第4章

第1話 ロディ、ザイフの街に到着する

 ロディたちが次に到着したザイフの街は、賑わいのある街だ。


 ザイフは、ロディたちの出発地点であるメルクーと王都であるラックヒルとの中間あたりに位置する街で、王都の南の玄関口ともいえる位置取りだ。

 かつてザイフはここワーランド王国の首都だったこともある。遷都により首都ではなくなっているのだが、時が流れても古い町並みが多く残っている。

 ザイフから遷都されたのは、『近隣の魔物が強い』という安全保障上の理由が一因にある。ザイフの近くには中級の2つのダンジョンがあるほか、北に広がる森にも強力な魔物が住み着いていて、安全の面でリスクが大きい。より安全である現在のラックヒルへ遷都されたのは無理からぬ話だ。

 ただ、ザイフは物流の要所という地理的な位置づけは変わるkとがなかったため、遷都によって一時衰退していたザイフはすぐに持ち直した。さらに近隣の魔物目当てによる冒険者やそれを商機ととらえる商人が入れ替わるようにザイフに入り込んで、近年は以前とそん色ないくらいに繁栄している。

 そのような歴史があるザイフは、冒険者特有の雑然とした雰囲気と、古都の泰然とした雰囲気とが混ざり合って不思議な都市空間を作り出している。


「これがザイフの街・・・。」

「なんて言うか、不思議な力があふれているって感じ。」


 エマとナコリナが街の感想を口にする。古い町並みなのに新しい。雑然とした中に整然が同居している。騒がしい中にも静寂がある。なんとも不思議としか言いようがない。


「おー、面白い街なのだ。」

「ミズマやオーゴリとは全然違うな。」


 レミアとテオも初めて訪れるミズマ以外の大きな街に興味津々だ。あちこちをキョロキョロ見回していて、明らかに”お上りさん”だ。


「テオとレミアはよそ見しすぎだ。人にぶつかってケガするぞ。」


 そういうロディだが、彼もまた興味が惹かれるものに視線を奪われがちで人のことは言えない。


「とにかく、まずは宿屋を決めないとね。早くギルドで情報を仕入れましょ。」


 なかなか進まないみんなに笑いながらナコリナが提案し、一行はたまに止まりながらもギルドへと向かうのだった。



 ギルドに到着し、異動手続きを済ませた後にお勧め宿屋の情報を聞くと、受け付けの女性は『眠り猫の宿』を勧めてくれた。その宿は少しギルドから離れてはいるが冒険者の評判がよく、特に女性から高評価だという。

 女性に評判が良ければうちのパーティの女性陣も満足できるだろうということで、5人は早速その宿屋に向かって行き、そして無事宿を確保できた。

 『眠り猫の宿』は場所がギルドから離れているためか冒険者はあまりいなさそうだが、それでも一般客に人気は高く、もう少しで満室という危ないところを滑り込んでの部屋キープだった。ちなみに2室(女性3人、男性2人の部屋)である。


「私は以前のようにロディ、エマと私とで同室でもいいんだけどね。」


 ナコリナが笑いながら言うが、ロディは首を振った。


「よしてくれよ。以前はお金もなくて節約しなきゃってことで相部屋にしてたけど、普通はやんないことだからな。」

「いっそ5人部屋でもいいんじゃない?」

「そんな大部屋はここにはないよ。」


 ロディはため息をつきながらエマの言葉を流した。ザイフまでの旅路では宿以外では雑魚寝なので、5人一緒に寝てると言えなくもないが、屋根もないところも多く、部屋と言えるはずもない。それに警戒のために誰かが必ず起きているわけで、全員同時に寝ることなどないのだ。


「むー、ロディの匂いが嗅げないのだ。悲しいのだ。」


 レミアが頬を膨らませて不満の様子だ。彼女は『匂い』で人の善悪が分かるという特技を持っている。特にロディの『匂い』は彼女のお気に入りで、何かにつけてはロディに近づこうとする。


「お姉さんとしては、ロディと2人部屋が一番いいのだ。」


 レミアが平然とすごいことを言うが、


「「「「それはダメ!」」」」


 と、すぐさま4人から即座に却下される。


「なぜなのだ?私は全然気にしないのだ。」

「俺が気にするって。とにかくダメ。」


 ロディは苦笑いを浮かべながらしかし強く拒否した。ロディとしてはこの『実年齢22歳だが見た目12歳』のレミアと2人部屋になることは外聞上極力避けねばならない。でないと不名誉なレッテルを張られる恐れがあるのだ。

 結局、最後は無難に女3男2の部屋に分かれることになった。


 こんなひと悶着もあり、各人は部屋に入ってようやく旅装を解いたのだった。

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