第22話 ロディ、魔法陣を考察する
試験後、ロディは修正ギフトの成長については誰にも話さず、ギフトと魔法陣とについて様々な確認をしてからにしようと考えた。
世間一般に広まっている魔法陣を「修正」ギフトを使って見てみた。そうすれば試験の時のように魔法陣に何か変化が見えるかもしれないと考えた。
すると、
「こんなに”間違ってる”箇所が多いなんて・・。」
ロディが修正を使って見たほとんどの魔法陣に”赤い線”が現れた。やはり試験の時に見たのは間違いではなく、ロディのギフトは魔法陣に間違いがあると主張しているのだ。
魔法陣に現れる赤い線は1か所どころではなく、4か所も現れたものもあった。初級魔法と呼ばれる「ファイヤーボール」などの攻撃系の魔法陣などにも”赤い線”は顕著に表れた。
赤い線は少し複雑な魔法陣ほど多く現れる傾向がみられ、逆にとても簡易な魔法陣、例えば「着火」などは赤い線は現れなかった。
この結果をしばらく考えた結果、ロディは一つの結論に至った。
「今の魔法陣は、発動はするが一部間違った部分がある。自分の修正ギフトで示される赤い線の魔法陣は、本来の『正しい魔法陣』なんじゃないか。」
150年前、魔法陣に関する法や規則が決まり、陣士制度が始まったが、その目的が『魔法陣を劣化させることなく、正確な魔法陣を後世に継承させる』というものだった。
これは裏を返せば、『魔法陣はそれまで劣化し続けていた』ということに他ならない。
魔法陣は古代文明の遺産だ。それは古代遺跡の石碑に刻まれた模様や奇跡的に発見された本などに描かれたものなどを読み取って、そのうち使える魔法陣だけを使っているに過ぎない。そして長い年月を経て、最初の魔法陣からズレてしまった。
全集が最初に作られたのは150年前。それまでに生じた魔法陣のズレはそのまま残っていただろう。そして魔法陣全集にはそのズレが生じたままの魔法陣が収められているはず。
ならば現在の魔法の機能や効果は、古代文明の時に使われた『オリジナル』の魔法より劣化していると考えられる。魔法陣の原理が分かっていない現在、そのズレを元通りに戻す方法はない。一つの方法を除いて。
その方法とは、ロディの「修正」スキルにより魔法陣を正しく修正するという方法。
そこまで考えて、ロディは怖くなって身震いした。
この仮説が正しければ、『古代文明の高性能のオリジナル魔法陣』をロディは復活できる、そしてそれはロディにしかできない、ということになる。
これは一見素晴らしくもあるが、同時に恐ろしくもある。
「1人だけできる」というのは良いことばかりではない。「1人しかできない」のですべて1人でやらなければならない。
権力を持つ者は、そんな能力を持つロディを黙って見てるはずはない。ロディを捕らえる、もしくは確保し、自由を奪ってしまうだろう。そうでなくても誘拐や暗殺などの危険がある。
そして、それから逃れることは平民のロディでは不可能だ。
悩んだロディは、結局ギフトと魔法陣の事は誰にも話さないことにした。
『自分の身の危険』もそうだが、そもそもロディには自分の魔法陣に関する仮説を確認する方法がないのだ。
「魔法陣の改変」が罪になるので、人にお願いして試してもらう方法はとれない。自分で試せればいいのだが、残念ながらロディは魔法を覚えることが出来ない。
本当ならば自分自身で試したい。たとえ「魔法陣の改変」が罪になるとしても、自分のギフトの有用性を、自分の仮説を、自分だけでもいいから確かめたい。けれど自分は魔法が使えない。魔法を覚えることすらできない。それは幸運なのか、不幸なのか・・・。
「悔しいなあ。俺が魔法が使えたら・・・。」
ロディは、あの鑑定の儀の日以来、これほど魔法が使えないことを悔しく思ったことはなかった。
ところが、ロディのその切なる願いは、のちに叶うことになる。
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