SS終話 花に込めた想い

 ロディとナコリナが宿に戻ってくると3人はすでに帰ってきていた。


「遅かったね、お2人さん。指名依頼はどうだった?」


 初めての指名依頼が気になっていたのだろう。帰ってくるなりエマが2人に聞いてきた。


「早く話すのだ。何か面白いことがあったのだ?」


 レミアも興味津々だ。テオは黙っていたが、興味はあるようで2人と一緒に近づいてきた。


「ああ、いろいろなことがあった。長くなるし、夕食後ゆっくり話すよ。」


 ロディが笑いながら言った。


「そうなのだ、お腹も空いたのだ。早く夕食を食べるのだ。」

「レミアはいつも食い気優先だな。」


 テオの言葉に皆が笑い、そして食事場所へ移動するのだった。


◇◇


「・・・というわけさ。」


 夕食後、ロディとナコリナが一連の話を語って聞かせた。

 長い話が終わり、エマがため息をつきながら言った。


「・・・切なくて悲しくて、だけど素敵な話。とてもいい依頼だったわね。」

「無事依頼が達成できて、すべてうまく収まって、とても満足いく結果だったわ。」


 ナコリナもすごく嬉しそうな表情だった。


 今回の依頼について皆が思い思いの感想を話す中、ふとテオがつぶやくように言った。


「そのリズって人は、花に詳しいんだな。」


 あまり話をしないテオがつぶやいた一言にみんなが反応しテオに顔を向けた。皆に注目されたテオは、少し恥ずかしそうに視線をそらした。


「どうしてそう思うの?」


 エマがテオに聞くと、テオが仕方なさそうに話し出した。


「レミアもそうだが、俺たちの生まれた村はエルフやハーフエルフが結構いたんだ。エルフは自然の中で生活することが多い種族だから、植物の事にはかなり詳しい。俺は昔、エルフの知り合いに花言葉をいろいろ教えてもらったんだ。」

「花言葉?」

「ああ、花には固有の花言葉がある。全部は覚えていないが、面白そうな花言葉は今でもいくつか覚えている。」


 テオが花言葉の話をするとは意外だった。本来であればエルフがそれに詳しいという。しかしレミアを見てみると、頭に「?」のマークを浮かべていた。


「へー、花言葉ね。面白そう。で、どんな意味なの?」


 エマがテオに聞くと、テオは言葉をつづけた。


「花には花言葉がいくつかあるんだけど、そのモリスとリズって人の話を聞くと、多分こういう意図だろうなって思う言葉がある。」

「スイセンはどんな花言葉?」

「多分スイセンは、『あなたを待つ』って意味だ。」

「え、「あなたを待つ」ですって!?」


 4人は驚いて目を見張った。

 ロディは思い出した。あの村で見た色鮮やかな花の絨毯を。あの時はただきれいだとしか感じなかったが、テオの話を聞くと、あの花にはリズの気持ちが込められているらしい。


「知らなかったわ。スイセンにそんな意味があったなんて。」


 一緒に花を見たナコリナも、ロディと同じように驚いていた。


「じゃ、じゃあポピーは?」


 エマが話の中に出てきたもう一つの花について聞いた。


「黄色いポピーは、『富』と『成功』だったはず。」

「!そうだったのか。」


 リズはモリスの商人としての成功を願ってこの花の種を小箱に入れたにちがいない。そして願いが通じ、モリスは商人として成功した。


「リズさんって、花に想いを込めていたのね。」


 ナコリナが感じ入ったようにつぶやいた。誰にも知られなくても、陰から思いを託してモリスを支えていたリズは、本当に素敵な人だと感じた。


「ほへー、知らなかったのだ。」

「なんでレミアが知らねえんだよ!」


 ハーフエルフのレミアが知らず、テオに突っ込まれる。ロディたちから思わず笑いがこぼれた。


「2つの花に意味があったなんてね。テオ、教えてくれてありがとう。」

「2つじゃない。3つだ。」

「え、3つ?」


 テオが言った意味が4人にはわからず首を傾げた。


「話の中ではスイセンとポピーしか出てこなかったけど。」


 ナコリナが怪訝そうに尋ねた。それに応えてテオが言った。


「イチョウだ。イチョウにも花言葉がある。」

「え?イチョウって木じゃない。木にも花言葉があるの?」

「なんでか知らないが、木にもあるんだ。」


 テオが言うのは、花が咲かない木にも花言葉があるようだ。理由はわからない。そういうものなのだろう。


「それで、イチョウの花言葉は?」


 エマが先を促すように言った。


「イチョウはこの国では『長寿』『鎮魂』って意味だけど、多分これじゃない。この国じゃなく他の国では別の花言葉があるんだ。多分こっちの意味だと思う。」

「どんな意味?」


 エマの問いにテオは少しだけエマに視線を向け、そしてすぐに視線を戻して言った。


「『永遠の愛』」

「「「「!!」」」」


 イチョウに込めた想いの言葉は「永遠の愛」。旅立つ想い人と共に埋めた小箱の上に、この言葉の意味をもつイチョウを植えたリズ。いったいどんな気持ちだったのだろうか。


「言葉が出ないわね。こんな思いをモリスさんに知らせずに込めていたなんて。」

「知らなかったのだ。」

「だからなんでレミアが知らなねえんだ。」


 テオの2度目の突っ込みにまたも笑いがこぼれた。


「ロディ、どうする?この話、モリスさんに伝える?」


 ナコリナがロディに聞いてきた。たしかに花言葉の意味をモリスに伝えたほうがいいかもしれない。しかし、ロディは少し考えて言った。


「いや、やめておこう。」

「どうして?」

「それはリズさんが言うべきだよ。リズさんが言わないなら、俺たちが言うべきじゃない。」

「そうね、それがいいわ。」


 ナコリナがロディの意見に同意した。秘していればこそ叶う願いもある。「成功」「あなたを待つ」そして「永遠の愛」。2人は結ばれはしなかったが、願いは叶ったのではないだろうか。


「この話にぴったりのことわざがあるね。」


 ロディが思いついたように言った。


「どんなことわざなの?」

「『秘すれば花』だよ。」

「それ、まさにぴったりだわ。」


 エマ、ナコリナ、テオは頷いた。ただレミアだけは首をかしげていた。


「それにしても」


 ロディがナコリナに小声で言った。


「イチョウの木を切らなくてよかったよ。」

「本当。切ってたらリズさんに恨まれてたわね。」

「同感。」


◇◇


 翌日、ギルドに行くと冒険者たちのざわめきが普段より大きかった。皆口々にいろいろと話し合っている。

 どうしたのかと疑問に思ったが、すぐに理由がわかった。受付嬢のメルテから、数日中に街道封鎖が解かれるという話を聞いた。どうやら反乱も終わりのようだ。


「やっと終わったか。」

「予定外の足止めだったけど、結果的にはよかったわね。」


 ナコリナの言葉にロディは頷く。この街で足止めされてしまったことでモリスとリズの物語に関わることができた。収支は金銭的にも心情的にもプラスなのだ。


「帰ってエマたちに知らせましょう。」

「さっそく準備しよう。本格的な冬の前に移動できそうだ。」


 そう言って2人はまだ朝の雰囲気が残るギルドを後にした。


 ギルドを出るとき、ロディはちらりと掲示板を見た。当然のことだが、あの時の古びた依頼紙はすでに無い。

 ロディはそれを確認し、一つのことが終わったのだと実感したのだった。

 彼らとはもう会うことはないだろうが、記憶の中にずっと残るだろう。ロディにはそう確信できた。


SS 了。

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 ショートストーリーはこれで終わりです。読んでいただきありがとうございました。7話と予定外に長くなってしまい、ちょっと反省です。


 よかったら☆の評価やコメントいただければ嬉しいです。


 また、私の別の作品も公開していますので読んでいただければと思います。


「フォーチュン・イン・ザ・ボックス ~幸運は箱の中に~」

https://kakuyomu.jp/works/16817330653581432450

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