第2話 ロディ、ナコリナを応援する
夕食後、5人は集まって今後のことを相談することにした。
当初の予定では、この街の近くにある中級ダンジョンの探索を進めてレベル上げすることを考えていたのだが、これはあくまで予定の話。現地に着いてからそこでの最新情報を加味してベストの行動を考えることが必要だ。
「あの、私できれば別行動をとれる日を多くしたいんだけど。」
話を始める前に、おずおずとすまなそうに手を上げてきた人物がいた。それはナコリナだった。
「どうした、ナコリナ。何かやりたいことでもあるのか?」
真っ先に発言したのは重要な話なのだろうと、ロディがその理由を尋ねた。するとナコリナは少し戸惑いながらも決心したような顔で話し始めた。
「私、この街にいる間にポーションとかの薬の作り方を習いたいの。」
「ポーション、つまり製薬師ってことか・・・。でもナコリナって一通り薬は作れるんじゃないのか?」
ポーションなどを専門に作る職業のことを製薬師とよんでいる。これはギフトではなく単純に職業としての名前だ。
そして製薬師の多くは、魔法師のギフトをもらった者たちが仕事としていることが多い。その理由として、ポーションなどを作る際に魔力を使う事、また力がなくても作れる事、など魔法師に利点があるためだ。
「私は簡単なものは作れるけど、品質はそれほどじゃないわ。私は本格的に「製薬師」を勉強したいのよ。」
ナコリナが真剣な面持ちで自分の心境を語り始めた。
「私、ミズマを出てからずっと考えてたの。私がこのパーティで何ができるんだろうって。エマは斥候や罠解除とかで他の人にない長所がある。レミアは回復、テオは前衛アタッカー。そしてロディは、前衛ではあるけれど一番の強みは『修正魔法』。その威力と精度、そして尽きない魔力。私の比じゃないわ。4人とも戦いの上で何かしらの強みがある。
でも私は?・・・そう考えたら、私の強みは何もないなって気づいたの。」
「そ、そんなことない。お姉ちゃんにはいつも助けられているよ。魔法だって普通の魔法師以上だよ。そんな過小評価することないよ。」
エマが驚いてナコリナを励ますが、ナコリナはエマに少し笑顔を向けてそのまま話し続ける。
「ありがとう。でも冷静に考えても私に秀でた力がないのも事実だわ。
けれどだからって私はあきらめたわけじゃない。もっとパーティに貢献できる、何か新しい力を身に付けたいって考えたのよ。そして考えた結果、質の良いポーションを作れれば、それがパーティのため役立つだろうって気づいたの。それが製薬を学びたい理由よ。」
「・・・なるほど。」
ロディはナコリナの言葉を反芻しながら考える。
ナコリナはムードメーカーであり、パーティの要でもある。ロディだけでなく他の3人もナコリナを頼っているところがある。それだけでもナコリナはパーティにとって大きな価値があるのだが、ナコリナはそれよりも他の部分、特に戦闘での貢献が少ないことを気に掛けているようだ。
言葉は悪いが、魔法師としての地位はロディに取って代わられていて、おそらくそれは覆ることがない。元々魔法師であるナコリナとしてはある意味屈辱だろう。
しかし彼女はそれに腐らずに、別の道を模索していた。そして辿り着いたのが『製薬師』への道だ。
良質のポーションや解毒薬やその他の薬があれば戦闘時に非常に助かるのは間違いない。ロディやレミアの2人で魔力譲渡や回復などが出来るのだが、それはあくまで個人の手の届く範囲内であり、彼らが不在の時や、戦闘中緊急に必要な時に対応できない場合もある。そんな時のためにポーションなどは必須なのだ。
ナコリナの提案は、自分の長所を作ると同時にパーティのリスクを減らすことにもつながる。とても考えられたものだ。
「すごくいい考えだよ。質のいいポーションがあればすごく助かる。それにパーティ内で作れる人がいるとこれからの旅でもでもとても心強いな。」
ロディはとしてはナコリナが自分で決めたことに反対する理由なんて全くない。彼はナコリナの決心を応援することにした。
「うん、お姉ちゃんなら絶対腕のいい製薬師になれるわ。」
「俺もいいポーションがあれば安心だしな。」
「できれば美味しいポーションを作ってほしいのだ。」
4人は口々に賛同し、ナコリナの決心を後押しする。
「ありがとう。私、頑張っていいポーションを作れるようになるわ。」
ナコリナは笑顔でみんなに感謝しながら言葉を続ける。
「・・・ということで、明日はまず製薬師を訪ねるわ。いいお店情報を聞いて、できれば弟子入りしたいわね。」
「えー、私は明日は街の美味しい店巡りをしたい気分なのだ。」
「もちろんそれもやるわよ。製薬師を訪ねるのもそれほど時間はかからないでしょうし、残った時間で美味しい店を見つけましょ。」
「ならいいのだ。」
おいしい店を探したいレミアはちょっとも文句を言ったが、両方やると聞いてすぐに引っ込んだ。現金なもんだ、とロディ、エマ、テオは笑っている。
「じゃ、明日は最初にギルドに行って製薬店へ。それから街を巡って美味しそうな店やそのほか武器屋なんかの情報を仕入れながらブラブラしようか。」
「了解。」
「わかったわ。」
「OKだ。」
「いいのだ。」
4人とも異存はなく、明日のすることが決まった。
◇◇
「それならロスゼマさんの店ですね。」
翌日ギルドに行ってナコリナの希望に合う製薬師はいないかを尋ねたところ、受付嬢はすぐに一つの店を教えてくれた。
「ロスゼマさんってどのような方ですか?」
「口は悪くてキツいんですが、ちゃんと話を聞いてくれる面倒見のいいひとです。ロスゼマさんが作るポーションは質が良いのでギルドでも安心して仕入れていますよ。店の場所は、このギルドを出て通りに沿って東門の方に向かった先に広場があります。そこをそのまますぎて1つ目の角を右に曲がって3軒目です。赤い屋根が目印になります。」
ギルドが太鼓判を押す人なら安心だろう。彼らはまずその店に尋ねてみることにした。
・・・のだが、話には続きがあった。
「でも気を付けてくださいね。その店にはたまに変わり者のお爺さんが来るんです。」
「変わり者のお爺さん?」
それを聞いて、トラブルになるかもしれないと思いロディは眉をしかめた。それに気付いた受付嬢は慌てて言葉をつづけた。
「あ、変態とか悪人ではないので心配しないでください。ただその人は大ぼら吹きなんですよ。自分のことを『賢者だ』って言ってます。つまり”自称”賢者なんです。」
「自称賢者?」
世の中には自分のことを大きく見せたくて吹聴するような人がいる。そう珍しい話ではないが、しかし「賢者」とは大きく出たものだ、とロディはある意味関心した。
「まあ、気にしなければ大丈夫でしょ。」
ナコリナが「問題ない」という感じで受け答えたのだが、しかし受付嬢はさらに付け加えてきた。
「そうなんですが、その人についてもう一つ注意しておくことが・・・。」
「え、まだあるんですか?」
「実はそのおじいさん・・・すごくスケベなんです。」
「「「「「・・・は?」」」」」
「若くてかわいい女の娘ばかり口説いて『お茶しよう』とか言ってくるらしいんですよ。それによくスキンシップもしてくるらしいですし。ナコリナさんもエマさんも美人ですから狙われるかもしれません。」
若い女の子が好きな「自称賢者」のスケベなお爺さん、か。・・・ロディ達としてはそういう人はなるべく御免こうむりたいが、しかしギルド推薦のロスゼマさんの店には行きたい。
エマもナコリナも微妙な表情でお顔を見合わせた。
「なんと、これは心配なのだ。私も用心しないといけないのだ。」
とここでレミアの心配そうな声がする。
「あ、大丈夫ですよ。そのおじいさんは小さい子には興味ないようですから。」
レミアの発言を聞いて、安心させようと受付嬢がレミアに話しかける。一見正しいのだが、これは実は間違いだった。
「ムキー!私は22歳なのだ。立派なレディなのだ!」
「ええっ!?」
レミアと受付嬢の反応はいわばテンプレ。他の4人は苦笑しながら成り行きを見守っていた。
◇◇
ひと騒動が落ち着いた後、ロディたちは受付嬢に礼を言ってギルドを出た。
ほら吹きのスケベじじいのことは気になるが、とはいえそれを理由に行かないという選択肢はない。とにかくロゼマスさんを尋ねてみようと5人は教えられた店へと向かうのだった。
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