第20話 ロディ、陣士試験を受ける
ロディ16歳の秋の日、彼は『魔法陣製作士』試験、略して陣士試験を受けるためにメルク―の街を離れていた。
陣士試験が受けられる場所は王国全部で5か所。王都と各地方の主要都市4か所で、年に2回、一斉に行われる。
ロディが向かったのはその中の一つ、南部の中心都市ミズマ。
ミズマは四方から街道が集まり、ワンヤ川と呼ばれる大陸一の大河の水運も盛んな商業都市だった。大きさはメルクーの3倍、人口は5倍くらいで、南部の中核都市に恥じない規模だ。
ミズマはメルクーの街からは北に向かって馬車で1日の距離だ。朝にメルクーを出発した馬車は、夕方にミズマに到着する。
ロディは夕方にミズマの到着し、そのまま宿屋に泊まり、翌朝朝食を採ってから会場に向かった。
ロディが試験を受けるのはこれで3回目。すでに2回試験に落ちている。100倍以上の倍率なので当然と言えば当然だが、本当に狭き門だとロディは実感していた。
道行く人の中に同じように陣士試験に向かうと思われる人たちがちらほらと混じっている。
ロディはそれを見て気合を入れなおした。
「よし、今日こそは合格だ!」
ロディは気持ちも新たに前を向いて試験会場へ向かう。
すると、後ろからロディを呼ぶ声がした。
「ロディ、おはよう。」
声のほうを振り返るとナコリナが手を振ってこっちに向かっている。
「あ、ナコリナ。おはよう。ナコリナも受けるんだね。」
「もっちろーん。もう4回目だし、自慢じゃないけどベテランよ。」
ナコリナは笑って胸を張る。ナコリナはなかなかのボリュームだ。ロディは向きそうになる視線を無理やりそらせた。
「本当に自慢にならないね。」
「それは言わない約束でしょ!」
「いや、約束してないし。」
100倍の狭き門なので、5,6回受けに来る人はざらにいる。ナコリナの4回目なんて受験生では珍しくもないのだ。
「でもロディも来るとわかってたら、一緒の宿にするんだったな。残念、夕食おごってもらえたのに。」
「おごるなんて言ってないしなに年下にたかろうとしてるんだよ。」
「先輩の助言がありがたく聞けるのよ。夕食ぐらいケチケチせずおごりなさい。」
「自分より落ちてる回数が多い人の助言なんていらないよ。」
「うぐぅ・・・。反論できない。見てなさい、今回は受かってやるんだから。」
二人は試験会場への道を楽しく会話しながら進む。おかげでリラックスして試験に臨むことが出来そうだ。ロディはナコリナに心の中で感謝した。
試験会場にはすでに多数の受験生が席についていた。このミズマ会場では毎回150人前後の受験生が集まる。
「毎回思うけど、すごい人数だね。」
「でも王都はこの3倍くらいいるって話だよ。」
「うわ、想像できないな。」
王都は街の人口もそうだが、周辺都市の人口も格段に多い。3倍の受験生というのもうなづける。
「ま、どれだけ人がいようがやることは同じ。自分の力を出し切るまでだよ。お互い頑張りましょ。」
「そうだね。お互い頑張ろう。」
試験は筆記試験と実技試験の2つがある。
まずは筆記試験だ。二人はそれぞれ指定された席について時間まで待つ。
しばらくして試験官が会場に入室し、試験用紙が配られる。全部で10枚、かなりのボリュームだ。試験範囲は一般の社会知識から、専門の魔法や魔法陣の知識を問うものなど幅広く出際される。
「それでは始めなさい。」
試験官の声で、皆が一斉に試験用紙に向き合う。
ロディも苦労しながらも回答を進めていく。
ロディが四苦八苦してなんとかすべての解答を書き終えた。
(ふう、ここまで出来たぞ。よし、やるぞ)
実は今回の試験、ロディは”秘策”があった。それは・・
(ギフト発動!)
ロディは答案用紙に『修正』ギフトを発動させる。するとロディの目に赤い文字が浮かび上がってくる。
(よし、問題なく使えるぞ。・・・なるほど、ここの正解はこれか。あ、ここも間違っているのか。)
ロディは赤く浮かび上がったところ”正しい文字”に修正していった。
そう、ロディの秘策とは『修正』ギフトで答案用紙の誤答を見つけて訂正することだった。
つい2週間前、彼が試験勉強をしているとき何の気なしに『修正』ギフトを発動させところ、自分の書いた解答に赤い文字が浮かんでいる場所があるのを見つけた。
「あっ!」
と驚き、その場所の答えを確認すると、確かに間違っていた。
「そうか!ギフトを使えば筆記試験の正解がわかるじゃないか!」
ロディはこれまで勉強中には魔力を無駄に使わないよう『修正』ギフトをOFFにしていたため、その使用方法に気づかなかったのだ。
「俺のギフトで試験を突破することが出来るかも。いや、間違いなくできる!」
ロディは大喜びして部屋の中でガッツポーズしたり飛び上がったりして暴れまわった。エマがいれば「うるさい!」と怒って部屋に飛び込んできただろう。幸いその時エマはクエストに出かけて留守だったのだが。
ひとしきり喜びを爆発させた後、ふと冷静になった。
「でも、これってもしかしてカンニング??」
ギフト使用は不正になるかもしれないと気付いて、さっきの喜びが恥ずかしくなり落ち込むロディ。
しかし調べてみるとそれは杞憂だった。
魔法陣製作士の試験では、『魔法陣を”間違いなく”描けるギフトはむしろ魔法陣の改変を防ぐことが出来るため有益である。』と考えられている。
例えば「記憶」のようにいろいろなことを”記憶”できるギフトがある人が試験時にギフトを使うことは、問題ないこととなっていた。
ただし、会場外部の人と話ができる『通信』や他人の答案を見ることが出来る『遠見』のようなギフトは当然カンニングとみなされ、それらが出来ないように受験会場内で体の外に魔力を放出できない魔道具を設置しているらしい。
簡単に言うと、「自前のギフト使用はOK。他人の協力はNG。」ということだ。ということはつまり、ロディの「修正」ギフトは、試験に使用しても問題ないということだ。
ロディは、自分のギフトにさらに感謝するのだった。
ところで、先ほど例に出した『記憶』『通信』『遠見』のようなギフトはかなりレアなため持っている人は少なく、魔法陣製作士を受験する者はさらに少数である。
魔法陣製作士よりも有効な使い方があり、他の楽して稼げる仕事に就けるためだ。
◇◇◇◇
ギフトによる答案用紙の修正で、筆記試験の出来に満足していたロディは、引き続き実技試験に臨んだ。
こちらの試験では『魔法陣を正確に、素早く描く』ことが求められていて、ロディのギフトは役に立たない。
「これはギフトではなく、日ごろの努力の成果を見せるだけだ」
課題として配られた魔法陣は、一般に流布されている魔法陣より一回り大きく、かつ複雑だった。何の魔法陣かはこの時点では教えられていない。
ロディは細心の注意を払って一心不乱に正確に写し取っていく。
およそ1時間半を少し過ぎたころ。
「・・・完成だ。」
ロディは魔法陣を見事に描き写した。自分でも会心の出来だと感じる。
集中力が尽きて放心状態のロディは、椅子に背を預けてしばらくぼんやりしていた。試験時間はあと少し残っている。
ロディは疲れた頭で魔法陣をぼーっと眺めていた。
ふと、ロディの頭に「これに修正ギフトを使ってみたら何かあるかな・・?」と何の気なしに思いついた。
それは本当にふと思いついきで、確証があったわけではない。が、このことがロディの未来を大きく変えることになる。
ロディは「修正」を発動した。
「・・・・・・・!」
自作の魔法陣を見たロディは、驚きのあまり声をあげそうになって、あわてて口に手を当てた。
ロディには見えた。見えてしまった。
描いた魔法陣にくっきりと現れた、”赤い線”が。
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