第3話 ロディ、疑われる
「着いたわ。ここね。」
そう言ったナコリナの視線の先には普通の民家があった。そこに小さな看板が掲げられている。
文字はなく、真ん中に薬の瓶、のようなものだけが描かれた看板。絵が下手なのか、はたしてこの絵が本当に瓶かどうか判断つかないものではあるが。
そんな簡素な看板がドアの前にぶら下がっており、ここが店であることをほんのわずかに主張しているのだが、それ以外は普通の家にしか見えない。
「本当に店なのか?」
テオが店の感想を素直に口にする。テオに限らずみんな多少なりとも同じ感想を抱いていた。ギルドに教えられたとおりにここにたどり着いたのだが、本当に正しいのか疑問に思う外観なのだ。
「悩んでても仕方ないよ。とにかく入ってみましょ。」
ナコリナがみんなに笑顔を向けながら一人前に進んで扉を開ける。
「ごめんくださーい!」
元気よく開け放たれた扉の奥は薄暗く、外の明かりに慣れた目には中がどうなっているのかよくわからない。しかしナコリナは気にせずズンズンと中に入っていく。つられるように4人も恐る恐る扉をくぐった。
扉の奥に見えた光景は、天井まで届く左右の壁と所狭しと並んだ数々の小瓶や木箱。薄暗く、そして何やら不思議な香りがする室内。
「どうやら、製薬師のお店で間違いなさそうね。」
エマが周りを見回してからつぶやくように言った。彼女の言う通り並んでいる物はポーションなどの薬関係のもののようだ。間違って民家に侵入したのではないと少し安心する。
しかし商品らしきものは並んでいるのだが、店員らしき人は誰もいない。
「すみませーん、どなたかいませんか?」
「うるさいね。聞こえてるよ!」
ナコリナが大声で呼ぶと、店の奥からしわがれた、それでいて元気そうな女性の声が聞こえてきた。やがて歩く音が近づいてきて、奥の扉から老婆が姿を現した。
老婆は身長150cm程度でやや低く、外見からは60代くらいの年齢に見える。白髪が入り混じったダークブラウンの髪を後ろて団子にまとめていた。
「で、買うものは決まったのかい。こっちは忙しいんだよ。」
老婆は煩わしそうにロディたちを催促するように言った。
「あ、いえ、私たちは買い物じゃなく別に用事があってきたんです。・・・もしかして、ロスゼマさんですか?」
「なんだい客じゃないのかい。いかにも私がロスゼマだよ。なんの用だい。」
ロスゼマは細い目でロディたちをじろりとにらむ。いかにも「招かれざる客」といった対応で、ロディたちも居づらい雰囲気になってしまう。
そんな雰囲気の中でもナコリナは何も気にしていないかのように普通に明るくロスゼマに話しかけた。
「ギルドで腕のいい製薬師を聞いたらロスゼマさんの名前を教えてくれたんです。」
「・・・それで?」
「私はナコリナと言います。私、製薬を習いたいんです。それでロスゼマさんに教えてもらえたらと思って来ました。」
「製薬を習いたいだって!?」
ナコリナの言葉にロスゼマの目がさらに厳しくなり、ナコリナと、そしてロディたちとに目を向ける。そしてゆっくりと口を開いた。
「お断りだね。」
ロスゼマはにべもなくナコリナの弟子入りを拒否した。
「どうしてですか?」
「どうしても何も考えたらわかるじゃろう。いきなりやってきた見ず知らずの者に簡単に教えるなんて出来るわけないんじゃ。」
そう言われれば当然だ。素性もわからない人間に「はいそうですか」と簡単にOKを出すなんて普通は無い。それこそ物語の世界でしか。
「そこを何とか。私、どうしても製薬の腕を磨きたいんです。お願いします。」
ナコリナも決心が硬いため簡単には引き下がらない。しかしロスゼマはそんなナコリナの必死の願いにも、鼻をフンと鳴らして答えた。
「無理だね。たとえお前さんたちが知り合いで、信用できる人間だとしてもだ。」
ロスゼマは再び5人全員を見渡す。
「見たところお前たちは旅の途中の冒険者と言ったところじゃろ。この街にとどまるようには見えん。出来てせいぜい数か月じゃろう。そんな短期間私に習ったところでたかが知れてる。製薬ってのはあんたが思うほど簡単なことじゃないんだよ。」
「う・・・」
ロスゼマの指摘にナコリナは二の句が告げなかった。彼女の言葉は正論で、これに限らず短期間で技術をものにするなんて、安易にできるものではないのだ。
ロスゼマの言葉にナコリナは俯いていたが、やがて顔を上げてロスゼマを見て言った。
「じゃあ・・・この店で雇ってくれませんか。私は魔法師で、一通りのポーションを作れます。」
「雇う?」
「店番も雑用もなんでもします。少しの間だけでもロスゼマさんのポーションづくりに関わってみたいんです。お願いします。」
「・・・」
「俺たちからも願いします。」
2人の会話の間にロディが進み出た。
「ロスゼマさんのお話はもっともで、こちらのお願いが不躾なのは承知しています。でも彼女は本気でポーションづくりの腕を上げたいと思っているんです。良ければ彼女のお願いを聞いていただけませんか。」
「・・・」
「お願いします。」
「私からもお願いします。」
「俺も、お願します。」
「私も、お願いなのだ。」
ロディたち4人もロスゼマにお願いする。その姿をロスゼマはしばらく黙ってみていた。部屋に沈黙が流れる。
「きゃあ!!」
と、突然の小さな悲鳴で沈黙が破られた。声の主はナコリナ。彼女は悲鳴のあとすぐに後ろを振り向いてキョロキョロすると、すぐに横にいるロディに振り向いて睨みつけるように見た。
「ど、どうした?」
「・・・ロディ、触ったでしょ。」
「え、触った?何を」
「私のお尻。」
「えええ!?」
なんとロディはナコリナから痴漢疑惑を受けてしまった。
「ちょ、ちょっと待って、誤解だ。俺は何もしてない。」
ロディは両手を体の前に上げ起こった眼で迫ってくるナコリナを押しとどめる。
「だって後ろに誰もいないのよ。」
ロディも目を向けるが確かに後ろには誰もいないようだ。だからと言ってロディは自分がやったんじゃないのは当然わかっている。
「俺はそんなことしないって。信じてくれないのか?」
「・・・じゃあ誰がやったって言う・・・」
「きゃっ!!」
ナコリナの言葉が言い終わらないうちに別の悲鳴が上がる。悲鳴の方向を見るとエマが自分のお尻に手を当ててカバーしているのが見えた。
「私も触られたわ。」
「「「「え!?」」」」
エマはロディから少し離れていた。しかもロディの両手は悲鳴の前からナコリナの目の前にある。ロディが触ったわけではないのは明白だった。
「だ、誰?誰かいるの?」
痴漢の犯人を求めてロディたちが後ろを振り向くが、誰もいない・・・・。と、レミアだけがその人物に気が付いた。
「そこにいるのだ。」
「え?どこどこ?」
4人は周りをキョロキョロ見回す。が、他に誰もいない。
「違うのだ。もっと下なのだ」
「下?」
レミアに言われて4人が視線を下に向けると・・・
「「「「あ!」」」」
そこにはロスゼマより小さい、身長130cmくらいの小さな老人がニコニコと笑顔で立っていた。
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