第8話 ロディ、魔力操作を教える

 フェイは順にロディに質問を問いかけ、ロディは素直にフェイに語った。

 鑑定の儀で魔力が出ていないとわかった事。魔法が覚えられなかった事。ある時魔力を出せるようになったこと・・・。


「なんと、では今は魔力を出せるというのか。」


 今は魔力を出せると聞いて、フェイは驚きの表情を見せた。


「今、魔力を出してみてはくれんか。」

「わかりました。」


 フェイは興奮したように魔力を出してみるように要求し、ロディは頷いて魔力を少し放出した。それをじっと見ていたフェイは、さらにおもむろに言った。


「・・・まさか魔力の量は変えられたりするのか?」

「ええ、やってみます。」


 ロディがさらに魔力を放出すると、フェイは目を見張った。


「おお・・・魔力を出す出さぬだけでなく、その量の調整も自由とは・・・。」


 やや呆然としたフェイだったが、気を取り直したように座り直してロディにさらに要望した。


「そのやり方を教えてもらうことはできるかの。」

「もちろんです。」


 ロディは自身の体の中で行っている操作を話す。

 体の一部に魔力の放出に関連する部分があること。そこを魔力が通るとその分の魔力が放出されること。魔力を放出させないために、その場所に魔力を遮断する壁の囲みを作っていること。壁を一部変形、解除などを行うことで放出量を調整していること。・・・


 その間フェイはロディの話に驚いたり、歓喜したり、難しい顔をして首を振ったり、様々な表情を見せた。

 ロディの話を聞き終え、フェイはしばらく動かずじっとテーブルの一点を見つめ、考え込んていた。

 しばらくたって考えがまとまったのか、ようやくフェイは口を開いた。


「ロディは、体内の魔力が増加する原理は知っておるかな?」

「え?・・・魔力を練って魔力操作を訓練すれば増える、とは聞いてますが。」

「うむ、まあ世間一般で知られているのはその程度じゃろうな。『魔力量を増やしたければ魔力を制御する訓練をせよ』と。しかしこれで確かに増えはするが、その増加量は微々たるものじゃ。」


 熟考ののちにフェイが語りだしたのは魔力量の話だった。ロディの魔力の話に関連するのだろう。フェイはゆっくりと話をつづけた。


「わしら研究者たちの長年の研究でわかったことがある。体内魔力量を増やすためには、その魔力量を体内に保持できなければならん。保持できる量が増えれば、それが『魔力量が増えた』ということになる。体を魔力を入れる器と考えればよい。器が大きくなれば魔力量が増える。つまり魔力量を増やすには器を大きくする必要があるのじゃ。」

「なるほど・・・。」

「しかし、その器を大きくする方法が簡単ではない。器を大きくするには単純に体内の魔力量をMAXより多く、しかもある程度の期間保持しておかねばならぬのだ。短期間で効果があまりない。

 薬などで体内魔力を増加させても意味は無い。薬の効果は一時的なものでしかも、器がその量に適したサイズではないから、オーバーフローした魔力はすぐに体外に漏れ出してしまい器は大きくはならん。むしろ器が壊れてしまう危険性がある。じゃからギルドでも魔力回復ポーションの服用には注意がされているはずじゃ。」


 そういえば、とロディは思い出した。魔力回復のポーションは魔力減少時に限るようにと通知されていた。それにはこういう理由があったのかとロディは初めて知った。


「自身の魔力よりやや多めの量の魔力を体に入れ、それを長期にわたって保持し続ける。体内に入った魔力量に順応するように器は少しずつ大きくなっていく。これが魔力増加の基本じゃ。ではどうすればそれができるか?ロディ、分かるかな?」

「え、いえ。わかりません。」


 フェイはロディの答えに少し苦笑いを浮かべた。


「簡単じゃ。体から魔力を出さなければよい。出さなければ魔力はとどまり続け、逆に外からの魔力は少しずつ体に入り込み、器はそれに応じて大きくなっていく。


 じゃが『魔力を出さない』など、言葉だけなら簡単じゃが実際には難しい。どんなに魔力を制御してもわずかに制御しきれない分が外部に出てしまうのじゃ。それに寝ている間は制御すらできないから魔力は出っ放しじゃ。これではなかなか増えぬ。


 しかしのロディ。おぬしはそれができておるのじゃ。生まれた時から、自然にのう。」

「え?・・・ええ!?」


 フェイの言葉にロディは驚く。ロディにとって魔力が出ないことは鑑定の儀以降最近までコンプレックスでしかなかった。しかしフェイはそれを魔力増加のための最適な方法だと言うのだ。

 そういえば鑑定の儀の時にロディの体を調べた人が「魔力量は多い」と言っていた事を思い出す。その時は『魔力が多くても意味がない」と思い忘れかけていたが、今となってはそれが意味がある言葉に思えてくる。


「なんとも羨ましいのう。長年鍛え続けたワシの魔力じゃが、魔力量だけならロディとワシとは同じくらいじゃから。」

「す・・・すみません。」


 フェイの言葉にロディはつい謝ってしまう。しかしフェイはロディを不思議そうに見つめて言った。


「何を謝っておる?わしはむしろ喜んでおるんじゃて。ロディの話で、長年続けていた魔力の研究がさらに進むのは間違いない。今ワシは研究意欲が沸々と湧いてきておるんじゃよ。これはロディのおかげじゃ。」

「フェイさん・・・。」


 ロディはとても幸せな気分だった。魔力が出ないという過去の欠点が、実は利点だったとわかった。さらに元賢者で研究者のフェイに感謝されている。ロディは言いようのない喜びでいっぱいだった。


「ところで、ロディや。これほど貴重な情報をもたらしてくれたおぬしになにか礼をしたいのじゃが。」


 話が一区切りついて、フェイは改まった表情でロディに言った。


「え?でもさっきフェイさんが元賢者だと教えてくれたじゃないですか。」

「それでは価値が釣り合わん。もっと大きなお返しが必要じゃ。そうじゃのう・・・」


 フェイは少し考えこんで、ポンと手をたたいた。


「そうじゃ、ナコリナちゃんがしばらくロスゼマ婆さんのもとで助手の仕事をするんじゃったのう。ならその間ロディもこの街にとどまるんじゃろう?」

「ええ、その予定ですが。」

「ならばその間ワシがロディを鍛えてやろう。もちろんタダでじゃ。それでどうじゃ。」

「え!?」

「不満かの?」

「いえ、まさかとんでもない。・・・本当にタダで稽古をつけてくれるんですか?」

「ああ、もちろんじゃ。」


 なんと、引退したとはいえ賢者と呼ばれた人が稽古をつけてくれるという。冒険者としてAランクを目指すロディにとってこれほど望ましいことは無い。


「ありがとうございます。よろしくお願いします。」


 ロディは勢いよく立ち上がり、フェイに頭を下げた。

 こうしてロディは元賢者フェイのもとで修業をすることになった。


「これでナコリナちゃんもワシの家に呼ぶ口実ができたわい。」


 最後の言葉は聞かなかったことにしたロディだった。

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