も取り立てて特徴がない。気を付けなければ全く印象にも残らないような雰囲気だった。
彼らは黙々と食事をするだけで、あまり会話をしているようには見えない。冒険者は結構食事中も会話をすることが多いため、その面では異質と言えば異質だ。
「・・・見たところ普通。怪しいとしても何の証拠もないわ。どうしようか・・・」
エマは逡巡しながら横目で奥のテーブルを眺めていた。
そこで4人組に動きがあった。
1人が少しだけ口を開き、何事かを告げた後、4人はすぐに立ち上がる。エマたちは慌てて視線を逸らす。気づかれたのかと緊張が走る。
しかしどうやらそれは杞憂だったようだ。4人は全く気付かないように入口へと歩みを進め、そのまま店を出て行った。
エマとレミアは心残りとでもいうかのように入り口を眺めていたが、やがて視線を戻して言った。
「怪しいのだ・・・でもロディも手出ししようがないって言ってたのだ。」
「そうね。」
単に漠然とした怪しさがあるだけでは騒ぎを起こせない。2人はため息をついた。
が、そんな2人にテオが低い声で話し始めた。
「いや、あいつらヤバいのは間違いない。何かを起こそうとしてそうだぜ。」
「え、どうして?」
「実はさっき、あいつらが最後に会話した言葉が少し聞こえたんだ。」
テオは獣人の血を引いており、そのため嗅覚や聴覚も常人に比べて優れている。そのテオが彼らの言葉を耳にとらえていたようだ。
「と言っても離れてたんで単語の断片しかわかんなかったけどな。」
「で、なんて言ってたのだ?」
「わかったのは3つの言葉だけ。『魔石』と、『夜』と、それから・・・・『城』」
「「え!?」」
テオの言葉に2人は驚く。それもそうだ。ニセのギルドカードをもつ者たちが、『城』という言葉を使っていた。城に仕える関係者には見えない。なら城を見学?まさかそうではないだろう。
3人の疑念が濃くなった。
ただ、今騒ぐほどの確たるものがあるわけではない。ニセのギルドカードの件はあるのだが、ギルドに話しても、ロディがいなければ取り合ってもくれないだろう。3人はどう行動するか、悩ましいところだ。
「帰ってからお兄ちゃんに相談しましょう。」
結局は、不本意ながらも3人はそうするしかなかった。
◇◇
ロディは夜遅く宿に帰ってきた。このところフェイの稽古が厳しく、遅くなることが増えている。
そかし、その疲れたロディを待ち構えていた者たちがいる。
「お兄ちゃん、ちょっと相談したいことがあるの。」
帰ってすぐ3人が近づいてきて、ロディは何事かと驚く。
「えっと、お腹空いてるんだけど・・・。」
「じゃあ食事しながらでもいいから。」
「OK。じゃあ食べながら聞くよ。」
ロディはそう言って疲れた笑顔で食堂に向かった。しかしロディは夕食を口にすることはなかった。
食事を目の前にして話を聞き始めたロディだったが、スプーンを口に運ぶ前に、その話の内容に釘付けになったように動きを止めた。
3人の話を聞き終え、ロディは考える。
話は漠然とした怪しさしかない。しかしロディの勘は、「これは危険だ」と警鐘を鳴らしている。
(何者かが身分を偽ってニセのギルドカードでザイフに入り込み、そして城に対して何かを企てている可能性。・・・もしそうなら、危険なのはエリーさんになる。
取り越し苦労かもしれないが、それならそれでいい。でももし本当に危険が迫っているのなら・・・一刻の猶予もないかもしれない。)
そう考えた瞬間、ロディは立ち上がった。
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