第23話 ロディ、合格する

 先日受けた魔法陣製作士試験の結果がロディの元に届いたのは、試験の1ヶ月後だった。

 その結果は、


「・・・合格だ!」

「やったー。おめでとう、お兄ちゃん。」


 手紙を読んだロディが喜びに満ちた顔を上げ、エマは抱きついて祝福した。


(よかった。頑張った甲斐があった・・・。)


 2年にわたりロディは寸暇を惜しんで勉強に励み、この結果につながった。もちろんギフトのアシストはあったのだが、それも自分の実力のうち。

 試験の時に、ギフトと魔法陣に関して少し微妙な問題も発覚したのだが、今はとにかく喜ぼうとロディは思った。


「今日はごちそうよ。腕によりをかけて作るわ。」


 エマも自分の事のように喜び、早速「何を作ろうかなー」と悩み始めた

 ロディもエマの笑顔を見て、魔法陣製作士になれてよかったと噛みしめるのだった。



「「おめでとう、ロディ」」


 冒険者ギルドで合格を報告した時、職員の皆から祝福された。リーセやアーノルドも同じくロディの快挙を祝った。


「それにしても、よく合格したな。とんでもなく難しいと聞いてたが。」

「ありがとうございます。みんなのおかげです。」

「ロディが努力したからよ。でも、これから忙しくなるわよー。覚悟しといてね。」


リーセが不気味に笑いながら言った。


「陣士になったことで、何かギルドで仕事があるんですか?」

「大ありよ。ギルドから直接、魔法陣製作の依頼が来るわ。」

「そうなんですか?」

「これまではギルド内に陣士がいなかったので、ギルドで販売している魔法陣は外から買っていたのよ。」


 冒険者ギルドでは魔法陣も販売している。数は少ないものの冒険者に一定の需要があるためだ。そしてその魔法陣は陣士に依頼して製作してもらっていたらしい。


「ロディが陣士になったのだから外に依頼する必要はないわ。ロディをギルド専属にして魔法陣製作を依頼することになるでしょう。ギルド長もそう考えていると思うの。もちろん製作料は支払われるわ。」

「製作料も!?」


 依頼料と聞いてロディは喜んだ。最近は生活にも余裕が出てきたが、使えるお金は多いほうがいい。魔法陣インクや摩紙を購入しなければならないし、他にも買いたいものは多い。


「よかったじゃねえかロディ。その金でそろそろ剣も新調したほうがいいんじゃねえか。命を預ける物は良いものをそろえたほうがいいぞ。」


 アーノルドさんがロディの頭をポンポンと叩いた。先輩冒険者の助言は素直に聞くべきだろう。


「わかりました。そうします」


ロディは剣や防具も新しくそろえようと決めた。




 翌日ギルド長室に呼び出されたロディは、ユースフからも祝福された後、「専属魔法陣製作士」になることを要望され、二つ返事で了解した。

 ギルド専属の魔法陣製作士は、そのギルドの魔法陣を専門に製作する代わりに他の製作依頼は受けられない。しかしギルドから専属料が支払われるし、ギルドの魔法陣の製作依頼は安定して数があるので、駆け出しの魔法陣製作士にとっては非常にありがたい。

 ちなみに魔法陣製作料は国により価格が決められている。これは、例えば貴族のような者が地位にものを言わせて安く買いたたくのを防ぐためであり、魔法陣製作士を保護するための国の取り決めである。


「ロディ、君の力はこの冒険者ギルドに無くてはならないものになってきたな。君を採用した私も鼻が高いよ。」


 専属の話が終わり、ユースフはロディに話しかける。ユースフに褒められてロディはうれしかった。


「僕はギルド長に雇ってもらったことを感謝しています。僕がギルド長の為になっているのならばうれしいです。」

「うむ。君の働きを期待している。」


 ユースフの激励の言葉を背にロディは部屋を出る。

 今のロディには、様々な事がうまくいっているように感じた。自分の未来はこのままより良くなっていく、そう信じられるくらい順調だった。



 しかし、一人だけその前途が明るくない人もいた。


「・・・」

「・・・」


 ロディの目の前には暗く落ち込んだ女性がいた。名をナコリナという。


「・・・落ちた。」

「あ、あー。・・・残念だったね。」

「あーん、もう悔しい。今回は結構自信があったのに!」


 ナコリナは両こぶしをブンブン上下に振って悔しさを表す。ロディは自分が受かってる手前かける言葉が思い浮かばず、かわいく暴れるナコリナをただ見ているしかなかった。


「次こそは絶対受かってやるわ。ロディ、待ってなさいよ!」


 ビシッと指をロディに向けたナコリナは、ふと気づいたようにすぐに手を引っ込めた。


「ごめん、先に言うことがあったわね。ロディ、合格おめでとう。」

「ありがとう。」

「次は私が合格してみせるわ。絶対よ。」

「きっと出来きるよ。」

「私が陣士になったら、年上の後輩として先輩のロディをこき使ってやるわ。」

「・・・それ、逆じゃない?」


 なんとかナコリナを元気づけようと思っていたロディは、ふと思いついたことを提案した。


「もしよかったら、うちで夕食を食べないか?たぶんエマも喜ぶと思うし。」

「本当!?いくいく。エマの料理はおいしいんだよね。」


 もう何度かロディの家に来てエマの手料理を食べているナコリナは即答した。


「ロディの合格祝いなの?ひょっとして豪華な食事じゃ」

「もう一昨日やったから、今日は普通だと思う。」

「むー、残念。じゃあ今日はナコリナちゃん残念会で。」

「自分にちゃん付けするの?」


 ロディは、ナコリナが持ち前の明るさを取り戻してほっとしていた。今はカラ元気だろうが、すぐに元に戻るだろうと思った。


 そして「ナコリナちゃん残念会」は、「ロディ合格祝い」に負けず劣らず豪華な食事になった。

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