SS3話 発見
「そうだ、泉があった。そして石碑・・・イチョウを植えた。そうだ、・・・そうだ。」
モリスはそう言うと、2人に向かって深々と頭を下げた。
「ありがとう。思い出せた。このとおりの文で間違いない。なんとお礼を言っていいか。」
「頭を上げてください。依頼されたことをしたまでです。」
ロディたちが慌てて恐縮するが、モリスはそれでも感謝し続けるのだった。
「しかし、なぜこれがわかったのだね?文字は滲んでいてとても読めそうにないのだが。」
「それは私のギフト「修正」のおかげです。このギフトは文章の間違いを修正して正しい文字を見せてくれるのです。この滲んだ文字でも、修正の能力で読むことが出来ました。」
「そうか、ギフトか。やはり冒険者には様々な能力を持つ者たちがいるものだ。あなたにめぐり合わせてくれたことを神に感謝せねば。あなたにそのギフトを与えてくれたことも。」
モリスは目を細めてロディとナコリナを見つめていた。
たがておもむろに立ち上がると、執事に向かって言った。
「さて、そうと分かればさっそく探しに行こう。ぐずぐずしてはおれん。」
モリスはすぐにでも飛び出しそうな勢いだった。
そこへ、ロディが手を上げて遮った。
「あの、モリスさん。箱を探すのも私たちにやらせていただきたいのですが。」
ロディの言葉を聞いて、モリスは少し驚いたように振り向いた。
「え、あなたたちが。・・・しかしこの件では十分すぎるほど依頼を果たしてもらった。これ以上やってもらう必要はないと思うのだが。」
「いえ、まだ依頼は終わっていません。依頼内容は『50年前に埋めた小物入れを探して掘り出してほしい』でした。私たちはまだ小物入れを見つけてもいません。依頼はまだ終わってないんです。」
そう言ってロディはまっすぐにモリスを見つめた。
そのロディに相対するかのようにモリスもロディの目をまじまじと見つめ、やがてゆっくりと息を吐きだし、そして笑った。
「そうでしたそうでした。慌ててしまって、依頼内容を忘れてしまっていました。商人は契約を大切にします。それは冒険者としても同じことでしょう。」
モリスは椅子に座り、改めて2人に向き直った。
「やれやれ、年を取ると気が急いていけませんな。お2人をないがしろにするつもりはなかったのです。ご容赦を。」
「いえ、一刻も早く手に入れたいという気持ちはわかります。大切なものなのでしょう?」
「もちろん大切なものです。しかし、お2人の冒険者としての矜持を妨げるわけにはいきません。箱の発見も、お2人にお任せします。」
モリスは元のように笑顔で2人に改めて依頼した。
「任せてください。必ず持ち帰ります。できるだけ早く。」
「はは、すでに長い間待ちました。今更わずかの時間を待つことなどなんでもありません。それに今度は間違いなく見つかるでしょう。そんな確信があります。
私はあなた方が小箱を持ち帰ってくるまでの間、この至福の時間を楽しんで待ちましょう。」
そう言って、モリスは笑顔のまま目を閉じた。
◇◇
ロディとナコリナはオーゴリの街を出て東にある森の中にいた。森といってもその木々はそこまで大きくなく、広葉樹が多く木々の間隔も広いため、差し込む陽も多い。
「このあたりだと思うけど。」
ロディは自分が書き起こした地図を見ながら言った。ロディが書いた地図は、元の紙にあった地図よりもかなり正確な位置関係になっていた。これもギフトのおかげ。地図も正しく修正されて見えていたのだ。
ロディたちはまず泉を探そうと、川などの地形の位置関係からあたりをつけて探索していた。
「泉なんて無いわね。・・・もしかしてなくなっちゃったんじゃ。」
ナコリナがそうつぶやく。たしかに50年前にあったものが今もあるとは限らない。モリスの話では元ものこの辺りは草原だったということだが、実際には木々が生い茂って、初期の森のようになっている。泉ももはや無いのかもしれない。
「でもそれっぽい痕跡もあるかもしれないから、じっくり探して見落とさないようにしよう。」
ロディはそういうと、さらに歩みを進めて行った。
しばらくあたりを徘徊していたとき、ナコリナが声を上げた。
「ロディ、あそこを見て。」
ナコリナが指さすほうを見ると、そこには直立した何かがあった。それは緑のコケに半ば覆われていたが、露出している場所からは石のような材質が見えた。
「これはもしかして。」
ロディとナコリナがそれに近づいてみた。
それは1mほどの高さで、明らかに自然のものではない、人が造形した石の柱だった。
「これ、石碑なんじゃない?」
「ああ、多分。」
2人はあたりを見回す。泉は無かったのだが、その周辺には木がなく、雑草だけが生えた空間があった。そのため他の場所よりも空が大きくひらけて見える。おそらくこれが泉の跡に違いない。2人はこれが地図にある泉と石碑の場所だと判断した。
「よし、これが判れば後は移動するだけだ。」
「確か北に50歩、東に20歩だったかしら。」
「そうそう。いかにも秘密の宝を埋めるときの感じだよね。」
とロディは言った。子供が隠し場所を示した”暗号”のように思えて、なんだかほほえましい感じがした。
2人は石碑を起点に、北に50歩、東に20歩を、草を踏み木を避けながら進んでいく。歩幅は個人によってまちまちなのでズレが出るだろうが、今回は最終目的地にも目印があるのだ。
「あ、あのイチョウじゃない?」
2人の目にイチョウの木が映った。
その木のそばに来たロディは周辺を見回した。ほかにイチョウの木は周辺にはない。歩幅のずれを考えてもこの木に間違いないだろう。
「このイチョウが、50年前モリスさんが植えた木なんだな。」
「立派な木ね。」
2人はイチョウの木を見上げた。高さは10m以上あるだろう。50年の間に立派な成木に成長している。
「この下に目的の小箱があるのね。でもどうやって取り出しましょうか。」
小箱はこの木の下に埋まっている。取り出すには周辺から掘っていくか、木を切り倒してしまいかだが。
「モリスさんの思い出の木だ。切るには忍びないな。」
「じゃ横から掘っていくしかないわね。」
「いや、もっといい方法がある。」
ロディは自信満々にナコリナに言った。
「何か考えがありそうね。どうやるの?」
「うん、収納を使う。」
「収納?どうやって。」
「まあ見てて。」
ロディはイチョウの木から少し離れて、そして頭に思い浮かべた。
『このイチョウの木と周辺の地面を、収納!』
すると、イチョウの木と、その根が生えているあたりの地面がぱっと消えてなくなり、地面には3mほどの大穴が開いていた。
「わ、消えた。・・・木をそのまま収納しちゃったの?」
ナコリナが驚いたようにロディに目を向ける。
「そう。木とか地面の土とかなら収納できるようなんだ。」
「すごいわ。・・・でも穴の中に箱が見当たらないようね。」
ナコリナが穴をのぞき込んで言った。
「それはたぶん一緒に収納されてるよ。」
「一緒に収納?じゃあここからどうするの?」
「中から箱だけを取り出すのさ。」
ロディはそういうと、再び頭に思い浮かべた。それはモリスの家で見たレプリカの箱。そのイメージがあれば十分だ。
『あれと同じような箱だけ出てこい』
するとロディの手もとに小さな箱が現れた。それは長く地中にあったため土色に汚れていたが、まだしっかりと形が残っていた。
「ロディ、すごいよ。収納にこんな使い方があったんだ。」
「取り出すものをイメージできればこういうこともやれるんだ。でも箱の形が崩れてなくてよかった。腐りにくい木を使ってるんだろうね。」
そう言ってロディはナコリナに箱を手渡した。ナコリナも嬉しそうに箱を眺めている。
その間に、ロディはイチョウの木をもとの位置に戻した。一瞬で入れたり出したりできるこの収納魔法は本当に便利だ。
「ロディ、急いで帰りましょう。モリスさんが待ってるわ。」
ナコリナが箱を丁寧に袋に入れながら言った。
「そうだね、待ちくたびれてるかもしれない。急ごうか。」
2人はモリスの喜ぶ顔を思い浮かべて、足早にオーゴリの街へと急ぐのだった。
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