第19話 ロディ、おこづかいを確保する
ユースフは新たな役職の業務についてロディに説明する。
「ギルドの書類の中には、王都への報告や他のギルドへの連絡など、他と比べて重要な書類がある。そういった書類のチェックを行い、間違いを見つけ訂正する、それが”文章校正担当”、つまり君の新しい仕事ということになる。
もちろん君のこれまでの仕事は変わらない。この仕事はそういった書類がある時だけにやってもらうことになる、いわば臨時の役職ということだ。」
新設の役職?王都への報告!?重要な書類?
ロディの頭は、急展開過ぎて頭が混乱していた。
(なんかすごい大変なことを言われてる気がする?いや、絶対そうだ。無茶苦茶重要な仕事を任されようとしている!)
「そ・・そんな大切な仕事、僕なんかじゃとても・・」
「大丈夫だ。この仕事には君のギフトが一番最適なんだよ。今日それが確認できた。」
ユースフはおもむろに後ろに立つアルメイダを振り返った。
「ここにいるアルメイダが、今日君に書類のチェックを頼んだだろう。」
ロディはアルメイダを見やると、彼は小さく頷く。
「はい。」
「実はあれは私が命じたのだ。君のギフトが有効であるかどうかを確認するためにね。」
「ギルド長が、ですか?」
「そう、その書類だが、実は王都に提出する予定の書類だったのだよ。」
「!王都に?」
ロディは驚きのあまり大声を出してしまった。確かに重要そうな内容だとは思っていたが、王都に提出するものだとは全く気付かなかった。
「あの書類だが、実はミスがあることは既に分かっていたのだよ。」
「・・・」
「君を試すようですまなかったが、今回の件を含めて丁度良かったのでやってもらったのだ。そうだな、役職の為の『試験』だった、ということにしようか。」
(そうだったのか。道理でほとんどつながりのないアルメイダさんが依頼に来たわけだ。)
「ロディ君、その試験だが、君は何点だったと思うかね?」
ユースフが笑顔で、それでいていたずらっぽく聞いてきた。
「え?何点だったかって、点数があったんですか?」
「ははは、もし採点するなら、だよ。」
「そうですね・・・80点くらいでしょうか。」
ロディは少し謙遜して自己採点したが、自分的には100点だという自信はあった。
しかしユースフの採点は意外だった。
「120点だ」
「・・・え?」
ユースフの採点は自分の心の予想を上回るものだった。
「実はな、あの書類の間違いがわかっているとは言ったが、我々が分かっていたのは2か所だったんだよ。」
「え、でも私のギフトでは3か所見つけましたが。」
「1か所は君が見つけたんだ。」
そこでユースフは後ろを振り向く。ユースフの意を理解したアルメイダは、言葉を継いだ。
「持って行った書類を見てもらいロディ君のギフトの能力のほどを知ろうとしたのですが、驚かされました。分かっていた2か所だけでなく、もう1か所の間違いを指摘してきたのですから。資料を受け取り、彼の見つけた1か所を確認し、そして確かにそこが間違いであることを確認しました。試験結果で言えば、間違いなく満点以上でしょう。」
最初はユースフに向かって語っていた彼は、言葉を切ってロディに顔を向けて言った。
「ロディ君。君のギフトは本当に優秀だ。あの時に言った言葉は、私の本心だ。」
「あ・・ありがとうございます。」
ロディは、真に心のこもったアルメイダの言葉に胸が熱くなった。ギルド長にも、その秘書にも認められた自分のギフト。ロディは自分のギフトを誇らしく感じた。
「では、ロディ。「文章校正担当」になってもらえるかね?」
「あ、あの、その前に質問があるんですが。」
ロディが役職について聞きたいことがあった。
「王都への書類ですが、機密文書なんかも含まれるのですか?」
「さすがに重要な機密書類は君に任せないよ。君にチェックしてもらう書類は我々が選別して、問題ないと判断した書類だけにする。」
「・・・本当に僕に役職を付けてもいいんでしょうか。まだ入って3年目ですし。」
「若いとかそんなことは関係ない。必要なのは能力だ。それに、君のこれまでの頑張りはみんな知っている。文句を言う職員など誰もいないだろう。君のギフトの力をギルドのために使ってくれたまえ。」
ユースフはロディの目をしっかりと見て言った。
『君のギフトの力が必要だ』そんな言葉を上司から言われて、うれしくならないわけがない。なにより、ギフトがギルドに貢献できるのはとてもうれしい。ユースフさんの信頼と期待に応えたい、とロディは思った。
「わかりました。やります。やらせてください。」
「うむ。では以後頑張ってもらおう。」
ロディの承諾で部屋は堅かった雰囲気が解けて、徐々に落ち着いた空気が流れだした。ユースフは後ろにいるアルメイダに何事か小声で指示している。
力が抜けたロディがアルメイダをなんとなしに眺めてみると、心なしか微笑んでいるように見えた。
ユースフといい、アルメイダといい、このギルドは良い上役に恵まれている、とロディは実感するのだった。
「ところで話は前後してしまったが、担当職の手当てを決めないといけないな。『文章校正担当』の手当は月に大銀貨3枚にしようと思う。」
「え、そんなにもらえるんですか?それに臨時職なのに固定給ですか」
「むしろ安いくらいだと思っている。それに臨時職ではあるが、そういった事務仕事は頻繁にあるから固定給にしても問題はないだろう。それに・・・」
「それに?」
「やった分だけ払うとなると、給料の計算が面倒だろう?」
ユースフはニヤッと笑った。
「あ・・ありがとうございます。」
ロディの給料は月にプラス大銀貨3枚に決まった。大銀貨3枚は今のロディの給金の5分の1くらいになる。妹と二人暮らしのロディにとっては結構な金額だ。
アルメイダが紙を持ってきてユースフに手渡した。一瞥し、ロディに向けてテーブルに置いた。読むと、『文章校正担当』を任命する、云々、と記載してあった。つまりこれが辞令書だ。
ロディはそれを受け取る。これでロディは正式に『文章校正担当』となった。
「さて、役職付きとなったロディ君のギフトを無制限に職員に使わせるわけにはいかないな。職員からの私的な依頼を制限しないとロディ君が過労で倒れてしまう。が、しかし無理にストップをかけてしまうと逆恨みしてしまうかもしれないな。」
「そうですね、どうすればいいでしょうか。」
「君のギフトは役職付きのギフトになった。このギフトを使うのだから、それに見合った”使用料”を取るようにしたらいい。そうだな、書類1枚につき大銅貨1枚。それがチェック依頼を受ける条件だ。このことはギルド長決定として全職員に通達しよう。」
ユースフは後ろを振り向いて再度アルメイダに指示を出す。彼は「承知しました」と一言言うと机に向かい、早速取り掛かった。
大銅貨1枚はパンが1個買えるくらいだ。大した金額ではないが、たくさんの書類を依頼するとさすがに高額になるので、一定の歯止めにはなるだろう。
チェックすることに料金を設定することでロディへの依頼自体を減らすことができるし、もし不満が出てもその矛先はロディではなくギルド長に向くことになる。ロディはギルド長の心遣いに感謝した。
「それから、これは昨日君がやったチェック費用だ。」
そう言ってユースフは小銀貨1枚をロディに渡す。書類10枚分の依頼料だった。
「これは、今回の取り決めの前の事じゃないですか?」
「心配いらんよ。あの書類にはそれ以上の価値があったのだ。遠慮せず受け取り給え。」
「・・・ありがとうございます。」
ここで無理に遠慮しても失礼になると思い、ロディはありがたく小銀貨を受け取った。
以後、ロディへの私的な書類チェック依頼は激減した。しかし完全になくなったわけではなく、1日2~3件くらいは依頼される。これは、ロディのちょっとした小遣いになるのだった。
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