第21話 ロディ、ギフトに戸惑う

 ロディには、魔法陣に赤い線が見えていた。しかも3本も。


(魔法陣に赤い線!?これって・・・・間違っている場所なのか。)


 これはすごいことになる、とロディは瞬時に理解した。

 なにせ描いた魔法陣の間違っている所がわかるのだ。つまり間違った魔法陣を描いても、確実に、正しい魔法陣に修正できるということ。


(こんなことが・・・こんなすごいことが出来るのか。俺の修正ギフト、本当にすごいよ!)


 ロディは自分のギフトの可能性が一気に広がったことがわかり、有頂天になった。


(おっと、まだ試験中だ。描いた魔法陣に間違いがあるなら早く修正しなくちゃ。)


 あわててロディは自分の魔法陣に現れた”赤い線”を見なおす。

 3か所の赤い線は、1つは線と線とがつながっている部分が少しずれており、1つはおそらく線を書き忘れたのであろう、何も書かれていない部分に1本線があった。もう1つは、線の幅が足らないかのように一回り太く赤い線になっていた。


(この3か所か。お手本を見て修正しよう。)


確認のために、配られたお手本魔法陣と自作の魔法陣を交互にをみ比べようとした


しかし、ロディは突然そのまま動かなくなった。


(・・・・どういうことだこれは!?)


 ロディは見た。自分の魔法陣と同じようにお手本の魔法陣に1本の”赤い線”が現れているのを。


 ロディは混乱した。お手本に赤い線が現れるなんて、普通はあり得ない。お手本は正しい魔法陣のはずだ。

 しかしロディのギフトはお手本に赤い線を示している。


(お手本に赤い線!?いったいどうしてこんなことが。いや待て、落ち着こう。落ち着いて考えるんだ。)


 ロディは気を静めて、お手本に現れた赤い線を見る。それは何もないところに現れている1本の線だ。そばには2本の線があるが、その横に3本目の線が赤く引かれている。この線はロディの描いた魔法陣に現れた赤い線のうちの1か所と同じ場所だった。

 ロディの描いた魔法陣に現れている他の2か所を見てみると、確かにお手本とが異なっているのがわかった。お手本にはその2か所に赤い線は現れていない。


 ここで、試験終了時間が迫っていることにロディは気付いた。

(まずい。考えるよりも先にまず間違いの所を直さなきゃ)


 ロディはまず、お手本と確実に違っている2か所を書き直した。

 するとその2か所の赤い線は消え、残る赤い線は1か所になった。しかしその線は、お手本では描かれていない線だ。相変わらずお手本にも赤い線は現れたまま。


 ロディは悩んだ。


(ギフトを信用するなら、赤い線を描いたほうが正しいということになる。でもそれはつまりお手本が間違っているということになる。それって、本当なのか?)


 お手本の魔法陣は摩紙に魔法陣インクで描かれた『本物』の魔法陣であり、さらに発動できるかどうかを確認済のものだと聞いている。

 万が一、間違った魔法陣が手本になった場合、その魔法陣を手本にした受験生は不合格になってしまうから、当然発動可能な魔法陣が配られているのだ。だからこの魔法陣は間違いなく魔法が発動できる本物に違いない。


「・・・わからない。」


 ロディがつぶやいたところで、試験終了の合図が鳴り響いた。

 結局ロディは、お手本にも現れた赤い線は書き足していないまま提出した。


 試験官がお手本と受験生が描いた魔法陣を回収していく。

 それを待ちながらロディは考える。


 自分の『修正』ギフトは、文字や文章はおろか、魔法陣の間違いまで分かる優れモノだということだ。これまでその”指摘”は間違ったことはない。

 その素晴らしさは誇らしいが、今回は事情が異なる。


 正しいはずのお手本に現れた”間違い”を指摘する赤い線。自分のギフトは、この魔法陣に間違いがあると言っているのだ。

 このギフトは本当に正しいことを指摘しているのか、と疑問が生じてしまい、頭を振る。


(そんなことはない。俺のギフトは素晴らしいものだ。)


そう考えても、釈然としない思いが心に残ってしまうのだった。 


「よし、すべて回収が終わったので、受験生の皆さんは退席してもよいでしょう。試験結果は1か月後に手紙で連絡が来ます。」


 試験官から受験生への解散が告げられ、みな悲喜こもごもの表情で会場を出ていく。

 ロディも考えがまとまらないまま、仕方なく部屋を出る。


「ロディ、どうだった?」


 ロディを見つけたナコリナが素早く寄ってきて声をかける。


「私、今回は自信があるんだ。」


 ふふーん、とボリューミーな胸を逸らすナコリナ。


「俺も今回自信がある。」

「・・・ロディどうしたの?自信があるって言ってるわりにはなんだか浮かない顔してる。」


 ナコリナは元気のないロディを心配顔で見つめる。


「いや、別に何でもないよ。ちょっと疲れただけ。」


 ナコリナに気を使わせるのは良くない、とロディは思い、今はギフトの事は忘れることにした。


「そう?ならいいけど。ところでさ、今晩もここに泊まるでしょ。夕食一緒に行かない?」

「いいね、行こう行こう。」

「そうと決まれば急ぎましょ。いい店の席は試験終わりの受験生で埋まっちゃうよ。」


そう言って先に進んで行くナコリナ。

ナコリナの明るい笑顔に、心のもやもやが少し腫れた気がしたロディは、


「そりゃ大変だ。急ごう!」


と言って、夕方の雑踏の路をロディはナコリナを追っていった。

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