第5話 ロディ、お茶に誘われる
それからロディたちはロスゼマに礼をして店を後にした。フェイは「わしとお茶をせんかの?」としきりにナコリナとエマを誘っていたのだが、最後にはロスゼマに小突かれて渋々あきらめていた。
ナコリナは明日から店に来て手伝いを開始することになっている。
「でも、聞きしに勝るスケベジジイだったね。」
街を歩きながらエマが思い出したように言い、それにナコリナもうなづく。
「しつこいし、できれば会いたくないかな。」
「でもしばらくあそこで仕事をするんでしょ。会わないわけにはいかないわ。」
「あ、そうだったわ。これからどうしようか。」
ナコリナが少し落ち込んだようにうつむく。どうもフェイの好みはナコリナのようで、エマよりも集中的に言い寄られているのだ。
「でも、なんかあまり嫌な感じはしないのよね。」
エマの言葉にロディも心の中で同意する。なぜかは知らないがフェイのセクハラ行為はあまり嫌悪感を持たれない。明るくあからさまな行動で陰湿さが皆無だからだろうか。だとするとなんとも得な性格をしている。
「レミアも嫌そうじゃなかったし。」
ナコリナがそう言ってレミアを見る。彼女は『匂い』で人の良し悪しを見分ける特技を持つ。匂いがダメな人の前に来るとあからさまに顔色を悪くする。
しかしロスゼマの店ではそんなところは一度も見せていなかった。ロスゼマも言葉はきついが悪い人じゃないとギルドでも言われていたが、フェイがいても表情は変わっていなかったということは、そういうことなのだろう。
「でも私は許せないのだ。」
「え?」
しかしレミアは反論があるようだった。
「何か嫌なところがあったのか?」
「いやではないがダメなところなのだ。あの爺さんは私に触ってこなかった。」
「「「「はぁ?」」」」
「それにナコリナやエマをお茶に誘いながら私には声をかけてきてないのだ。このレディに声をかけないとは何と見る目が無いやつなのだ。」
「「「「・・・」」」」
レミアは大人の女性扱いされなかったことをプリプリと憤慨していた。それに対し4人は何も言えず苦笑いしながわ互いに視線を交わすだけ。これに関しては4人とも内心フェイ老人がダメとは思えなかった。
◇◇
翌日の午後。
ロディは一人でロスゼマの店に向かっていた。ロスゼマの店にはナコリナが働き始めているのでそれを見に行こうというのが一つの理由だ。
ちなみにレミアとテオは新しい街を満喫すべく店巡りをしている。エマはロディと一緒に行くかどうか悩んでいたが、若干フェイが苦手ということで2人のお目付け役として彼らに同行している。
ロディが店行くと、またもやというか予想通りというかフェイがいた。フェイは店番をしているナコリナにしきりに話しかけているようで、表からもフェイとナコリナの声が聞こえている。
「ナコリナちゃん、これからワシと一緒にお茶に行かんかのぅ。」
「仕事中です。」
「こんなぼろい店に誰も来やせんじゃろ。30分くらいサボっても大丈夫じゃて。」
「私、この仕事初日ですよ。そんな非常識なこと出来ません。」
フェイは相変わらずのようで、ナコリナもどうやら困っているようだった。ロディはちょっとため息をついて扉を開けた。
「こんにちは。」
「いらっやしゃい。・・・あ。」
ナコリナがロディが入ってきたのを見てホッと安心したように顔をほころばせた。
「むむ、おぬしは昨日の男・・・ロディじゃたか。」
「こんにちは、フェイさん。ちょっとナコリナが気になって見に来ました。」
「せっかくの2人きりの楽しい会話の時間を邪魔するとは、無粋なやつよ。」
「あはは、すいません。」
「何言ってるの。楽しく会話なんてしていませんから。」
「ほほ、恥ずかしがらずとも良い。」
「絶対に違います!」
ナコリナはどうやらフェイの飄々とした会話に振り回されているようだ。
「・・・いい加減におし。うるさくて客どころか近所の猫まで逃げちまいそうだよ。」
そこへ奥から声が聞こえて来て、ロスゼマがひょいと顔を出した。
「猫くらいなら逃げても良いではないかの。」
「猫はネズミを捕まえてくれるんだよ。それともあんたが代わりに捕まえてくれるのかい?」
「・・・いや、それは御免じゃ。」
さすがロスゼマは長い付き合いなのかフェイのあしらいが上手い。
うまくフェイを黙らせたロスゼマは、今度はナコリナに視線を向けていった。
「ポーションづくりの手が足りないんだよ。ちょっと手伝っておくれ。」
それを聞いてナコリナは満面の笑みを浮かべて言った。
「手伝わせてくれるんですか!?」
「当たり前だろ。そのために雇ったんだ。しっかり仕事してもらうよ。」
「はい!」
嬉しそうに勢い良く立ち上がるナコリナ。どうやらナコリナも順調そうだな、とロディはほっと安心した。
「おおお、麗しのナコリナちゃんが・・・」
「フェイ、しつこいよ。私は仕事の邪魔することだけは許さないと言ったはずだよ。でないと、どうなるかわかってんだろうね。」
「・・・おお怖い。仕方ない、今日は退散するとするかのぅ。」
鋭い眼光でにらむロスゼマに、フェイは怖がる振りをして踵を返して扉の方に向かって歩き出した。・・・と、すぐに立ち止まりロディに振り返って言った。
「ロディとやら、これから暇かの?」
「え!?・・・はい、時間はありますが。」
「じゃあこの老人の暇つぶしに付き合ってくれんかの。家で茶でもご馳走しよう。」
「「え!?」」
驚きの声が2つ重なる。一つはロディ。まさかこんなことを言われるとは思わなかったからだ。
そしてもう一つはロスゼマだった。ナコリナが振り向くと、彼女はロディよりも驚いた顔をしていた。
「どうしたんですかロスゼマさん。」
ロスゼマはナコリナの問いには答えず、フェイに向かって言った。
「・・・どういう風の吹き回しだい?」
「なあに、老人の気まぐれよ。」
フェイはロスゼマの疑問にとぼけて答える。
ロディはこの予想外の誘いをどうするか少し考えたが、
「じゃあ、ご厚意に甘えます。」
と、ついて行くことにしたのだった。
◇◇
フェイとロディが去ったあと、ロスゼマはポーションづくりの合間にナコリナに尋ねるのだった。
「あのロディって子、何か特別なことでもあるのかい?」
「え!・・・どうしてですか?」
一瞬ナコリナはドキリとした。ロディのギフトである『修正』は秘密にしておく必要がある。なにかバレるようなことでもあっただろうかと、ナコリナは平静を装いながら問い返した。
「いやね、あのフェイが見ず知らずの男を家に呼ぶなんて前代未聞なんだよ。あたしゃ今まで見たことも聞いたこともないね。女ならいざ知らず。」
「はあ・・・」
「それに昨日もそうさ。あいつはロディの名前だけは覚えていたじゃないか。」
「え、それは名乗ったからじゃないですか?」
「馬鹿言うんじゃないよ。あいつは男の名前はほとんど覚えないのさ。自分にとって重要じゃないならそれこそ国王の名も覚えないんだよ。」
「まさかそんなことって・・・」
ナコリナは冗談だろうと笑ったが、ロスゼマはいたって真面目だった。
「実際、昨日もう一人男の子がいただろ。テオって言ってたか。その子の名前を覚えていたかい?」
「!そういえば・・・」
ナコリナはテオがフェイから名前を呼ばれずブツブツ言っていたのを思い出した。
少しの沈黙の後、ロスゼマはふっと視線を液体の入った窯に向け、そしてつぶやくように言った。
「・・・あとでフェイの奴から直接聞いてみるかい。」
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