第6話 ロディ、問いつめられる
フェイの住まいはザイフの街の中心部に近いところにあった。住宅街という感じの静かなところで、近くに大きな屋敷も見られる。
こんなところに住んでいるなんてフェイは意外と金持ちなのかもしれない、とロディは想像した。
フェイはその区画の一つの家に入っていく。その家は外見は何の飾りもなく質素で目立たない。結構おしゃべりで騒がしいフェイが住む家とは思えない感じだった。
「遠慮せず入ってくるがよいぞ。」
「お邪魔します。」
ロディが家に入ると、部屋の中央にあるテーブルと椅子が目についた。というよりほかに目につくものがなかったというべきか。部屋の中はほとんど物がなく、質素そのものという以上に生活感がまるでなかった。本当にフェイの家だろうかと少し心配になるほどだ。
「ふぉっふぉっふぉ。物が無さすぎるのに驚いているんじゃろう?」
フェイが数少ない調度品の棚から湯飲みなどを取り出して茶を用意しながらロディに笑いかける。
「あ、いえ。・・・確かに少ないですよね。」
「ま、ここは家というより隠れ家と言ったところじゃな。本宅は別にあるんじゃ。」
何でもないことのように話すフェイだが、その内容は「家を2つ以上持っている」と言っているのだ。しかも中心部に近い家を『隠れ家」と言っているところを見ると、どう考えてもかなり資産を持っているはずだ。
「そんなところに立っとらんで座ればよい。」
「あ、はい。」
フェイに言われて慌てて椅子に座るロディ。彼の前に入れたての紅茶が差し出された。
ロディの前にフェイが座り、一口紅茶をすする。続けてロディも紅茶に口をつける。
「!・・・おいしい。」
その紅茶は芳醇な味わいと鼻腔をくすぐる香りとが混然一体となった絶品だった。当然ながらロディがこれまでこんな紅茶を味わったことなどない。
「ふぉっふぉっふぉ、いい茶であろう?女性を呼んだ時に安い茶を出してはワシの沽券にかかわるのでな。いい茶を準備しとるのじゃよ。」
まあ実際ここに女性が来たことは無いがの、と続けながらフェイは笑った。
「本当においしい紅茶です。これなら誰が来ても満足するんじゃないでしょうか。」
「うむ、いい茶を出した甲斐があったもんじゃ。ほめるついでに今度ナコリナちゃんやエマちゃんを連れてきてくれてもよいぞ。」
「本人次第ですが、今度聞いてみます。」
「ほよ、本当か?ぜひ頼むぞ。」
ロディの返答に目を輝かせて期待するフェイ。女性が絡むと相変わらずである。
「さてロディ、早速じゃが本題に入ろうかの。ここにおぬしを招待した理由じゃが、おぬしに聞きたいことがあるんじゃよ。」
のんびりとした口調で切り出したフェイだったが、言葉を区切ると雰囲気が変わった。弛緩した雰囲気を振り払うかのように居住まいを正し、眼光鋭くロディを見つめ、そして口を開いた。
「・・・ロディ、おぬし何者じゃ?」
その口調は有無を言わせぬ迫力を漂わせていた。
先ほどまでとは違うフェイの様子に驚くロディだったが、すぐに落ち着きを取り戻す。何か聞かれるであろうことを半ば予想していたからだ。
「・・・なぜそう思ったんですか?」
「ふむ、理由か。それはおぬしが奇妙じゃからじゃ。」
「奇妙、とは?」
「おぬしは魔法が使えぬはずじゃろう?」
老人は自らのあごひげを上下にしごきながらロディを見つめ続けている。
「おぬしを見た時、体から魔力が全く出ておらんのがわかった。そのような者は今まで見たことがないの。ただそれだけならばそのような体質の者もいるかもしれん。じゃが不思議なことにおぬしには体内に膨大な魔力を持っておる。そして何よりおぬしの体に魔法を使った痕跡が残っておるのじゃ。魔法を使用したときに残る『変質した魔力の残滓」がわずかに体にこびりついておる。
体から魔力を出さなくては魔法は使えんどころか魔法陣を覚えることもできん。しかしおぬしは魔法を使えておる。それはなぜじゃ?その秘密を教えてほしい。」
ロディはフェイの話を聞き、そこまでわかっているのかと驚くとともに確信した。目の前のフェイはただのスケベ爺ではない。
「教えたとして、それをどうするんですか?」
「無論、研究するのじゃ。初めて知る事象じゃからな。魔法と魔力の理につながる何かがあるかもしれん。そして新たな理論が作れるやもしれん。」
フェイの言葉と表情にはこれまでに無いものが含まれていた。それは『好奇心』。何かを知りたい、わかりたいという純粋な心。そしてその好奇心はロディに向けられている。
その好奇心には邪なものがないとロディには感じた。
「わかりました。俺の魔法の秘密を教えましょう。でも一つ条件があります。」
ロディはニッコリと笑って目の前に指を一本立てた。
「なんじゃ、ワシのできることならなんでもいいぞ。金か?物か?女・・・は無理じゃが。」
「はは、それはいりません。代わりに教えてほしいんです。フェイさんのことを。」
「ワシの事じゃと?」
「そうです。フェイさん、あなたは『賢者』なんでしょう?ニセ者じゃなく、本物の。」
ロディの言葉に一瞬動きを止め、じっとロディを見つめたフェイは、やがて自嘲気味にため息をつきながら告白した。
「やれやれ、感づいているかもとは思っておったが、我ながらはしゃぎすぎたか。
いかにもワシは賢者じゃ。」
フェイの表情はすでにいつもの屈託のない笑顔に戻っており、
ま、元賢者じゃがの、と笑いながら一言付け加えたのだった。
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