第9話 ロディ、また疑われる
「え!?あのフェイさんに魔法を教わりに行くことになったの?」
宿に帰ってロディは皆にフェイとの会話を伝えた。一応、賢者であったことは伏せて。
案の定、4人とも怪訝そうな表情をロディに向け、ナコリナは明らかに反対であることを滲ませた言葉にしていた。
「魔法だけじゃなく剣術も教えてくれるらしいんだけど。」
「剣術も!?あのおじいさん、本当にそんなことできるの?疑わしい・・・」
「剣についてはわからないけど、魔法についての知識は相当あるみたいだよ。話を聞けるだけでも有益だと思うんだ。」
フェイの本当の姿を教えずに4人を説得するのはなかなか苦労はしたが、ロディは何とか最後は納得させることに成功したのだった。
「はあ、ロディがどうしてもって言うならこれ以上言わないけど。・・・でもどうするの?3人は。」
ナコリナはエマ、レミア、テオに目を向ける。ナコリナとロディが満足にパーティを組めないならば3人で活動するしかない。
「うーん、でもお兄ちゃんが決めたのなら仕方ないよ。大丈夫。中級ダンジョンをギルドで調べたけど、魔物も大したことなさそうだった。中級でも下の方らしいし、それなら浅い階層なら3人で行けるんじゃないかな。」
「俺たち3人ならまあまあバランスが取れてる。ダンジョンが無理そうなら、ギルドで依頼を受けるのもいいしな。」
エマとテオは問題ないと口をそろえる。しかし一人だけ不満顔の者が・・・
「ロディと一緒に居れないのは嫌なのだ。」
レミアだけはロディと行動を共にできないことを嫌がっていた。
「ロディの匂いが嗅げないのは私にとって苦痛なのだ。」
「ごめんな。でもずっといないわけじゃなく夜には帰って来るよ。」
「でも・・・」
「よせよレミア。」
なおもゴネるレミアを止めたのはテオだった。
「ロディはみんなのために強くならなきゃいけないって思ってんだ。レミアのわがままで止めたらダメだろ。」
「テオ・・・」
「それに、俺たちも強くならなきゃいけない。そうだろ。」
テオは一旦言葉を区切ってみんなを見ながら言葉をつづけた。
「このパーティは、力だけで言えばロディが頭抜けて強い。ロディなら何でもできるし、パーティはロディがいればある程度のところまでは行ける。でもそれじゃダメだと思う。もっと周りのみんなが強くなって、ロディに頼らなくてもいいような戦いが出来なきゃ、このパーティはどこかで頭打ちになっちまう。
俺たちはまだまだ弱い。だからロディが爺さんのもとで修業するなら、俺たちは負けないように頑張って強くならなきゃならない。」
「そうよ。強くなってロディを驚かせましょ。」
テオとエマの言葉に、、少しの間黙っていたレミアだったが、やがてしっかりと前を見据えて言った。
「そうなのだ。ロディにおんぶに抱っこじゃダメなのだ。ロディに頼られるくらいのいい女にならないと、側にいる資格もないのだ。・・・わかったのだ。」
レミアはロディを見て言った。
「ロディ、ナコリナ。頑張って修行してくるのだ。私らは3人で力を磨くのだ。次に一緒に戦うときは驚くなよ、なのだ。」
「わかった、楽しみにしておくよ。俺も強くなる。それも楽しみにしておいてくれよ。」
「私も、すごいポーションを作れるようになってみんなをあっと言わせるわ。」
こうして、ロディとナコリナが2人の老人のもとで教えを受ける間、エマ、テオ、レミアの3人は彼らだけのパーティで活動していくことになった。
◇◇
翌朝、ロディとフェイはザイフの街を出て西側の森に来ていた。
「ここならいいじゃろ。」
フェイが立ち止まってロディに体を向ける。この場所は森の中でも開けた場所で、50mくらいの円形に地面が露出している。
「ここは・・・?」
「ふぉっふぉっふぉ。ここは『練習場』じゃ。剣や魔法を練習したいものはここに来るのじゃ。まあギルドでも練習できるのでここまで来る奴らはあまりおらんようじゃがの。」
フェイは賢者であることを隠したいため、ギルドで何かをするわけにはいかない。必然、人目のつきにくいこの場所に来ることになった。
ロディとしても自分の魔法に秘密があるので、見られないほうが気は楽である。
フェイはこの空間の端に土壁を作り出す。高さ2m、幅5mほど。初級魔法のサンドウォールよりはるかに緻密で堅そうだ。中級以上の魔法なのだろう。
「さてロディ。おぬしの今の力を見ておきたい。ここで一通り魔法を使ってみるのじゃ。初級魔法をこの壁に向かって撃つが良いぞ。」
「はい。」
そうフェイに指示されたロディは、自分の覚えている初級魔法のファイヤーボール、ファイヤーアロー、ウィンドカッター、ウォーターボールなどをひとしきり撃ち出していった。
それをしばらく脇で見ていたフェイは、最初にこやかに見ていたが、やがて少し考えるような表情になっていった。
「それまででよい。」
およそ5分後にフェイはロディを止めた。そして一息つくロディにフェイは近づいていく。
「魔力切れは起こしておらんようじゃな。」
「はい、まだ大丈夫です。」
「やはりおぬしの魔力量は飛びぬけておるの。普通の若い魔法師なら、これほど連続で魔法を使い続ければ途中でへたり込むものじゃが。」
フェイが感心したようにつぶやく。ロディはその生まれながらの体質で魔法が使えなかった半面、それにより普通の人より魔力量が多くなっている。
「ところでじゃ、おぬしの魔法じゃが・・・どうも不思議なんじゃが。」
「不思議、とは?」
「ロディの魔法は見た目も威力も普通。それはおかしくはない。しかしの・・・おぬしの魔法はなにか混じっておらんか?」
「え!?」
フェイの指摘にロディはドキリとする。確かにロディの魔法はそのまま出せばとんでもない威力になるため、威力減少の魔法を一緒に使って『普通の』魔法に見えるようにしている。
せっかくロディを鍛えてくれるフェイではあるが、ロディの秘密である修正魔法についてはまだ話してはいない。まだ出会ってから日も浅く、信用するまでには至っていないからだ。
しかし、フェイには何かを感づかれてしまった。さすがは元賢者ということだろうか。
「いえ、・・・普通に使っているだけですが。」
「そうかのう。確かに個人的な特徴は少しは出るもんじゃが、ロディの魔法は今までの経験にはない感じじゃ。なにか別の魔法が入っているみたいな・・・。」
しばらく考えていたフェイだったが、ふと表情を緩めてロディに言った。
「ま、それがロディの魔法というもんかの。訓練するのに支障はないならよいか。」
そう聞いてロディはホッとすると同時にちょっと罪悪感が芽生えた。せっかくのフェイの好意でやっているのに、だますようなことをしている。けれど今はまだそれを言うわけにはいかない。
ロディは心の中でフェイに謝るのだった。
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